【第9話】 その日の夜
おはようございます。
朝刊です。
「フーララさん、来てくれたんですね」
「ゴブ、取敢えず一人ゴブ」
(ホルダー阿騎、王都、北のゴブリン達も待機している、いつでも呼べ)
「使うか?」
ミミお姉ちゃんはブーメランを見せた。
「使う」
ブーメランを渡すとき、指が触れた。
(魔力感知は使えるが、念話がうまく使えん。レイランが言うには、魔力感知は周囲に広がる感覚、念話は相手に向う直線的な感覚だそうだ。この直線を妨害しているらしい)
(そこまで解析したの?レイランお姉ちゃん!?)
(そこで、全体に広がるように、念話をつかうと、繋がるらしい。だいぶ消耗するらしいがな)
(え?でもそれって、皆に聞こえるよね?)
(そうなるな、試しているか?)
(今はやめておくよ)
(敵の殲滅より、生徒のガードがメインでいいのか?)
(うん、お願い、ミミお姉ちゃん)
(それと、北のゴブリン達は念話できるぞ)
(え?会話できるの?)
(レイランが言うには、あれは念話ではないそうだ。繋がりも強くなっていくらしい)
繋がりが、更に強くなる?……元々の原因は私だけど、私だけか?
北のゴブリンで、通信網ができる?今度、シルバーっち辺りに、相談してみようかな?
ん?
……おい、あれ……鬼猫?
え?本物?
うわっ!本物だぞ鬼猫!サ、サインほしいかも。
生徒達の声、ミミお姉ちゃん、人気者?しかしサインとは?
「よう、明季、念話が切れたから季羅父さん、うるさくてね、来たよ。ん?いい匂い?美味しいお肉の匂い?」
ミンお兄ちゃん、ここまで来てお肉?
それに、コ、コロ叔父さん?エノンも!
「コロ叔父さん!引退したんじゃ……」
「傭兵団は引退したぞ、現役は続行だが?」
「……」
コロ叔父さんの後ろにさサッと隠れるエノン。
上目遣いに私を見ている。
あ、眼を逸らした!
先生はどうしたの?ここは危険なところだよ?まあ確かに強いけど。今まで通りと思っていると、命を落としかねないんだけど?
「エノン……」
「う……」
隠れて出てこない。
「怒っていないよ?エノン?」
「……ほんと?」
「ほんとだよ、なぜ怒る?私が心配で、迎えに来てくれたのでしょう?」
こくこく。
「お、遅いから、うち、心配で、心配で……」
と、ここまではエノンといい雰囲気だった。
「エノちゃん!?どうしたの!」
え?リュートさん?
「リューちゃん!心配したよ!」
はい?エノン?
ひし。
あ、抱き合った。
「傭兵団、抜けたって聞いたけど、怪我でもしたの?心配したのよ!」
「ご、ごめんね、リューちゃん、うち、相談しようと思ったんだけど」
私は、何を見せられているのだ?
母と妻の抱擁?それを見ている1歳に満たない女の子?
リュートお母さん!エノンは私の大事な妻(元)なの!
(作者注*エノン(元妻)を抱擁していいのは私だけだ!と主張する阿騎(元夫))
エノン?リュートさんは私のお母さんなんだよ!
(作者注*お母さんが、別の子供に優しくしているのを見て、嫉妬する、ちっちゃい子)
なんなんだ!
この関係は!?この感情!この絵は!
まさにカオス!
あああああっ前世の記憶!邪魔だ!邪魔でしかないっ!
「どうした明季?リュートに嫉妬でもしているか?」
「いやコロ叔父さん、エノンに嫉妬じゃないの?フフッ」
コロ叔父さんとミミお姉ちゃんが、静かに笑う。
両方、当たっているのが悔しいっ!
「明季、寝ておけ、見張りは俺達がする」
「え?でも、コロ叔父さん……」
「まかせろ、ホルダー阿騎ゴブゴブ」
「私も、簡易結界を張りますのでゆっくり休んでください」
そう言ったのは、ア・ダウ先生。
結界?
「先生は?」人族?人族の匂いなんだけど?
「私はクオーターエルフよ」
!
え?悲しい匂い?フェロモン?
あまり話したくないようだ、聞かないことにして、さらりと流そう。
「生徒達はどうされるのですか?」
「班分けしていますので、それぞれのチームで結界を張り、見張りを立てます」
「二重結界?」
「そうですね、チーム同士の連帯もできていますので、ある程度は戦えますよ」
では、お言葉に甘えまして、少し寝るか。
ゴロリと大地に寝そべる。
獣人族は氷点下の氷の上でもスヤスヤと、寝てしまう。
とてもタフなのだ。
私が寝そべると、右側にエノンが座った。
「うちもここで寝るね?」
え?
「寒くないの、エノン?」
「満月期の余韻で、うち、まだ頑丈だよ」
「私も、お邪魔します!」
え?
「リュートさん?」
リュートお母さんは私の左側に座った。
毛布らしきモノを纏い、寒くはなさそうだ。
「阿騎ちゃん、エノちゃんと知り合いだったのですね?」
「ええ、まあ……リュートさんもエノンと?」
「ええ、でもエノちゃんたら、傭兵のお仕事をしているから、親しい友人は作らない、話さない、とか言うのですよ、ねえ?」
「リューちゃんは人族だし、巻き込んだら大変と思って」
他愛もない会話が始まる。
ニコニコ笑うエノン。
獣人族の私達を気遣うリュートさん。
「だから、頑丈なんよ、寒さ平気なんよ」
「見た目が寒そうなの!」
エノン、楽しそう。
私の両サイドに、大好きな人達。
これは幸せ、というヤツでは?
ああ、この二人は、私にまどかを思い出させる。
見上げると、落ちてきそうな星の空。
本当に、この世界の星空は綺麗だなぁ。
辛いこと、苦しいこと、それ以上に嬉しいこと、楽しいことがあればいいのに、と誰かが言っていたな、誰だったろう?
いや、もっと、簡単な言葉だったかな?
でも、辛いこと、苦しいことの記憶は、増えることはあっても、消えることはないんだよなぁ。
……右にエノン、左にリュートさん。空には綺麗な星達。
嬉しいな。
家族じゃないけど、家族?
壊れた記憶の中の私が、少しだけ癒やされた気がした。
次回配達は 2023/02/26 朝7時頃の予定です。
サブタイトルは 灰色の霧 です。




