【第99話】 それぞれの道6
夕刊です。
「ううう、いってぇ……」
が、アイお姉ちゃんの、その顔は満足そうに笑っている。
「次は仕留める」
「次はねーよ、ま、まさか二回も引っかかるとは、サウカお前、格闘センスないな」
「なんだと?わざと膝をついたとでも言うのか?負け惜しみを!両腕砕かれて、何を言う!」
「お前は生命属性の振動剣、いや振動手を力の限り、蹴ったんだ。知っているか?蹴るのと蹴られるの、力は同じだってよ」
「何を言う?蹴る方が強いに決まっている!」
「まあ、私もそう思うんだけどね……げほげほっ、あ、息しずれー」
パキンと軽い音を立てるサウカの脚。
ぶわっ、と魔力還元が始まる。
「理屈は知んねーけどさ、抜き、と振動剣を組み合わせたが?どうだ?」
目を見開き、魔力還元していく自身の脚を見つめるサウカ。
「え?おやじっ!おやじ!おれが、俺が死んじまう!なんとか……!」
「へへ……生き残ったのは嬉しいけど……あんまり嬉しくないなぁ……」
そう言ってアイお姉ちゃんはぱたり、と倒れた。
サウカは魔力の粒になり、拡散していく。
「馬鹿なっ!お、俺の跡取りだぞ!名門、宗家だぞ!ヒマリ家の者だぞ、ヒマリ家の者を、よくも、よくも殺したなっ!」
怒りに震え、ゾアントロピーを起すカナヤ。
ノギお爺ちゃんが戦斧を握り締める。
「お前のその判断が!息子を殺したのだ!なぜ気づかぬ!この愚か者!」
倒れたアイお姉ちゃんに襲いかかるカナヤ。
家来衆は3人だけ動いた。
他は動かない。宗家を捨てたようだ。
ミミお姉ちゃんが一人を吹飛ばす。正拳突き、一撃。
ケインお兄ちゃんがもう一人を吹飛ばす、掌底打ちだ。
私とレイランお姉ちゃんは周囲を警戒している。
絶対、あいつ側にいる。この現場を見ているはずだ。
カナヤより先にアイお姉ちゃんを狙ったヤツがいた。しかし、ノギお爺ちゃんの戦斧が振り下ろされると、氷獣の剣、諸とも分断される。
残ったカナヤは、ランお母さんの手刀で斬られる。
「愚かな、ガモサンモの部下は剣の達人級が多かった。私達が死を覚悟するほど強かった。お前の得手は拳であろう?なぜ剣に頼った?」
「……確実にお前達を消すためだ……なぜ、季羅を選んだ?」
「卑怯は嫌いでね、素直が好みだ」
魔力が集まる!?
ランお母さんの足下に集まる、火と水の結晶魔法!
これを書き換える!新月期だし、魔力は充分ある!
どうだ?
じゅっ。
やったね!
「明季何の音だ?」
「ダークエルフが近くにいる!」
火と水のバランス崩せばこんなもんだ!そう簡単に、水蒸気爆発魔法は使わせないから!
つぎは誰を狙う?
後ろ手に朱槍を握り締める。
ゴブリンの、技をコピーする能力を使って、何回も脳内再生した。
魔力感知せずに、何故消える?現れる?
何度も何度も検証した。
魔力は使っている、多分。
それも外側にではなく、内側に使っている。と思う。
とても危険な使い方だ、寿命を縮めるような。
全部、憶測だけど、正解に近いような気がする。
そして、魔力は意思で使う。方向性がある。
武術で先々の先、という技があるそうだ。
田崎さんの得意とする行動?らしいが、これが高度すぎて理解出来なかった。
対峙した相手の行動を、先に先する?
道場で技を教わっているとき、私が動こうとすると、すべて止められた。
なぜ行動が分かる?
相手の動きで、これからの動きが分かる、とは言っていたけど。
これを、応用する。
必ず動きがある。
今は新月期、ダークエルフの動きに反応できるはずだ。
今の私ならば……そうでしょう?ローローとネーネー?
