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【第19話】 勝利はしたけど、倒れる私

 あ、ヤバ、と思った瞬間、ラグナルの背中の鱗がド派手に吹っ飛ぶ。


 バキンッ!

 

 破裂するような音が響き、断末魔の叫びも上げずに、巨大なラグナルは倒れた。


 大地は揺れ、周囲に悪臭が立ち籠める。


 倒れたラグナルはジュワッ、と焼けるような音を立て始め、鱗だけを残し、蝉の抜け殻のようになって絶命した。鱗以外の肉体は分解され消えてしまう。

 辺りに漂う光の渦。

 あ、これ魔力だ、魔力に還元している?

 

 ……ああ、こいつら間違いなく兵器だ。機密保持のため死んでしまうと、魔力に還元され消えて無くなるんだ。

 そういえば記憶の中のゴブリン達も、魔力に還元されて消えしまっていたな。

 戦いの場が一瞬止まる。そして全ての視線が私に集まる。


 静けさの中でふと、我に返る。


 し、死ぬかと思った!なにこの技のタイムラグ!


 田崎さんが道場で見せてくれた時と、違うんですけど!

 私は誰かに抗議した。誰?と言われても答えよう無いけど。


 「うそ……ゴブゴブ」


 レイモンお姉さんが呟くと、一斉に全てが動き出す。

 残りのラグナルは7匹。が、なんと5匹逃げた。2匹を残して5匹は踵を返し、転げるように山を下って行った。

 この場に残った2匹は、更に凶暴性を増し、雄叫びと共に私に向って突進してきた。うわ、凄い迫力、怖いんですけど!


 戦いで、頭に血が上ったらミスをする。目の前の2匹のラグナルのことだ。

 そして、竦み上がって動けないヤツもミスをする。今の私だ。


 さて、どっちが生き残れる?


 それは……まず、暴風の魔法がラグナルを捉える。横殴りに吹っ飛び、そこへ氷の矢が降り注ぐ。

 この氷はレイモンお姉さんの攻撃だ。

 残りの1匹は炎に包まれる。あ、お父さんとお兄ちゃんだ!

 左右に別れ魔獣を挟み魔法攻撃をする二人。息はぴったりだ。


 ここで生き残れるのは、より速く冷静さを取り戻した方。私は家族を見て、再び力が漲り始めた。


「ゴブ!!か、かあちゃん!見てよ!赤ちゃんが大きくなっているゴブ!」


 え?大きくなっても私って、分かるの?か、感動!お兄ちゃん!大好き!

 

 炎に包まれたラグナルは転げて炎を消そうとしている。火傷しているようにも見えないし、そんなに熱くもなさそうだけど?魔獣でも生き物だから、火は根本的に恐怖を感じるのかな?


 風や氷の攻撃をモノともせず、突進してくるラグナル。


 私はそれをじっと見据えた。そして脚に、腕に、お腹に(丹田というらしい。ゲームのチュートリアルで覚えていた単語だが、田崎さんにリアルで教わるとは思ってもみなかった)力を込め、大地を蹴り正面から『ぬき』を放つ。

 

 お互いの突進力、プラス私の打撃。


 大地が揺れ、ラグナルは吹っ飛んだ。


 身長1メートルに満たないゴブリンが7メートル以上のラグナルを吹飛ばす。

 物理の法則、無視だね。


 ん~物理の法則は無視したけど、係数がありそう、と私は戦いの中で思った。魔法係数?数字で魔法を表せたら面白いかも。


 残り1匹。

 

 ここで異変が起きた

 あれ?か、身体が重い?


 力を使いすぎた!?

 

 フルパワーコマンドでの活動は、時間制限がある?ヤバッ!


 纏わり付いている炎を消した、最後の1匹は、ジッと私達を見回した。その視線の先には……。


「お母さん、逃げて!」私は叫び、突進した。うっ、あ、足が重い


 このラグナル、一番弱っているお母さんに目を付けた!

 お母さんの前に立ちはだかる、お父さんとレイモンお姉さん。魔法攻撃をするがみな弾かれる。


 どうしよう!間に合わない!


 お兄ちゃんの攻撃も戦士さんの攻撃も、あまりの速さに当たらない!


「レー!逃げなさい!」


 あ、もう一人のお姉さんだ!私と平行して走っている!


「いやだゴブ!赤ちゃんのお母さんを守るんだ!」


 もう一人のお姉さんは印を結び、何事か唱える。


 すると、突進している魔獣ラグナルの前に炎の壁が現れる。


 轟音と共に現れた壁は、凄い迫力で、周りの者達を圧倒する。


 魔獣は一瞬、怯んだ、が、あっさりと炎の壁を突き破った。


 あれ?纏わり付く炎は嫌がったのに?これ、何かあるぞ、覚えておこう。


「チッ、これ以上の技は私には無いのにゴブゴブ!」

 

 ああああ、だ、ダメだ、脚が重くなる、上手く走れない!でも気持ちは高揚し戦いを好んで求めている!あれ?視野も狭く感じる?なんかおかしいぞ?


「ゴブ!おい!」


「ゴブ!?」もう一人のお姉さんが話し掛けてきた。


「偽物の感情を抑えろゴブ!それは兵器としての、戦闘感情の暴走だゴブ!判断が出来なくなるぞ!落ち着いて行動しろゴブ!」


「こ、この状況で落ち着けなんて無理ゴブ!」


 だけど、お姉さんの言葉で視野が広くなった?全体が見えるようになった、気がする。


 魔獣はレイモンお姉さんの目の前でくるり、と身体を回す。


 え?

