【第83話】 精算の時2
夕刊です。
枯れた植物をバリバリと折り、砕き、中から這い出してきた。
「ん?硬いなあ、なんだ?身体が重い!体重増えたかな?」
真っ裸のアイお姉ちゃん。人族みたいにツルツルのお肌である。
可愛かった尻尾も、猫耳も、もうない。
「おっかしいなぁ、私、死んだとおもったんだけど?」
もう一つの繭からは、小さな嗚咽が聞こえた。
私は我を忘れ、枯れた雪美草の繭を引き裂く。
「エノン!エノン!」
「きゃっ」
突然現れた私を見て、悲鳴を上げるエノン。
エノンはさっと両胸を抱きしめた。
黒髪に真っ白い肌、綺麗な黒い瞳。え?エノンってこんなに睫、長かったっけ?
「あ、明季くん!あ、あっち向いて!う、うち恥ずかしい!そ、それになんか臭いし……む、向こう向いて!」
「いやだ!」
「ええええっ!?う、うち困るよ!」
私はその場に崩れ落ちた。ガクン、っと腰が抜けたのだ。
「よかった。エノン、よかった」
まさか私が、トンビ座りで泣く日が来ようとは。
「エノン、大丈夫?」
一言、声を掛け、根をバリバリと壊しランお母さんは入ってくる。
手には、ほかほかの蒸しタオルが沢山。
「明季、出なさい」
「え?私も手伝うよ?」
「いいから出なさい」
「え?同じ、女の子だし、いいじゃん」
「違います」
え?何が違うのかしら?
「明季、あなた男の子の波動が出ています。母の目はごまかせませんよ」
う゛母鋭い。
私も時々思うのだが、前世のゴブリン男子の記憶?気持ち?が時々浮上してくるのだ。ああ、前世の記憶、邪魔だ!
ドゲシッ!
もたもたしていたら、母に蹴られた。
「早くでなさいっ!」
はい、ランお母さん。
でも蹴らないで、獣人ですけど一応女の子です。優しく扱ってください。
外に出ると、薬師ゴブリン達と魔族チクリの念話が聞こえてきた。
(惜しかったな、あと一歩まできている)
(そうなのですか?賢者さま?)
(この血液分離は、憑依細胞の解除からしないと、分離できない)
(憑依細胞とは?)
(細胞に取り付いている指向性の念だ。この念は循環して、新しい細胞に瞬時に憑依するのだ。魔力の流れを研究すると分離できる。やってみろ)
(先程の死者再生は禁呪ではないのですか?雪美草は研究してもよいのでしょうか?)
(研究は構わん、おおいにするがいい、雪美草は空中都市からの挑戦状と思え。死者再生というが、再生出来るのは、魔力還元途中までだ。魔力還元してしまうと、上位存在の上、高位存在でないと再生出来ない。他に質問はないか?)
(この枯れた雪美草、使えますよね?)
(いい質問だ、研究してみろ、滅多に手に入らぬ貴重品だ)
そこに、タオルに巻かれ、綺麗になったほかほかのエノンとランお母さん、アイお姉ちゃんが、歩み寄った。
アイお姉ちゃんとエノン、神妙なお顔だ。
獣人の能力のこと、聞かされたみたいだ。
「さまよえる賢者さま、お礼を」
「おお、おお、まってぇいたぞうぅ、礼をぉ!礼を言うがいいぃ!我にぃかん、感謝を捧げよぉ!」
ランお母さんは片膝を着き、頭を垂れた。
「さまよえる賢者さま、ありがとうございます、娘達二人、命を繋ぐことが出来ました」
アイお姉ちゃんとエノンがお母さんに習い、跪こうとすると、さまよえる賢者が止めた。
「そ、そのままでぇよいぃ、ふ、不埒なヤロー共がタオルの隙間をぉ覗こうとチラ見ぃしておるぅ」
ギヌロッ、正に虎の目で、辺りの獣人ヤロー共を目殺するランお母さん。
「さまよえる賢者さま、ありがとうございました。うち、また皆と会える!寂しくない、感謝します」
「じいさん、ありがとな!これでまた、命を抱っこできるぜ」
その物言いに、一瞬青ざめるランお母さん。
が、さまよえる賢者は、気にしていないようだ。
それどころか、喜んでいる。
「よいぃ、お前のぉあり、ありがとうは、爽快でぇある!」
そして二人をじっと見る。
「お、お前、お前達二人ぃ、これかどうするぅ?故郷にはぁもう、もう帰れぬぞぉ?」
「私は王都で暮らす。王都で勉強して、情報を送る、獣人の良さを広める」
「うちも王都で暮らします。王都の孤児院で、子供達のお世話をします」
そしてランお母さんが言葉を続ける。
「感謝の言葉だけで、いいのでしょうか?」
「ん?そ、それ以上何があるのだぁ、ではさらばだ」
さ、さらば?それだけ?うらはないの?
魔族でしょう?いや、魔力は凄いけど、本当にこの人物は魔族チクリなのか?
歩き出す、さまよえる賢者。
ここで初めて、さまよえる賢者、魔族チクリと言われる老人と目が合う。
凄い知識と行動力、見返りが感謝の言葉のみ。
なんともまあ不思議なご老人。
「あぁ?」
ん?
一瞬で雑音が消えた。
「ホルダー阿騎かぁ?」
ヤバい?
なんと答えよう?隠れていた方がよかったのかな?
次回配達は 2023/02/12 朝7時 の予定です。
サブタイトルは 精算の時3 です。