一瞬、呼吸音が聞こえたような気がした。
躊躇いなく、振り向きざまに朱槍を薙ぐ。
サクッ、と手応えがあった。
浅い、か!?
「ぐっ」
腹部を押さえて蹲るダークエルフ。
「術を使わずに!?」
ふんっ!
2撃目は躱された。
しまった!ここで重速術を使うべきだった!
ダークエルフは、カナヤの横に現れると、カナヤを摑み、私を睨んだ。
「ン・ドント大陸に禍あれ」
そう言い残し、消えた。
ノギお爺ちゃんと目が合う。
「敵ながら、引き際は見事だな」
「明季、もう何も感じないわ。遠くへ行ったみたい」
レイランお姉ちゃんの言葉に、私は緊張を解いた。
それと同時に、パタリ、と倒れた。
ああ、いつものヤツだ。無理しすぎた。
疲労が蓄積していたかな?
それとも今のダークエルフとの一戦、かなり力を使った?
あ、意識が遠くなる……ランお母さん、みんな、後はよろしく。
私は倒れた。
でも夢は見ない。
なかなか邂逅夢の世界へはいけないなぁ。
「おい、明季、起きているか?」
ん?
アイお姉ちゃんの声?
目が覚めると、木造の天井、知らない天井だ。
どうやら、私は発熱しているみたいだ。身体がだるくて動かない。
意識がボンヤリとして集中できない。
「アイ、明季くん、辛そう、起したら駄目だよ」
こつこつ足音が近づく。
ドアを開ける音。
この足音は、シンお姉ちゃんだ。
「3人とも起きているか?」
「うちは起きている」
「私も」
「……」
「明季は返事もできないほど、弱っている、と」
「シン姉、ここは?」
「ここはアルノお婆ちゃんの家だ。ここで、次の満月までお世話になることになった」
「敵は?アルノお婆ちゃん巻き込むの、うち嫌だよ?」
「獣人族は一応収まった。この小屋の周りは玄関にノギお爺ちゃん、庭にはケイン、更に森の中には、北のゴブリン達が見張りに立っている。安心していいと思う」
そうか、反乱?は収まったのか。
「ランお母さんは?」
「ヒューとミューを連れて、ひとまず村へ帰った。どうしたエノン?」
「手当が、包帯が綺麗に巻いてある。薬師?」
「さすがだな、東の砦へ向う騎士団が寄ってね、随行しているそこの薬師見習いがお前達を看てくれたのだ」
「おいおい、シン姉、今度は本物だろうな?」
え?今度こそ本物でしょうね?
騎士団随行なら大丈夫、かな?
「ああ、本物だ。騎士団も、薬師見習いの学生も。コロ叔父さんに確認を取った。赤髪で身長はコロ叔父さんくらい、短剣の使い手、間違いなし。安心したか?確かエノンは知り合いだろう?」
「うん、うち知っているよ!とっても優しい人族でね、何度も助けてもらっているの!」
「無理はするな、と言っていたぜ」
「わかった、今度会ったら、お礼を言う!」
エノンの知り合いか、なら安心か。
「そこで、そいつの見立てだが、明季、お前は子供の粒、未魔細胞が壊れて、次の満月までは安静にしろ、と。アイは両腕骨折プラス、末梢神経損傷、肋骨も骨折し、内臓も痛めている、お前も安静一番、エノンは、擦り傷と思っていたけど、相手は新月期の獣人だ、学生さんの見立ては内出血と、剥離骨折、各靭帯損傷だと。お前も満月まで安静にな、分かったか?」
「……わかった、うち、おとなしくしている」
「いい子だエノン、そこで一言、言っておく」
「「「?」」」
「お前ら、トイレは遠慮無く言えよ?」
「「「!」」」
シンお姉ちゃんはニッコリと笑った。
ああ、生まれ変わっても、私はシンお姉ちゃんの(エルフさんの)お世話になるのね。
諸事情により、朝のみの投稿になりました。
楽しみにされている読者の皆様、迷惑をおかけします。




