【第73話】 翔べ、ちゅんちゅん2
夕刊です。
かわいいなぁ。
だが、向うは戦場だ。
気を引き締めて!そうしないと倒れるのは私達。
この命の灯を吹き消そうと、奴等が向ってくる。
「先行する!」
皆に告げ、そっと、もふもふのエノンを撫でる。
そして、颯爽と背中に乗ると……うひゃあああああああああ!
ひいいいいいいっ!
エノンは、もの凄い勢いで翔び立った!
あっ、という間にランお母さん達は小さくなる。
ゴブリンや獣人の目でなと見失ってしまう。
(エ、エノン!凄いよ!)
(え?うち、凄い?)
(こ、怖いくらいに速いよ!)
(速い?まだ速く飛べるよ?)
(……このくらいで、お願いします)
(うふふっ了解!あ、魔ゴブリン!魔獣の群れだ!)
しかし、この背中、クセになりそう!ほわほわのもこもこだ!
それに、じんわりと暖かい。
(レイランお姉ちゃん!)
(砦に着いたわ。よく聞いてね、東より魔獣210、魔ゴブリンの群れ900、北より氷獣の群れ312、後方獣人族が18名布陣、あれ2名消えた、おかしいな?)
凄いなレイランお姉ちゃん。最初に狙われるわけだ。
(更に北に基地らしきものがあるわ、これ?何かしら?ここから魔ゴブリンが産まれているみたい、魔獣もかな?)
あ、ここからも見える!
白いドーム!?
生産工場だ!
どういうこと?鱗の人族の生き残り?いや違うな、これは鱗の人族の技術を復活させた、とみるべきだろう。
どこの誰だ!迷惑な!
(季羅お父さんに連絡は?)
(連絡したわ、こちらに向っている。先行しているミミお姉さんとケインお兄さんはもう戦ってる!氷獣が300切った!)
はやっ!
(エノン、明季、そのまま上から状況を報告しろ!そこが安全だ。もう砦に降りるなよ?分かったな?)
それは出来ない。
ゴブリン達が危ないのだ!
「エノン、ゴブリン達が危ないんだ!私は助けたい、付き合ってくれる?」
付き合ってくれる?付き合ってくれる?付き合って、付き合ってくれ……。
「ちゅ、ちゅぴぴぴぴぴぴぴっ!」
(つ、付き合う!うち、明季くんと付き合う!)
ん?
(コロ叔父さん、後ろの18名お願い!あ!目視で確認、北後方に3名隠れている!全部で21だ!)
(分かった、その調子で頼むぞ、おい!?聞いているか!エノン!降下しているぞ!)
「エノン、まず魔ゴブリンから殲滅する」
(数、多いよ?)
「私が今から魔法攻撃をする、攻撃終わったら突撃して各個撃破、いい?」
(分かった、でも危ないと感じたら、うち、明季くん摑んで翔ぶからね?)
「了解だよ、行くよ、エノン」
(緊急回避!)
「え?ひぁああああ!」
クルリ、と空中で回転する雀エノン。な、な、なになに?よく私、落ちなかったな?
シュッ、と音を立て通り過ぎる矢。
(矢の名手が何名かいる!ここまで届くなんて!)
次々に湧き上がってくる矢。もう弓矢を覚えているんだ!どこで覚えた?
よく見ると、普通のゴブリンの倍の大きさだ!強化ゴブリン?ホブゴブリン!?
また、命を弄んでいる奴等がいる!この技術、魔族チクリか!?
ゴブリンの苦しみ、悲しみ、知っているのか!
怒りで、ゾアントロピーが徐々に始まる。
体毛が伸び、犬歯が大きくなる。
戸惑ってはいられない!
魔力は十分だ、シルバーっちのプレゼント!ゴブリンの回路も開いている。ネクロマンサーにはまだ遠いけど、戦える!
「カウント行くよ、3(大地の液状化)、2(地下水の利用)、1(水、炎の結晶魔法)、久々の!山茶花!」
消えろ!過去の亡霊!
許せ!悲しいゴブリン達!
怒りと悲しみに満たされた私の感情は、そのまま魔力に伝わった。
次回配達は 2023/02/08 朝7時の予定です。
サブタイトルは 迷惑再び です。