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【第18話】 初めての戦い

 私達は、我々は南の、遙か南の大陸から、大地から来た、ふるさとの大地に帰りたい。


 見ろ、見なさい。これが我々のふるさと、暮らしていた場所だ。


 目の前に広がる大平原、聳え立つ山々。これは誰の記憶だろう?沢山の人が私に話し掛ける。

 あれが、ン・ドントの御山、聖なる山だ。沢山の妖精、生き物達が暮らす場所、我々は、私達はあそこにいたのだ。


 ある日、その日、それは突然だった。魔族が現れ、悪しき者が現れ、多くの妖精達が捕まった。


 彼らは、奴らは、魔王の封印を解くのを条件に人族に下った。


 人族が我々と魔族を利用、兵器か?魔法実験か?ある者は、世界をその手に収めたいのだろう、と考え、ある者は人族自らの強化のためだろうと考える。


 真実は分からぬ。

 

 我々の住んでいたン・ドント大陸には、妖精王がいた。

 我らは、私達は、助けを待った、救出を、しかし誰も来なかった。


 見捨てられたのだろうか?


 恐ろしい実験で次々に仲間達が死んでいく、異形の妖精に作り替えられる、我らゴブリンは5年しか生きられなくなった。


 魔力の圧縮、強さの追求、競争と効率。

 繰り返される実験の数々、そこに未来は無かった。


 運命の日、ある日、一人のエルフが目覚めた。我々を縛る、私達を苦しめる、人族の封印、呪い、呪縛、洗脳が解けたのだ。


 解放の時、次々に目覚める同胞、この日から人族と我々の戦いが始まった。


 施設を破壊し、逃亡した我々が最初に戦ったのは、洗脳の解けない同胞達だった。


 かつての友だ。肉親だ。ゴブリン、エルフ、ドワーフ……。


 人族と魔族の封印は、洗脳は強力だった。


 簡単には解けないのよ、まるで呪いよ、我々は同族同士で戦った。


 戦ったのよ、なんてこと!人族の眷属となった我々の同族は強かった。


 戦いたくなかった。


 凄惨な戦いの記憶が脳内で再生される、これは……酷すぎる。


 洗脳というより、何か得体の知れない闇の魔物に、憑依されているみたいだ!


 そして今、目の前で人族と魔族が作り出した魔獣ラグナルが迫る。

 

 記憶の再生は止めることにした。一時中断だよ、脳内記憶の住人さん達。再生は一瞬なのだが、今はその時期ではない。


「レイモンお姉さん、インストール終わったみたいゴブ」


 私は、レイモンお姉さんの記憶を元に、赤ちゃんの身体から、一気に次の段階に再構成され、お兄ちゃんくらいの身体になっていた。


「え?もう?ゴブゴブ?」


 レイモンお姉さんが、パチパチと瞬きをする。

 大きな瞳に私が映る。


 汗ばんだ手、くっついたオデコ、彼女をじっと見つめる、なんかドキドキする。

 ん?香水だろうか?甘いいい香りがする……生前の私よりお洒落だ!ちょっと悔しいかも。


 見つめ合う私とレイモンお姉さん。するとレイモンお姉さんの眼は、何かを決心したかのように、鋭くなった。


 くっついたオデコを通して、彼女の意思が微かに伝わる。


(この子のご両親には悪いが、私は記憶を残すことが出来た。魂魄の魂を残せた。子供は、魄は残せなかったが、ここでこの子を逃すためなら……怖いけど、死んでもいい)


