【第23話】 邂逅夢
眠っている?
起きている?
半分起きている、が正確な感覚であろうか。
そんな状態がふわふわと続く。
ぐいっ、と何かに摑まれ、引っ張られる。
わっ!闇の中を高速で移動しているみたいだ!
ふっと意識の焦点が合うと、目の前にゴブリンのお爺さんと、綺麗なお姉さんゴブリンが二人で将棋をしていた。
なんで将棋?混乱する私。
周りを見ると、大きな池があり松や紅葉などが綺麗に配置されている。
ゴミ一つ無い清掃された風景が広がる。
あ、これ日本庭園だ!ここどこ?
混乱は大混乱になる。
池には鯉や亀がゆったりと寛いでおり、空は突き抜けるような青空だ。正面には富士山を模した山が作ってあり、松の木が雲を思わせるように配置されている。
なにここ?生前の記憶?こんな庭園見たことあったかしら?
あれ?私、亜紀だ!ゴブリンじゃない!
見慣れた手、見慣れた足だ!
……。
眼鏡は?
眼鏡は無いけど目が見える!
私はゆっくりと手を頭に伸ばした。
!
か、髪がある!?
え?引っ張ると痛い!
なんだこれ?あ、これ夢だ!それも超リアルな!違うかな?
自覚夢ってやつか?
「おしい、これは確かに夢だが、邂逅夢というやつじゃ」白いお髭がとても長い、お爺さんゴブリンが言う。威厳に満ちたしっかりした声だ。
邂逅夢?
聞いたこともないぞ!?
「そう、私達はあなたに伝承された記憶の住人。あなたの言葉で言うと、残留思念かしら」パチリと駒を指しながらお姉さんが言う。
「わしら、代々の思い、念は、更に多くの記憶に埋もれ、消えてしまうと思っていた。だが、お主に記憶が移った瞬間、わしら二人に統合された」
「私の脳内住人?」
「そんなところだ」
「私が脳内シミュレーションするとき、手伝ってくれて、判定してくれる存在?」
「そうよ」
「あたりじゃ」パチリと今度はお爺さんが駒を指す。
「これまで、思いを残しながら死んでいった者達。魔族に捕まって人族の研究所で酷い目に遭う、短い寿命、自分の意思さえも縛られ、逃れられない苦しみ、いいことなんて、これっぽっちもなし、酷い一生よ。なによ、この人生。知らない土地に連れてこられて、孤島に封印されるように幽閉されて、そんな思いが蓄積され種になった。この種は芽が出ることなく、記憶の湖に沈んでいく、はずだったんだけど、玲門があなたに記憶を移した瞬間、目覚めた」
「ワシらは子供や孫、子孫が心配での、思いは募る一方じゃ。このままでは皆、無残に死んでしまう、不憫でのう」
お爺ちゃんは心配性?でもこんな状況じゃ心配するのは当然か?
「まさか、異界の記憶を持つ者の脳内で、目覚めるとは思はなんだ」
「目覚めたからには、何らかのアドバイスをしてあげたいの、彼らに。勿論あなたにも」
「そこで相談じゃ、ワシらの遙か昔から続く記憶、知識、この経験値を全てお前さんにやる」
「そのかわり、彼らを手助けしてほしいの、どう?」
「酷い未来しか見えぬのだ、手を貸してくれ」
酷い一生か、まどかや田崎さん達に会えた私の一生は、少しは報われていたのかな。遠い世界にいる思い出の人達。
「正直に話すと、残留思念とは聞こえはいいけど、言い方変えれば、私達はこの世に執着し未練の塊になっている怨霊みたいなものよ。子孫が心配で、子孫に執着している……」
「怨霊か……怖いな、でも手助けでいいの?」
「ああ、手助けで十分じゃ。死に繋がるひどい、いじめに遭っている彼らを手助けしてくれないか?一言、声を掛けるだけでもいいのじゃ」
いじめか、そう言われると断れないな。私だって人を、世界を恨み、滅ぼそうと画策していたしね。
「いいよ、フォローはお願いね」
「わかった、夢の中でしか会えないが、わしらの経験、知識、全てをお前に譲る。アドバイスしよう」
「夢の中……お話も?」
「ああ、目覚めているときは雑念が多くて会話は多分無理じゃ。お主の魔力や精神がレベルアップすれば別じゃがの」
さて、約束はしたが、これって怨霊が憑依するってことかしら?それとも守護霊的存在になるのかしら?
「私は二人をなんと呼べばいいのかしら?」
「ワシはローローじゃ」
「私はネーネーと呼んでください」
「目覚めると、ワシらのことは半分も覚えておらんじゃろうな。じゃが潜在意識は覚えておる。心の声に耳を傾けろ、忘れるなよ……」
返事をしようと、口を開けた瞬間、場面がかわった。
「!」
真っ暗である。
「え?」
落ちているのか、上っているのか、分からない。でも移動の感覚はある。
これ、この感覚以前どこかで……どこだっけ?
あ、怖くなってきた。
感覚はだんだんと鋭くなり、私は悲鳴を上げた。
「ま、まどかあああっ!たさきさあああん!お、お兄ちゃあああん!」
どのくらい眠ったのであろうか?篝火は煌々としているが、話し声は聞こえず、見張りのゴブリン以外は皆眠っているみたいだ。
このゴツい燭台はドワーフさん達から借りたモノだ。非常に重く、扱いづらいが耐久性はとんでもなくありそうだ。
あ、見張りのゴブリンさんが山の方に向った。トイレかしらん?
リリ、リリ、虫の音が遠く近くに聞こえる。村を失ったゴブリン達を慰めているようだ。怪我をしたゴブリン達はどうなったのだろう?ちゃんと治療できたのかな?
視線を感じ、目を動かすと、槍の戦士さんと目が合った。
おばばさまの護衛のゴブリン。あまりいい印象はない。
私の周りにはお母さん、レイモンお姉さんと美観お姉さん、お兄ちゃん、据わったまま寝ているお父さん、風の戦士コロさんに、おばばさまがいた。皆眠っているように見えるが?コロさんは起きている?かな?
「ゴブ?起きたのか」
そう聞いたのはもう一人の槍の戦士さんだ。
「少し、話をいいかゴブ」
「……」
さて、どんな話なのだろう。
次回投稿は2022/07/02を予定しています。
サブタイトルは 戦士の心得と槍使い です。




