【第90話】 一撃
夕刊です。
「獣人さん、ゴブリンさん、なんか話はあるね?聞きたかこつはあっとね?」
「ゴブ!か、感動で言葉が見つからないゴブ」
「阿騎くんのお父さん、心配せんでよか。阿騎くんはよか子、お父さんがよう知っとろう?」
「はい」
「まあ、こげんガイコツの友達が3.500人程おるばってん、皆、頼もしい、良かヤツばかりよ?心配しなすな」
「……」
「こら。右の旗持ち!ぬしゃ今、わろたろ?」
「……いえ」
「さて阿騎くん、あん白かドームには、地下施設があるごたる。見かけよりも大きかごたるね、まあスーパーゴーレム1体で十分、また会おう、頑張りなっせ」
そう言い残すと、元帥さん達は帰っていった。
呆然とする3名。
なにか、満たされた気分になる私。
元帥さんに依存いてはいけないのは分かる。
でも、とても頼りになるスケルトン軍団。
白のドーム、攻略戦が始まる。
「ゴブリンの長よ、攻略戦は早い方がいいだろう、明日、日の出でよいか?」
「ゴブ、承知した。明日、日の出と共に総攻撃ゴブ」
砦前には、各地から北のゴブリン達が集まり始めていた。
皆、元帥さんとの話を聞いて、白いドーム攻略戦に参戦しようと集まったのだ。
王都からもオークの騎士団が24名派遣されたようだが、到着はまだである。
ダークエルフ達は、王都でも破壊活動をしていたようで、白いドーム攻略戦を告げると、直ぐに行動したようだ。
「ゴブ、王都からの騎士団が3日後、到着のようだがゴブゴブ?」
「それまでには、攻略したいな。ゴーレムの威力がどのくらいか分からないが、明季のことは、なるべく秘密にしておきたい」
「ゴブ、そうだな、一番働いた者が、危険視されてはたまらんゴブ」
そして日が昇る。
砦前には数千人ゴブリン達が、フル装備で控える。
そしてその視線の先には……はぁ……溜息交じりの私だ。
注目、嫌なんだけどなぁ。
こっそり召喚じゃなかったの?
しかし、そんなことは言っていられない。
初めて使用するスーパーゴーレム。
何が起きるか分からないけど、試し撃ちとかできないんだよね。
相手にバレるし。デカいし。たぶん身長20m以上あると思う。
取敢えず、耳と衝撃に注意して、とは伝えた。あと、近づくな、と。
白いドーム周辺に湧き上がるように現れる、魔ゴブリンと魔獣達。
数が多いな。
セミみたいに、地面から穴を掘って出てきている。
ドームの扉は開閉していないな。
時間だ。
使わせてもらいます、ドワーフの王さま、まだ見たこともない開発部長さん。
「アクセス!」
砦に集まった戦士達のざわめきが静まる。
「今この時、ン・ドント大陸、北のゴブリン達が集う東の砦にて、我、明季が長距離支援型スーパーゴーレムNo.18、1体を、白いドーム攻略のため、我が魔力をもってここに召喚する、ジャッジメント!」
ドオオオン。
大地が揺れ、魔法陣が浮かび上がる。
すると、その魔法陣の中心部から、巨大な4本の柱?が、飛び出す。
響めく周囲。
デカい砲身4門。
魔法陣から出現したゴーレムは……下から見ているので、分からん。
なんだこれ?が素直な感想である。
下から、足下から見上げたゴーレムは金属の塊にしか見えず、その全体像は全く分からなかった。
そんな私の目線とは別に、遠方より眺めていたゴブリン他、妖精達は歓声を上げた。
特に東の砦で鍛冶担当の、ドワーフ集団は目の色を変えて騒ぎ出した。
「あ、明季くん……大丈夫?」
私を心配したのか、エノンが砦内から声を掛ける。
「エ、エノン!?ここ危ないよ!」
エノンの横にはシンお姉ちゃんがいた。エノンを庇うように寄り添っている。
エノンは私の右目の負傷に、責任を感じているようなのだ。
彼女は、あまり笑わなくなった。
私は、エノンとシンお姉ちゃんに近寄り、崩れかけた砦内に入る。
「シンお姉ちゃん、エノン、ここは危ないよ?離れた方がいい」
「いや、明季を一人にしている方が、色々と危ない気がしてな、エノンとガードしに来た」
「衝撃で砦が壊れるかも知れない、離れた方がいい」
「分かった、では少しだけ離れるとしよう、いいなエノン?」
「うん」
「……」
「どうした?明季?」
ぎゅっ。
「おわっ!なに?な、なんだよ明季?」
「ありがとう」
私はシンお姉ちゃんの細い腰に手を回して抱きしめた。そしてエノンを見る。
「ううう、うちは恥ずかしいから、いいよう!」
元気に逃げ出すエノン。
「そこまでにしておけ、明季」
シンお姉ちゃんに軽く制される。
見上げると、スーパーゴーレムその容姿、全体像が見えた。
特徴は4本の巨大な砲身だ。あ、これ単位、4門だっけ?
あと腕が異様に長く、手が大きい。
背中にセットされた砲身はとても長く、あれで二足歩行できるのかな、と心配になった。
それに砲撃時のバランスは大丈夫かな?アンバランス過ぎないかなぁ。
素人ながら、そんなことを考えていると、私の左目に変化が起こった。
「わっ!」
「どうしたの?明季くん?」
見える風景が違う。
この視点、ゴーレム目線だ!今私、ゴーレムの目で見ている!
白のドームを意識すると、ゴーレムが動き出した。
両膝を大地に下ろし、射撃体勢に入る。
長い腕を横たえ、巨躯を固定する。
脳内に文字のような言葉のような不思議なアナウンスが響く。
《プラズマ粒子砲一番、二番、三番、四番、発射準備完了っす》
っす?
周囲にどよめきが起き、ゴブリン達は突撃体勢に入る。
攻撃後、壁に穴が開いたらそこから侵入する手筈になっている。
ゴブリン達の、水蒸気爆発魔法を受け付けない強固な作りだ。
白のドームはズームされ、壁の一点を捉える。
あれ?今何か見えたぞ?
そう思ったら、白のドームの遙か先にある、別の白のドーム3基がズームされる。新たな発見?北のゴブリン達、知っているのだろうか?
凄いな3基も製造している。魔力感知、ギリギリ外か?
ん?動きがある?
更にズームされ、カウントが始まる。
《ドーム3基確認、正面右に新たに2基建設中。魔獣ラグナル他4000匹以上、移動中っす》
新たに発見したドームから、出撃している魔獣達は二手に分かれて、大きく迂回している。
ああ、左右から挟み撃ちにする作戦か?
では目の前にある白のドームは囮か?どうする?元帥さん達を召喚する?
だが、この白のドーム、囮としても、邪魔なんだよな。
と、邪魔、と考えた瞬間!
《邪魔ッすか?了解っす》
プラズマ粒子砲一番が火を噴いた。
ドゴオオオオオオオン。
え?なに!うっちゃったの!私、合図した!?
了解っす?了解っすって、何?邪魔イコール火を噴くの!?
これ絶対、調整必要!
次回配達は 2023/02/15 朝7時の予定です。
サブタイトルは 一撃2 です。