【第20話】 転生はしたけれども、前世の記憶が邪魔をする
転生はしたけれども、こんなにも前世の記憶が邪魔だとは。
前世の記憶がなければ、はいゴブリン、はい男の子、でお終わりではないか!
必要以上に悩むことなど、ないのにっ!
「ん?」
目を覚ますと、お母さんが私を抱っこしていた。どのくらい眠っていたのであろうか、辺りはもう薄暗くなっている。
「何人たどり着いたゴブ?」
周りが騒がしい、今日はここでキャンプだろうか?周りの人達の声が耳に入る。
「68ゴブ」
「重傷が12、こいつらは、朝日は拝めるかなゴブゴブ」
「……」
「ゴブ、魔獣を倒した者がいると聞いたが、本当かゴブゴブ?」
「あれ、見てみろ。何だと思うゴブゴブ?」
「ゴブ?」
「魔獣の鱗だゴブ。それも3匹ぶんだぞ、焼け焦げて溶けている鱗もある、ドワーフのいい土産になるゴブゴブ」
「魔獣の鱗?3匹?信じられんゴブ、仕留めたのは誰だゴブ?」
「魔獣を倒したのは3年の戦士コロと美観さまと玲門さま姉妹、それとニトの家族らしいが、ゴブゴブ」
「ニト?あいつは薬師だろう?戦いは苦手と聞いたがゴブ?」
「ああ、かみさんのリュートは、機織りだしなゴブゴブ」
「家族を守るため、必死だったのだろうゴブ」
「必死?皆必死だゴブ、それだけでは魔獣らは倒せん。何をしたんだゴブ?」
「ゴブ、詳しくは明日の朝かな?怪我人の手当にニトが走り回っているからな、薬草が足りないらしいゴブゴブ」
「そうか、なら俺も手伝ってくるよゴブ」
「え?お前の得意は、釣りとか狩りだろう?役に立つのかゴブ?」
「気持ちだよ、気持ちゴブゴブ」
「じゃあ俺は、篝火の用意でもするかなゴブゴブ」
「ゴブ?燭台あるのか?」
「ああ、ドワーフから借りてきた燭台がいくつかあるゴブ。重たいがなゴブゴブ」
足音を立て、遠ざかる見知らぬゴブリン達。
それぞれの場所で寛ぎ、今日一日を振り返るゴブリン達。
誰かが近づいてきている。誰?
「かーちゃん、大丈夫ゴブゴブ?」
あ、お兄ちゃん。
「赤ちゃん?眠っているわゴブゴブ」
「ゴブ?違うよ、かあちゃんだよゴブ。食べなよ、俺が見つけたんだぜ」
そう言ってお兄ちゃんは、やや大きめの木の実を渡す。
ありがとう、と言って、そっと受け取るお母さん。
ぽりぽり。
「ゴブッ、美味しい」
「だろだろ?それ、一番いい色!きっと甘いと思ってねゴブ」
「ありがとうゴブゴブ」
「ねえ、かあちゃん、赤ちゃん、おばばさまに見せようゴブ?きっと治してくれるよ、あと少しすると、帰ってくるんだってゴブゴブ」
「帰ってくるゴブ?」
「うん。ドワーフとの交渉だって、上手くいったのかなゴブゴブ?」
「ゴブどうかな、研究所を出る時、私達の仲間がドワーフと戦ったからねゴブゴブ」
「ゴブでもでも、それ、人族の命令しか聞かない者達だったのでしょう?助けたのも俺らゴブリンだよねゴブゴブ?」
「そうね、だけど……あら?起きたのゴブ?」
お母さんと目が合う私。
ひょい、とお兄ちゃんが割って入る。
「大丈夫かゴブ?赤ちゃ……我が弟よゴブゴブ」
こくこく。
「ゴブ、いいか、よく聞けゴブゴブ。おまえは、かあちゃんを泣かせすぎるゴブ。かあちゃんは、おまえだけのかあちゃんではないゴブ。俺のかあちゃんでもあるのだ」
こくこく。
「ゴブ、だから、これ以上かあちゃんを泣かせるな。俺は泣くかあちゃんを見たくないゴブゴブ」
こくこく。私だって見たくないよ、お母さんには何時もニコニコしていて欲しい。
「魔獣を倒せるくらい強くても、とんでもない魔法使えても、かあちゃん泣かせたら意味ないからなゴブゴブ」
こくこく、分かった。
「……ゴブゴブ」もじもじ。
もじもじしているおにいちゃんに、どうしたの?とお母さんが尋ねる。
「ゴブゥいや、だって、一生懸命俺のお話聞いて、こくこく素直に頷いているんだもん。こいつ、めちゃくちゃ可愛いゴブ」
「どんなに強くても、あなたの弟ですよゴブ」
こくこく。あ、今度はお兄ちゃんが、こくこく頷いている。
「困っていたら、必ず助けてあげるのですよゴブゴブ」
「うん、分かった。約束するゴブ」
じっと母の顔を見る。
その顔には疲労が滲み、涙の後がある。原因は私だ。
またお母さんを泣かせてしまった。すごく心配したのだろうな。
「どこも痛くないゴブ?」
「痛くないゴブ、心配ばかりで……ごめんなさいゴブ」
こんなに手の掛かる子、イヤだろうな……嫌われたくないな……。
その時、サッとお母さんの顔色が変わる。
お母さんは、お兄ちゃんを引き寄せ、私を更に抱きしめた。そして囁いた。
「ゴブ、私は、あなた達のお母さんゴブ、私があなた達を見捨てることはありません、嫌いになることはありませんよゴブゴブ」
「!」
ゴブリン母さん、愛が、愛が熱いぜ。
「どうした?大丈夫かゴブゴブ?」
あ、お父さん登場。
「とーちゃん薬草はゴブゴブ?」
「一通り揃ったゴブ。お、起きたか?身体に異常はないかゴブ?」
お父さんが優しく私の頭を撫でる。大きな手だなあ。
「俺が見る限り、お前は健康そのものゴブ。俺の記憶に、お前の症状はない。どの薬が有効なのか、分からないのだゴブ」
ありがとうお父さん、異常はないけど異常です、しくしく。
まさか、まさか男の子に、男の子に生まれ変わるとは……どうしよう、まどかに嫌われちゃうよ。
前世の記憶、邪魔だよ!
……どうかな、もし、まどかが男の子に生まれ変わったら、私はまどかのこと嫌いになるかな?
いや、ならない。まどかはまどかだ。
だからきっと、私が男の子でも女の子でも……ゴ、ゴブリンでも、きっとまどかは……。
チャリッ、ガチャ、と金属音が響く。
「ゴブ?」
お父さんの目が険しくなる。
革に留められた金属の板、そんなに重くはないように見える鎧だ。使い込まれた槍、小さいながらも屈強なゴブリン戦士が二人、こちらに向って歩いてくる。
次回投稿は2022/06/26の予定です。
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