【第82話】 精算の時1
祝日の15時、お茶の時間です。
「お願いします、死を止めてください。お願いします」
絞り出された声、祈るような声。
(人族になれば、あっさりと死ぬぞ?今は生き延びても、いつかは死を迎えるぞ?)
(この二人は、まだ若く、幼い。死ぬには早すぎます。私より早く死んで欲しくありません)
(まだ自覚が足りないようだな、寿命も縮まるぞ。人族よりは長生きだろうが獣人族ほど長くは生きれぬ。この者達は生を全うしても、お前より早く年を取り、死を迎える、それでもいいか?)
(それでも……)
(それはお前の我儘か?エゴか?)
(親の思いです)
(ならば、助けるぞ、よいな?)
(はい)
(魄のヤツとは契約済み、意思の俺とも契約した、魂のヤツは、記憶と経験のコレクターだから、あいつは自動契約だ。さあこれで契約成立だ、手続き終了だ。うまくいったら、礼をもらうぞ、感謝をもらう!)
(……どうか)
(後戻りは出来ぬからな、親の思いか、お前達妖精の思いは熱いな。羨ましいくらいだ)
(なぜ助けに来たのです?助けてくれるのです?)
(お前の声は私に届いた、それだけだ。ああ、昔を思い出したのだろう。阿騎とサイザンを失った母リュート。あの慟哭が今だ心から消えぬ。お前の思いは、あの慟哭と同じだ、お前はリュートではないのか?)
(さあ、私はランです。ただそのリュ-トさんと同じ母でもあります)
次々に、何もない空間から現れる雪美草。
(多くの者を見てきた。子を失った親、親を失った子、そして子を殺す親、親を殺す子、世界は悲しみだらけではないか、そしてその一翼を担ったのが私だ。他者の苦しみなど、気にしたこともなかったのにな)
雪美草は凄い速さで成長し、大地に根を張り、アイお姉ちゃんやエノンも根で包まれ始めた。
二人の姿は見えなくなり、巨大なサナギみたいになる。
3m程の大きさの、丸い繭?
それが蛍のようにぽっぽっ、と発光すると更に成長を早め、各所につぼみが出来、花が咲き始める。
見た目は綺麗な花だ。ただ、その香りは最悪!
とんでもない悪臭だ。
「ゴビッ!」
「うごっ!?」
嗅覚が発達していると、こんな時は最悪だ!
な、なにこの臭い!倒れそう!痛い頭が更に痛いよ!
「ヒヒッ、く、臭いか?なに、じきぃ枯れるぅ、そ、そのうち馴れる」
老人の言うとおり、雪美草は種を結ぶと、次々に枯れていった。
でもこの臭いには馴れないよ!
そしてその枯れた植物の繭から、奇声が聞こえた。
「くせぇええええっ!なんだよお!この臭い!」
その声を聞いた瞬間、ランお母さんは泣き出した。
え?アイお姉ちゃん?
次回配達は本日 2023/02/11 17時の予定です。
サブタイトルは 精算の時2 です。