【第94話】 それぞれの道
夕刊です。
パチリ、と目が冷める。
ここどこだ?場所が分からない。
あ、ランお母さんの膝の上だ。
ランお母さん、眠っている。
空はまだ暗く、星が綺麗である。
辺りを見回す。アイお姉ちゃんとエノンがいない。
おっぱい丸出しで眠っているランお母さんの服を、わんわんの手で引っ張り、どうにか隠す。
するり、と膝から逃れ、二人を魔力感知で探してみる。どこだろう?
あ、いた。
何を話しているのだろう?そう遠くないな?
「アンアン」
「あ、明季くん」
蹲っている二人。二人とも、どうしたの?
「くーん」
「ああ、明季か」
(どうしたの?)
返事がない。
!
念話できないんだ!
「ん?今、念話で話し掛けたか?私達はもう使えないんだ。雰囲気くらいなら分かるけどな」
「どうしたの明季くん?」
エノンが心配そうに声を掛ける。
転がったり、唸ったりしている私。
ごろごろ。
「はは、エノン心配いらないよ、こいつ人化、うまくできないんだ」
おっかしいなぁ、さっきはうまくできたのに!
「ううううっぐるううっ」
「あはははっ、明季、お前はほんと、面白いなぁ笑わせてくれる」
「えーっアイ、明季くん困っているのに、笑うの可哀想だよ!」
ひょい、と摑まれて、私はアイお姉ちゃんの膝の上に収まる。
「いいか、黙って聞けよ?」
「アン!」
「お前、疲れて爆睡していたしなぁ、聞いていないだろ?」
「?」
「私達、次の森でお別れだ」
「!」
え?
「故郷へは帰れない、私達はもう故郷で生きていけない。その話があったんだ」
「わん!わん!」
な、なんで起してくれなかったの!そんな大事なお話!
くそっ!なんで人バージョンになれないんだ!
「お、おい、そんなに暴れるなよ!」
「ぐるるるるっ」
「唸るなよ、だいたい無理なんだよ、あんなにすやすや眠っているのに、私が起こせるわけ、ないだろう?」
……確かに……アイお姉ちゃん、ちっちゃい子、好きすぎて、超苦手だし。
「次の森に、昔から住んでいるオークの老夫婦がいるんだ、季羅お父さんの友達でね、そこでケインとミミと一緒に、次の満月までお世話になるんだ」
なんで次の満月?
「満月時におそらく、私とエノンの力が最大になる。その時、どこまで獣人としての力があるのか見るのさ」
見た後どうするの?もどかしい!なんで人バージョンになれない!
何が金狼だ!ゴルちゃん!
いや、他者に頼ったら駄目だ、自分でできることは自分で!
「ぐるるるるっ」
わんわんの声帯で、言葉を話すのは難しい!
ん?魔力を使うのか?
「ソ、その……」
お、いけそう!
魔力で、喉を開くイメージ!
「その、アとはどウなるの?」
「!」
「お、さすがは明季だな」
「ぐるるるるっ、こたエて!」
「うちが答えるよ、獣人族として認めてもらえなかったら、人族として生きていく。それだけよ」
人族として生きていく?どこで?生業は?支援はしてもらえるの?
追放っぽくないか?
え?能力が無くなったら切り捨てるの!?
「支援はしてもらえるよ、ただ、勿論だけど、うちら、獣人族は名乗れない」
「まあ、さまよう賢者さまの話によると、満月期の3日間は獣人族に戻れるって話だ。今でも、多少力強いしな」
そう言って、アイお姉ちゃんはピッと指弾で小石を弾いて見せた。
どさり、と重量物が倒れる音。
気配を消して潜んでいた雪鹿が、そこに倒れていた。
「朝ご飯だ、どう?凄いだろう?」
エノンは?
エノンは私を安心させるためか、巨躯の雪鹿を担いで見せた。
え?それを担ぐの?
「うちら、ぎりぎり獣人族名乗れそう、って話していたの。心配してくれてありがとう、明季くん」
「でもな、やっぱキツいんだよね、皆と一緒に暮らせないの。エノンは傭兵団とか経験しているから、その辺は大人なんだよなぁ、私はやっぱり、寂しいや」
どさり、と雪鹿を下ろすエノン。
「うーん、歩くのは無理。持ち上げるだけかぁ、うち、ちょっと残念」
いや、それ500kg くらいあるのでは?
ん?雪鹿?
「さむくなイ?」
「寒いよ、少しだけな」
「うち、もう飛べないのかなぁ」
孤独と不安。
前前世で沢山経験したな。孤独と不安の経験は、あまりしたくない。
私に何ができるだろう。
アイお姉ちゃん、エノン。
次回配達は 2023/02/17 朝7時の予定です。
サブタイトルは それぞれの道2 です。




