表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/406

【第17話】 記憶のコピー

 お姉さんは、突然何かに閃いたように私の鼻をパクリ、と口に含んだ。お姉さんの口を通して魔力が私に流れ込む。 


 ?


 お姉さんの魔力とは逆に、私の何かがお姉さんの口に吸われる。


 ベッっとお姉さんが何かを吐き出す。


 真っ黒い血の塊だ。お姉さんは何度もそれを繰り返す。


 あ、呼吸が少し楽に……。


 私の鼻孔から血の塊を吸い出したお姉さん。凄いな、ここまでする?私他人だよ?ゴブリンの女性は愛情の塊だろうか?


挿絵(By みてみん)


 次に彼女は私の唇に唇を重ねた。


 キラキラした魔力が私に流れ込む。その魔力と共に、お姉さんが私の口腔内の血を吸い出す。


 スッ、と自然に鼻から気が入り込む。


「ごふっ」


 私は重く咳き込むと、大量の血の塊を吐き出した。お姉さんもベッ、と口から血を吐き出すと、ちょっとニッコリとした。


「息、出来る?苦しくない?ゴブゴブ」


 私は赤ちゃんなので上手く返事が出来ない、身体の関節も痛いし、頭も痛い。私に出来ることといったら、感謝の眼差しをお姉さんに送るくらいだ。


「目がどんよりしてきた、私がインストールするしかないのかしらゴブ……」


 インストール?


 お姉さんは周囲を警戒し、舌打ちを一つ。


「悪意がこっちに向ってきている、このままではゴブゴブ……」


 ポンッ、と大地を蹴ると凄い速さで移動し始めた。

 そして、おでこをくっつけた。


 ?


 姉さん、もう時間が無い。私がインストールするね、この子のお母さんやお父さんには、姉さんから連絡お願い。


 ち、ちよっとレー!そっちにラグナルが向っているのよ!インストールしている時間なんてないわよ!


 でも姉さん、このままじゃ赤ちゃん死んでしまうわ。


 レー!あなたもラグナルに食べられて、死んでしまうわ!


  姉さん!じゃぁ赤ちゃん、死んでいくのを見ていろと?とにかく成長が早いのよ!魔力と身体のバランスが悪くて、血を流して苦しんでいる。見殺しなんてできない!


 見殺し?そんなこと言っていない!


 時間が惜しいわ、始めるね。


 レイモン!


 姉さん、早く助けに来てね。


 くっつけた額。それが一瞬なのか、一時間なのか時間の経過があやふやになった。それはまるで、高熱で魘されているみたいな状態だ。


 まず、言葉が流れ込んできた。ゴブリンやエルフが使っていた言葉だ。リンゴお姉さんの知っている草木の名前や、お姉さんの姉妹、両親の名前が流れ込んでくる。


 お姉さんの名前は美観?ミカンか?


 次々と流れ込んでくる情報、これって記憶の伝達?伝承?みたいなもの?


 私の驚きをよそに、次々とお姉さんの記憶が私に定着し始める。トビトカゲの捕らえ方、料理の仕方、薬草、水の見つけ方、飲み方、毒草の選別。服の作り方、糸の作り方、川魚の捕り方、食べ方。


 うわっ、す、凄い!


 知識が増す度に、身体に変化が起こる。


 え!?


 お姉さんの記憶と私の身体が共鳴している?いやお姉さんの記憶を元に私の身体が再構成されている?


「あぐっ」


  関節が……体中の骨や筋肉が急激に引き延ばされる感覚に襲われる。


 ビキッビキッ、と筋肉と関節が成長を始める。こんな急激な成長、絶対おかしい!いだだだだだだだっ!痛いんだってばっ!ひ~っ


「ごめんね、ごめんね、成長痛、痛いよね?本当は薬草湯を使うんだけどゴブ」


 じゃぁ使ってよ!


「今は逃走中だから無いの、用意もしていないし……グスッ、ごめんねゴブ、ごめんねゴブ」


 勝手に成長を始めた私が悪いの?なにこの身体!


 あ、記憶の中に薬草のお湯で洗われている赤ちゃんの姿が見える!本来はこうするのね。


 しかし痛すぎる、何か他のこと考えて、意識を逸らさないと……。

 そうだ、新しい記憶の、レイモンお姉さんから貰った記憶の検証をしてみよう。


 あ、魔法の記憶だ!