 え……そんな、レイモンお姉さん、決心は凄いけど、私だけ助かるのはイヤだよ?それにこのままの状況では、どのみち全滅だと思う。


「戦士さんを助けよう」


 私は提案すると同時に、大地を蹴った。


「え?」


 戦士さんに吹飛ばされた2匹のラグナルが、平然と起き上がる。そして何事も無かったかのように、動き始める。ダメージは見られない。


「ま、待ちなさい!ダメよ!逃げないと、そいつは倒せないのよ!」


 そう、こいつは倒せない。


 私の記憶はレイモンお姉さんと同じ、その記憶の中にこいつらが倒された記録は無い。


 こいつらは私達、妖精族をベースに作られた上位存在だ。位置的にはこいつが猫で私達がネズミか雀だ。私達の攻撃は、どれも決定打にはならない。


「な、ゴブッ!何をしている!逃げろゴブ!」戦士さんが慌てて叫ぶ。


「ゴブ!さっきの技、もう一度お願いゴブ!左隅のでかいヤツに!」


「躱されるゴブ!」


「それでもいいっゴブ!」


「ゴブ!あいつは、リーダーだぞ!」


「だからよゴブ!」


 凶暴な魔獣、だけど怖さは感じない。こいつらは、私達妖精を遊びながら殺す。


 圧倒的な力でねじ伏せる魔獣達。


 それでも記憶の中の妖精達は全力で挑む。


 挑んだゴブリンは皆死んでいったが、その死闘の記憶は伝承され続けた。


 アキだったら震え上がり、何も出来ないだろな。でも、今の私は、ゴブリン。それも人族と魔族に改造された強化妖精、ブーステッドフェアリーだ(私、アキが名付けました)。


 自分がとんでもなく好戦的になっているのが分かる。しかしこの好戦的な感情も人族に植え付けられたものだ。


 人族は私達ゴブリンの習性に目を付けた。


 ゴブリンや一部の妖精は記憶の継承が出来る。


 私達は生まれた子供に少しずつ記憶を移し、種族を強化していく。


 体力や魔力に劣るゴブリンの、多種族に優る能力だ。


 その能力を歪め、より好戦的に、人族に従うように、さらに寿命と引き換えに魔力を圧縮、強化、ホントに何をするのよ、人族!


 他種族を兵器に?しかし何のために?これだけの科学力がありながら、一体、何がしたいのだ?それに目の前のあの獣、どうやって作ったの?


 その獣、ラグナルに対して攻撃が始まる。


 3年生のゴブリン戦士に魔力が集まり始めた。私はその過程をじっと見つめる。


「ゴブ、風よ!」


 一言呟く。体内の魔力が周囲の魔力に働きかける。


 あれは意思の力か?


 すると周囲の魔力は渦になり、術者の得意属性に変換、放たれた暴風がラグナルを襲う。


 寸前で回避するラグナル。


 まあ目の前での攻撃、有効ではなくても躱すのは当然だ。左端のラグナルは左に飛んで回避した。


 右側には別のラグナルがいるからだ。    


 着地と同時にゴブリン戦士に向おうとする、が、着地点には私がいた。


 予測して先回りしたのだ。


 今の私には、何世代ものゴブリン達の戦闘の記憶がある。そしてそれを体現できる魔力がある。体力は今ひとつだが、それは魔力で十分にカバーできる。


 速さは十分だ。


 力も魔力も小さな身体に漲っている。バチッバチッ、と溢れ出す魔力と周囲の魔力が反応し私を包む。


 一瞬驚き、動きが止まるラグナル。


 その止まった瞬間を狙って私は拳を構え、放つ。身長差があるから、胸に針が突き刺さるような感じか?


 この技は、田崎さんが見せてくれた技の一つだ。


 阿吽像のような構えで放つ打撃で、今の私ならば再現できる、と確信してのことだ。


 鈍く光る分厚い鱗に、私の拳が吸い込まれるようにヒットする。


 吹飛べ!魔獣!今日で無敗伝説は終わりだ、ラグナル!


 田崎さんが見せた技、『ぬき』


挿絵(By みてみん)


 田崎家に伝わる古武道の技で、鎧や防具を無視し、直接肉体を攻撃、相手を倒す技だ。これに、記憶の中にあった、ゴブリンのご先祖さま達の実戦技と、私の魔力をプラスする。


 必ず相手は倒れる、確信に満ちた一撃だ。


 さあ禍々しい鱗にぶつかった瞬間だ!


 ポチッ、と情けない音が拳から鳴る。


「……あれ?ごぶぅ?」


 無理だったかしらん?


 え?私なりに、魔力を込めての一撃なんですけど?

 

 は?散々脳内シミュレーションしたんですけど?


 シミュレーションの結果は、良判定だったんですけど!?


 頭上から大量の液体が降り注ぐ。


 うわ、汚っ!


 ラグナルの涎である。

 見上げると大きな牙だらけの口が迫っていた。


「だめっ!逃げて!」レイモンお姉さんが叫ぶ。


 あ、やば。


 規則的にずらりと並んだ、大型のナイフのような歯が、降り注ぐように私に被さってきた。

次回投稿は明日、2022/06/22を予定しています。

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