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The Lily 前世の記憶は邪魔である  作者: MAYAKO
二章

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203/406

【第94話】 それぞれの道

夕刊です。

 パチリ、と目が冷める。

 ここどこだ?場所が分からない。


 あ、ランお母さんの膝の上だ。

 ランお母さん、眠っている。


 空はまだ暗く、星が綺麗である。


 辺りを見回す。アイお姉ちゃんとエノンがいない。


 おっぱい丸出しで眠っているランお母さんの服を、わんわんの手で引っ張り、どうにか隠す。

 するり、と膝から逃れ、二人を魔力感知で探してみる。どこだろう?


 あ、いた。


 何を話しているのだろう?そう遠くないな?


「アンアン」


「あ、明季くん」


 蹲っている二人。二人とも、どうしたの?


「くーん」


「ああ、明季か」


(どうしたの?)


 返事がない。

 !

 念話できないんだ!


「ん?今、念話で話し掛けたか?私達はもう使えないんだ。雰囲気くらいなら分かるけどな」


「どうしたの明季くん?」


 エノンが心配そうに声を掛ける。

 転がったり、唸ったりしている私。

 ごろごろ。


「はは、エノン心配いらないよ、こいつ人化、うまくできないんだ」


 おっかしいなぁ、さっきはうまくできたのに!


「ううううっぐるううっ」


「あはははっ、明季、お前はほんと、面白いなぁ笑わせてくれる」

「えーっアイ、明季くん困っているのに、笑うの可哀想だよ!」


 ひょい、と摑まれて、私はアイお姉ちゃんの膝の上に収まる。


「いいか、黙って聞けよ?」


「アン!」


「お前、疲れて爆睡していたしなぁ、聞いていないだろ?」


「?」


「私達、次の森でお別れだ」


「!」


 え?


「故郷へは帰れない、私達はもう故郷で生きていけない。その話があったんだ」


「わん!わん!」


 な、なんで起してくれなかったの!そんな大事なお話!

 くそっ!なんで人バージョンになれないんだ!


「お、おい、そんなに暴れるなよ!」


「ぐるるるるっ」


「唸るなよ、だいたい無理なんだよ、あんなにすやすや眠っているのに、私が起こせるわけ、ないだろう?」


 ……確かに……アイお姉ちゃん、ちっちゃい子、好きすぎて、超苦手だし。


「次の森に、昔から住んでいるオークの老夫婦がいるんだ、季羅お父さんの友達でね、そこでケインとミミと一緒に、次の満月までお世話になるんだ」


 なんで次の満月?


「満月時におそらく、私とエノンの力が最大になる。その時、どこまで獣人としての力があるのか見るのさ」


 見た後どうするの?もどかしい!なんで人バージョンになれない!

 何が金狼だ!ゴルちゃん!

 いや、他者に頼ったら駄目だ、自分でできることは自分で!


「ぐるるるるっ」


 わんわんの声帯で、言葉を話すのは難しい!

 ん?魔力を使うのか?


「ソ、その……」


 お、いけそう!

 魔力で、喉を開くイメージ!


「その、アとはどウなるの?」


「!」


「お、さすがは明季だな」


「ぐるるるるっ、こたエて!」


「うちが答えるよ、獣人族として認めてもらえなかったら、人族として生きていく。それだけよ」


 人族として生きていく?どこで?生業は?支援はしてもらえるの?

 追放っぽくないか?

 え?能力が無くなったら切り捨てるの!?


「支援はしてもらえるよ、ただ、勿論だけど、うちら、獣人族は名乗れない」


「まあ、さまよう賢者さまの話によると、満月期の3日間は獣人族に戻れるって話だ。今でも、多少力強いしな」


 そう言って、アイお姉ちゃんはピッと指弾で小石を弾いて見せた。

 どさり、と重量物が倒れる音。


 気配を消して潜んでいた雪鹿が、そこに倒れていた。


「朝ご飯だ、どう?凄いだろう?」


 エノンは?

 エノンは私を安心させるためか、巨躯の雪鹿を担いで見せた。


 え?それを担ぐの?


「うちら、ぎりぎり獣人族名乗れそう、って話していたの。心配してくれてありがとう、明季くん」


「でもな、やっぱキツいんだよね、皆と一緒に暮らせないの。エノンは傭兵団とか経験しているから、その辺は大人なんだよなぁ、私はやっぱり、寂しいや」


 どさり、と雪鹿を下ろすエノン。


「うーん、歩くのは無理。持ち上げるだけかぁ、うち、ちょっと残念」


 いや、それ500kg くらいあるのでは?


 ん?雪鹿?


「さむくなイ?」

「寒いよ、少しだけな」

「うち、もう飛べないのかなぁ」


 孤独と不安。


 前前世で沢山経験したな。孤独と不安の経験は、あまりしたくない。


 私に何ができるだろう。

 アイお姉ちゃん、エノン。

次回配達は 2023/02/17 朝7時の予定です。

サブタイトルは それぞれの道2 です。

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