【第22話】 会議は眠たい
「それでは素手で魔獣を倒したのか?」
驚くおばばさま。
頷く私達。
響めく周囲のゴブリン。
「3匹目は、雷の魔法で倒したゴブ」
私が正直に答えると、周囲は更に響めいた。
しかしイヤだなぁ、人前で話すの苦手なんだけど。なに、この人の集り!
皆の視線が痛いし、怖いよ。
それに槍の戦士さん、なにかと絡んでくるし。
「ゴブ?雷だと?イカズチは初期の攻撃魔法ゴブ。使い手は少ないが、魔獣の鱗は雷程度弾いてしまうゴブ!鱗は本物だが、やはり信じられんゴブ。偶然、寿命か病気、もしくはバグで死んだのではないのか?そうであろうゴブ。奴らだって生き物だ、いつかは死んでしまうゴブ、運が良かっただけだゴブ!」
人もゴブリンも変わらないな、信じたいモノしか信じない。
喩え目の前で私が再び魔獣を倒しても、このゴブリンは認めないだろうな。こんなヤツ、どうでもいい。
私には自覚がある。
あれは私、個人の力で倒したのではない。
子孫や戦友の目の前で魔獣に挑み、死んでいったゴブリン達。彼らが残し伝えた技や戦略の数々、その記憶が無ければ到底魔獣は倒せない。
この記憶の蓄積があったからこそ、ラグナルは倒せたのだ、断言できる。
このゴブリンだって、先祖からの記憶が有るだろうに。
ゴブリン戦士は何のために戦っているのだ?
今は、疲れ切っているお母さんや皆を、より安全な場所へ、ドワーフの砦に入れてもらえるように、しなければいけないのに。
あ、気合いが入った?きっと家族のことを思ったからだ。
家族のため、頑張らなければ。
私の家族、前世では欲しくても得ることができなかった家族。
優しいお母さんとお父さん、可愛いお兄ちゃん。
保育器を叩き壊した男とは、えらい違いだ。
あ、怒りが混じってきた?
「私と話がしたいなら、それでいいのではないのかゴブゴブ?何か問題でもあるゴブ?そうだな、例えば1年生にも満たないゴブリンが魔獣を倒すなど信じてもらえない、とかゴブ?結果、砦に入れてもらえないとかゴブゴブ?」
顔色を変える、おばばさまと、両脇の戦士達。
ざわめき出す周囲。
「ゴブ?私の代役でも立てるつもりかゴブゴブ?嘘は必ずばれるぞ」
思わず言葉に凄みが入る。
その言葉に反応してか、両脇の戦士達が固まる。図星か?
あ、村長と呼ばれていたゴブリンさんだ。
「素直に優るモノはないゴブ、リュートの子よ、ありのままを話せ。それでダメなら砦の近くに、村を作るゴブ。しかしニトよ、お前の息子、生まれて間もないとは思えん口上だなゴブゴブ。魔獣は倒すし、ここまで覚醒するとは、余程レイモンとの相性がよかったのだなゴブゴブ」
レイモンさんとの相性?記憶の相性か?
ごく自然にレイモンさんと目が合う。
耳まで真っ赤になり、顔を背けるお姉さん。
?
あ、そういえば私、この女性と口づけを交したんだっけ。
柔らかい唇だったな。
……ん?あれはファースト・キスか!?
いや、あれは血を吸い取るための行為であって、キスといえるのか?
キスというならば、血の味のファースト・キス、過激だ……。
周囲の目が自然、私とレイモンお姉さんに集まる。
相性がいい?記憶のことだよね?
もじもじするお姉さん。
!
そ、そ、村長さん、その言い方、誤解を招きます!セクハラですっ!
ま、まどか!不可抗力!不可抗力だよ!
なぜか私は全力でまどかに謝った。ここにいるはずのない、まどかに。
私が一人、わたわたしている間も会議は進む。
「村を作るだと?しかしそれでは……ゴブゴブ」
槍の戦士が口籠もる。
村長さんは、槍の戦士を一瞥し、話を続ける。
「確かに人族の襲撃に備えるには、少しでも数が多い方がよいゴブ、だが……だが我々は施設から逃げ出すとき、彼らを見捨ててゴブリン族だけで逃げた事実があるゴブ」
え!何ですと!そんな記憶、ないよ!?
「エルフに咎められ、施設に戻ったが、時遅し、大勢のドワーフが死んでいたゴブ。殺したのは兵器と化した我らの同胞だ」
「それは先祖の話だろうゴブゴブ」
「我々は、仲間を見捨てたりしないぞゴブ」
「戻って助けたではないかゴブゴブ」
声が、次々に挙がる。
「我々は世代が変わり、当事者は、おばばさまとエルフ以外は皆鬼籍に入っているゴブ。施設からの脱出を知るものは、記憶の継承者とエルフ、おばばさまだけだ。だがドワーフ達は違うゴブ。彼らは当事者だ。我々が思っている以上に溝は深いゴブ」
話し合いは続いたが、私がドワーフに会うという条件は変わらないのだ、鉄の砦に入りたかったら条件を呑むしかない。
何が心配なのだ?
私か?これだけの人数、纏まる?それぞれの意見があるはず。
全員一致の公式なんて無いよ。
私はお母さんや家族、お姉さん達をどうにか助けたいと思う一心で、全力で挑んだ。結果、注目を浴び代表者に選ばれそうだが仕方あるまい。
選んだのはドワーフさんだ。まあ、出来るだけのことはしよう。
難攻不落の魔獣を倒した……か、とんでもない力には、とんでもない責任が付きまとう、ということか?
私の思考は会議を離れ、ドワーフへと向った。
どんな感じなのだろう?私達より大きいのかな?金属って鉄以外にも色々あるし、どんな加工をしているのだろう?
色々考えているうちに、何時しか私は寝てしまった。眠いから寝る、理だよね。
そして私は夢を見る。
それはとても不思議な夢で……。
次回投稿は2022/06/29を予定しております。
サブタイトルは 邂逅夢 です。