 

 あ、あの、ぶっとい尻尾で薙払う気だ!あんな尻尾で払われたら、お姉さん死んじゃう!お母さんも!お父さん!


 全力で、走る、が間に合わない!そうだ!魔法なら届くか?一番速い魔法はなんだ?なんだ!?


 炎?風?光?


 光!?


「い、い、イカズチィイ!!」


 ありったけの魔力を込めて叫んだ。


 青天の霹靂。

 

 聞いたことも無い大音響が響き渡り、巨大な槍のような雷がラグナルを貫く。光に中でバラバラになって消えていくラグナル。だがそれだけでは収まらなかった。


 あまりの威力にお母さんやお父さん、レイモンお姉さんまで吹飛ぶ。


「!」や、やっちゃったぁ!!!!


 ど、ど、ど、どうしよう!


 血の気が引くとはこのことか、身体が小刻みに震える。


 倒れているゴブリン達、辺りの木々は焼け焦げ、異臭が漂う。


 う、動けない。


 一番に行動したのはお兄ちゃんだ。次に動いたのは、レイモンお姉さんのお姉さん。お兄ちゃんはお母さんに抱きつくと、私に向って手を振る。


「大丈夫ゴブ!心配ないよ!赤ちゃん!お母さんも、みんな元気ゴブ!怪我無い!」


 ぺたん、とその場に座り込む私。


 よ、よ、よがったよおおおお。


 うわあああああん。みんな無事なんだね?

 

 戦士さんが近づいて、私に声を掛ける。


「ゴブゥ泣くな、皆無事だ」


 お父さん、お母さん、お兄ちゃんも、お姉さんズも私の所にやって来る。


「泣くことはありませんよゴブゴブ、私達を守ろうとしたのでしょう?」


「ゴブ、ゴブッ、お、おがあさああん、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、わ、わだし、い、一生懸命頑張ったけど、ご、ごめんなさい、い、いたくなかった?ごめんなさいっ」


 な、涙が止まらないっ。


「さあ、立ちなさいゴブゴブ」


 お父さんが頭を撫で、立たせてくれる。


「ゴブ、レイモンさま、よかったのですか?大切な記憶を……ゴブゴブ」


「構いません、私の方こそ、勝手にインストールを……ゴブゴブ」


「いえ、死んでしまうところを……ありがとうございますゴブ」お母さんが深々と礼をする。泣いているようだ。


 戦士さんが私を見つめ、言葉を放つ。


「いいか、よく聞くんだゴブ」


 こくこく。えぐっ、えぐっ、まだ涙が……。


「記憶は写せば写すほど劣化していくゴブ。お前はレイモン系統の記憶の伝承者になったのだ。よく自覚をするのだぞ、ゴブゴブ」


「?」涙がまだ止まらない、お話が上手く理解できない!


 お父さんが言う。


「ゴブ、お前はレイモンさまより、故郷の記憶を貰ったのだろう?我々ゴブリンの憧れの、希望の記憶ゴブ。お前は私の、いや私達家族の誉れだゴブゴブ。まさか魔獣を3匹も倒すとはゴブ」


「とーちゃん、俺、魔力に還るラグナル初めて見たゴブ。赤ちゃん、すげーや皆に自慢できるゴブ」

 

 赤ちゃんか、まあ確かによく見ると、私、お兄ちゃんより二回りほど小さいかな?

 ふと視線を感じ、お姉さんズを見る。レイモンお姉さんの綺麗な瞳と目が合う。


 綺麗だなぁレイモンお姉さん。


「……」


 レイモンお姉さんは無言で、ウエストポーチらしきものから、分厚いタオルのような布を出すと、私の顔に当て、ゆっくりと涙や顔に付いている汚れを拭いてくれた。


 吹き終わると、タオルを私の肩に掛けてる。

 ん?何故か頬を染めて、ぎこちなく視線を外すお姉さんズ。


「あ、ありがとうゴブ」


 お姉さんにお礼を言うが、何故かこっちを見てくれない。


「ゴブさあ、今のうちに皆のところに戻ろう、動けるかゴブ?」


 お父さんが、お母さんに視線を送る。


「ええ、大丈夫ですよゴブゴブ」


「ゴブゥほ、ほんとに大丈夫?」思わずぎゅっ、とお母さんの手を握りしめる私。


「ええ、大丈夫ですよ、ありがとうゴブゴブ。あなたは優しい子ですね、勇気もありますゴブ。でも無理はしないでね。あんなに魔力を使って、あなたの方こそ大丈夫ですかゴブゴブ?」


 心配してくれるお母さん。ありがたいなぁ、すごくうれしい。お母さんに心配させてはいけないな、私は元気に返事をする。


「大丈夫ゴブ!」


「いい返事ですねゴブゴブ、ほんと、あなたは私達家族の誉れですゴブ、ああ可愛い私の坊や」


「………………………………………………………………………………………え?」


 ぼうや?


 ぼうやって?


 手を見る。可愛いお手々だ。にぎ、にぎ。

 

 顎を引いて下を見る。


 可愛いおへそだ。ああ、わたしって裸ん坊だったのね。


 更に下を見る。


 そこには。

 

 そこには、男の子のシンボルが、ちょこん、と付いていた。


 見開かれていく私の目。

 

 なにこれ?


 うっっっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 私は何も言わず、静かにブッ倒れた。


挿絵(By みてみん)

次回投稿は2022/06/25の予定です。


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