【第20話】 つい、言っちゃった
朝刊です。
羽ばたく音が、頭上より聞こえてくる。
次々に舞い降りるペガサス。
その数13頭。
最初に舞い降りたのは赤髪の騎士。
ニトお父さんだ。
他の騎士達は金属の鎧だが、ニトお父さんだけ革の鎧で軽装だ。
後から聞いた話だが、他の騎士さん達の鎧も、金属だが、ペガサスに負担を掛けないように薄くて軽く、中空に作ってあるそうだ。
ニトお父さんのペガサス以外は、きちんと並んでいる。
改めてみると……大きいなぁ。
ペガサスも、胸の所と、お腹、頭部、鎧が装着されている。
ああ、これ、部分的に純鉄にしたら、軽くできるのでは?
ペガサスさん、重そう。
徐々に騒ぎ出すペガサス。
ん?なんだ?
猛獣の存在に気がついたのか、ペガサス達は騒ぎだし、軽く後ろに下がる。
「な、なんだ?どうした?」
「まだ、何かいるのか!?」
あ、ニトお父さんは黒豹に、気がついたみたい。
ん?ちょっと笑った?
そして、ア・ダウ先生を見ると、目つきが変った。
さっ、とペガサスから下りると、足早になる。
「先生、これは!?ティーどうだ?」
「ニトも看てくれ、頬骨が折れているみたい。王都に急ぎたい」
「え?私、骨折しているの?」
「先生、静かに、直ぐに運びます」
が、そうはいかない。
刃物に囲まれているのだ。
「これは、なんだ?学生相手に抜刀だと!?」
一際鎧の意匠が凝った騎士が、馬上から叫ぶ。
「騎士団『翔』の皆さま、聞いて下され!」
媚び媚びだ。
揉み手をして、すり寄る騎士。
わぁ、初めて見た、揉み手する人。
いるんだ、こんな人。
「彼の者達は、犯人の引き渡しを拒むどころか、抵抗を!」
さて、なんと答える?
「誰が犯人だ?」
「え?そ、それはあの者達5名です!」
「我々の任務は学生の保護、異常飼育ワームの討伐、この二点」
「……」
あ、何か考えている?
「では騎士団『翔』、任務達成ですね、お引き取りを」
うわっ!こいつ何者?こんなんが騎士?
抜刀しているよ?
「王都まで護衛する、それで任務完了だ。剣を納めろ!馬鹿者共!」
「いえ、ここは我々、王都警備隊にお任せあれ」
確保とか、引き渡しとか言っているのに?お任せあれ?先生殴って?
こいつ、おばかの極みか?
で、騎士団『翔』は任せるの?まさかね。
「負傷者がいるようだが?」
「抵抗致しましたので、つい」
「護衛対象を傷つけるなど、言語道断!死罪だぞ!」
そう言って剣に手を掛ける。
倒れていた二人の騎士が、ゆっくりと起き上がり始める。
各所、鎧に填め込まれた魔石が、不気味に光り始める。
騎士団と警備隊の睨み合いだ。
私は声を上げた。
「ア・ダウ先生、先を急ぎましょう、私達が護衛します」
「え?」
「他にも重傷者がいる。先を急ぎましょう」
「まて、そこの隻眼、逃がさんぞ」
隻眼?ああ、私のことか。
「5人を渡せ!そうすれば無礼は不問にしてやる!」
切っ先を私に向けての物言いだ。
ぷちっ
「剣を向ける相手が違うだろう?お前らが、騎士?王都の騎士は、たいしたことないな」
「我らを侮辱するか!」
「尊敬はできないよ?わけは、おわかりでしょう」
「はあぁ?お前の目は節穴か?醜いツラしやがって!」
ブチッ!
近くにいた騎士達が、一斉に5人目掛けて斬りかかった。
どうしても生きていてもらうと、困るようだ。
ペガサスに騎乗していた騎士達も参戦し、王都警備隊を斬り伏せる。
あの小さな騎士は一瞬にして、騎士団『翔』の団長らしき人物に斬られていた。
暗闇から躍り出る黒豹、北のゴブリン達、フーララさん、一撃で鎧ごと破壊するミミお姉ちゃん。
警備隊はおよそ、一分も保たなかった。
彼らは、買収されていたのかな?
魔力で強化していたのか、倒された警備隊の隊員達は次々に魔力還元していく。
「改めて聞こう、その5名、どうされる?ア・ダウ先生?」
ああ、やっぱり、この5人は怪しいではなく、今回の襲撃の関係者、確定なんだな。
この人、何か情報を握っているな。
先生が応じる前に、答えを出した者がいた。
「我が名はエノン!この者達5名は王都孤児院、第二芯愛園にて預かる、騎士団、手出し無用!」
「学生を預かると?」
「この者達の腕を切り落としたのは、獣人族、シュート家のミン。またワームの口より救い出したのは、うちの夫、シュート・明季。我々獣人族はこの者達に対して命を救った責任がある」
「命を救った責任とは?」
「拾った子猫は、死ぬまで面倒をみなければいけない、途中で捨てることは許されない」
「ほう……分かった、シュート家のエノン。我々は上空から見守るとしよう。ニト、お前は学生だ、クラスメートに付き合うように、いいな?」
「……はい、団長」
……エノン?エノン!?エノンさん?
何か、引っかかること、言いましたよね?
うちのおっと?
その件については、保留って、言ったよね?
うち、まだ早いとか、何とかいったよね?
恋人すっ飛ばして、婚約者すっ飛ばして、決魂もすっ飛ばして、うちの夫?妻を名乗ったわけ?
おおおおおおおい!無性に遠吠えしたくなったぞおおおおい!
なに、しれっと夫?え?いいの?それって私から言えば妻だよ?
悶々としていると、凄まじい視線を前方より感じた。
あ、コロ叔父さん、そんなところにいたのね。
エノンが近づいてくる。
リチをお姫様抱っこして。
「……あ、あの、明季くん」
「はい?」
「ご、ごめんさいっ!」
なんと答える?
「う、うち、リチちゃん、抱っこしていたら、どうしても守ってあげないと!と思えてきて……」
獣人族の本能かな?
清掃員さん、言ってたな。
私が虐められて、怪我したとき、子犬が寄ってきた。
この子犬、側をはなれない。
孤児院まで付いてきたのだ。
「怪我をしている、弱っている、と分かるのですよ」
「そうなの?」
「ええ、動物は怪我をした相手を見つけると、食べようと思うか、心配するか、の二つですよ」
「私は、よく無視されるけど?食べられた後だから?」
「……本当は心配しているのよ、気づかないだけです」
私は誰も気づいてくれなかった。
でも、リチはエノンが気づいた。
エノンに捕まった?
この捕まった、という考えが気に入った。
ああ、リチはエノンに保護ではなく、捕獲されたのだ。
「ご、ごめんなさいっ!明季くん……う、うち、つい、言っちゃったの!」
涙目で謝るエノン。
人族に掠われて、酷い目に逢ったエノン。
きっとあの5人の気持ち、少しは分かるのかもなぁ。特にリチ。
「いいよ、エノン。私、嬉しかったよ」
ま、夫と言われて、ちょっとニヤけたしな。
え?ありますよ、この世界にも、同性婚。
次回配達は 2023/03/05 朝7時の予定です。
サブタイトルは 王都へ、でもその前に です。




