【第16話】 利益が全て
おはようございます。
朝刊です。
揺れる大地を、獣人族の絶妙なバランス感覚で滑るように走り寄る。
「明季、ブーメラン貸して、俺、武器携帯していないんだ」
「ほい」
「おお、ありがとう」
「そのブーメラン、先端がナイフみたいな刃物だから注意してね」
「了解。誰だい?こんなん作ったの?美意識がないなぁ刃物だなんて」
ミンお兄ちゃんは独特の感覚がある。
もう少しだ、でも、あの5人、何故動かない?
「何しているの!速く森へ!」
「……」
「どうしたの?」
「なんで、なんで俺達まで、ドロトン、脅すだけだって」
「そうよ!危険はないって!」
「どうして私達がこんな目にぃ!きっとあの獣人族達が来たからよ!みんな彼奴らが悪いのよ!」
!
何?脅す?危険?
ミンお兄ちゃんをチラ見する。
「おい!聞いているのかっ!」
ミンお兄ちゃんの怒号に、ビクッと反応する5人。
「お前らのせいだからなぁ!」
「訳は後で聞く!速く!」
「う、動けないんだよぉ!ここから!」
「なんで動けないのよ!腕が、腕が固定されちゃってぇ動けないの!」
喚き散らす女子生徒。
なんとも不思議な現象が起こっていた。
女子二人、男子三人の肘が、くっついているのだ!
「魔石を外せ」
冷静に対応する、ミンお兄ちゃん。
「外せるなら、とっくに外しているっ!」
「お守りだって言っていたのに、なんでこの魔石、守ってくれないのよ!」
「違うわよ!ここにいれば生き残れるのよ!私達!ここだけ安全だから、動けないのよ!お父様の魔
石が、必ず守ってくれるわ!」
いや、違うと思うよ?
現に、あなた達、飛び散った岩石やら木片やらで、泥だらけの、血だらけじゃない?
鈍く輝いている、腕のブレスレットに組み込まれた魔石。
5人とも、動けないとは?魔石が、この空間に固定されているように見える。
呪縛?もしかして何らかの口封じでは?
地震は更に大きくなり、大地が盛り上がり始める。
巨大な触手が2本、大地から這い出してくる。
「ひっ!な、何で動けないのよおおおっ!あんた!助けに来たんでしょう!?どうにかしなさいよ!死ぬのはいやああっ」
さくっ。
「ひっ」
ミンお兄ちゃんが、叫んだ女子の腕を斬る。
「うぎやああぁあ、あ、あ、あう、腕、あたしの腕!」
斬られた腕は魔石を中心に空中に浮いている。
「時間が無い」
そう言うと、次々にブーメランで残り4人の腕を切る。
空中に浮かぶ5本の腕。
肘で繋がっているその腕は、奇怪なオブジェのようだ。
なぜ浮かんでいる?
いや、それより脱出が先だ。
「傷口は焼いている、出血の心配は、今のところない!とにかく走れ!」
「うで、私の腕!」
「死にたいのか!?走れっ!」
「死んだがほうが、ましよっ!指輪、私の指輪っブレスの魔石!どうしてくれるのよっ!」
取敢えず、この人担いで走るか。
担ぎ、引きずり、蹴り飛ばし、ミンお兄ちゃんと二人で5人を引きずるように森へ向う。
二匹の巨大ワームは、切断されて腕の所まで来ていた。
北のゴブリン達の猛攻に耐えながらの移動である。
魔石を確認するかのように、長い触手で斬られた腕に触れ始めた。
何をしているのだろう?何かの確認か?
魔石に触手が触れた瞬間、魔石は砕けちり、腕がボトリと大地に落ちる。
何にしろ、もっと遠くへ逃げなければ!
ワームは明らかにこの五人を探し、狙っている。
ほら、こっち来た!
うわ、悪夢みたいだ。バキバキを大木を折り、大地を揺るがし迫るワーム。
(ホッシーだ!あと少しで西に向った騎士団が駆けつける!それまで逃げ切れ!)
西?騎士団?もしかしてニトお父さんが参加している騎士団かしら?
「おい獣人!お前らよくも腕を切り落としたな?覚えていろよ?」
「いいか、ただでは済まさないからな!知っているのか?俺達に親がどれだけコストを掛けているのか!」
「なんで連れてきたのよ!私達はあそこにいれば安全だったのよ!」
それは間違いだと思う。
「コスト?金の計算、利益が全てか?」
ミンお兄ちゃんが質問している?
速く、少しでも遠くに逃げようよ!
「全てだよ!そんなことも分からないのか?」
「お前ら、友人を利益として見ているな?リュートさんやあのドワーフが邪魔だったか?親に何と言われた?それでいいのか?」
「……価値が全てなんだ、己の利益以外、何が必要なんだ?」
「明季、こいつら助ける価値あるか?俺達に、何も利益がないぜ?」
「ミンお兄ちゃん、意趣返しはやめて、あまり好きじゃないんだ、それ」
「置いていこうぜ、こいつらトラブルの元だぜ?今回の襲撃、こいつらが仕組んでいるぜ?」
「僕たちじゃない!」
「断じて違う!」
抗議の声が上がる。だから、もっと速く走らないと!
ほらっ!後ろから死が迫ってきているって!
「じゃ、誰だ?お前らも利益還元されそうなのに、何故気づかん?」
「お父様は言った!私達だけは安全だって!」
「喋らないで!舌を噛むわよ!」
だから、担いで走っている私のこと、少しは考えなさい!
左右の肩に一人づつ乗せての走行、舌噛むって!
しかし根拠が親の言葉のみ?
「証明してみせるわ!」
突然暴れ出す女生徒。
「わっ!そんなに!」
そんなに動くと、落ちちゃうよ!
突然の動きに対応しきれなかった。思わず落としてしまう!
どさっ!
「ぎゃう」
かなりのスピードで走っていたのだ。
振り向くと、落ちた生徒はワームへ向って走り出す。
「なんだ、あいつ、走れるじゃん」
おおお、お兄ちゃん!そこじゃないでしょう!
次回配達は2023/03/02の予定です。
サブタイトルは 呪縛 です。
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