 自然界にある『チカラ』を『魂魄』の『魂』で扱う?


 よく分からない、意思の強さってなんだ?


 ……なんか難しい単語が次々に流れ込んでくるけど?使い方は……そんなに難しくないぞ!?威力は感情に比例する?取敢えず使い方は分かったぽい。


 細かい検証は後回しだ。


 武術らしき記憶もあるぞ?あ、拳の握り方が、田崎師匠の教えと同じだ。すり足の移動?これも同じだ!


 しかし、これは便利だ、教わる必要が無い。


 武術や魔法、これらの技術を使いこなせるかどうかは別として、基本はそのまま伝わる。


 そんな過去の記憶と、私の今の状態を照らし合わせてみた。結果、私はかなり強力な魔法を行使できるのでは?


 ん?


 これは……お姉さんだけの記憶ではない!お姉さんのお母さん、お婆さんの記憶もある!更にその先の記憶もある!


 ああ、代々の記憶の渦だ。何処まで遡るのだろう?


 わっ!なんだこれ……!?


 拉致?妖精達を使った実験?兵器としての利用、運用?


ここは島?孤島か?


 あ、小さな船が見える。乗船しているのはゴブリンか?


 ああ、何度も島から脱出を試みているけど、出られない!


 そのデーターは恐ろしくも悲しい記録だった。


 記憶の検証を始めようとしたが、身体が……あれ?汗が?頭痛も関節痛も治っている!それどころか、か、身体が軽い?


「じっとしていてゴブ、まだインストール途中なの」


「わ、わかったゴブ」


「あら!優秀ね、もう喋れるのゴブゴブ?インストール途中なのに。混乱は……していないようねゴブ」


 か、体が、大きくなっている!もう赤ちゃんではない、お兄ちゃんと同じくらいだ!え、これって?力が、力が漲る!でもこれじゃお母さんやお兄ちゃん、私って分かるかなぁ。


「!」


(チッ、ラグナルがもう来たの?)


(逃げないの?)


(インストール中は動けないのよ)


(え?そ、そっそんなぁ)


(私から離れてはだめよ、離れるとバグが出る)


(!)


(どうしたの?お姉さん?)


(あ、あなたもう念話している!す、凄いわね)


 え?私、凄い?いや、でも、バグですと?バグって何?何それ何それ!怖いんですけど!どーなるのよ私!


 レイモンお姉さんは私の手をぎゅっと握りしめた。


 山の頂上付近に佇んでいる私達二人。それを囲むように、8匹のラグナルと呼ばれる怪物が現れる。


 なんとも異様な容姿だ。


 分厚い鱗に覆われた熊?巨大な狼?いや長くて大きな尻尾もあるし、遠目には恐竜に見えなくもない。


 シェイプされたトリケラトプス?細長い目は真紅で瞳が無いのも不気味だ。大きさは7メート程か?丸太みたいな尻尾は要注意だな。ガンメタリックの鱗はいかにも硬そうだし、でかい割には動きが速い。それに何だ、あの牙は?でかすぎだろう!


 あいつらは、私達ゴブリンから見れば更に大きく見える。あれと戦うの?どう見てもこれは無理ゲーだ。


 今はお昼で明るく、奴らの姿がよく見えるが、これが夜だったら恐怖倍増だ。一番でかいヤツは10メートルはありそうだ、あれがリーダーか?


「!」


 一瞬、空間が歪んだかな?と思うと、ドンと重い音が響く。大地が抉れ、土煙が揺らめき、2体のラグナルの巨体が吹っ飛ぶ。


「あ、戦士さんゴブ!」


 私の双眼は一人の戦士を捉えた。村長さんに紹介された3年生の戦士さんだ。


 あのラグナルの巨体を吹飛ばすなど、小さなゴブリンに出来ることでは無い。明らかに異常だ。それとも、この世界のゴブリンってコレが普通?


 誰かの記憶が答える。


 我々ゴブリンは200年の寿命と引き換えに、強力な力を得た。だがそれは、自ら望んで得た力では無い。


「!」


 き、記憶に僅かな意思が宿っている?希薄だけど個性がある!

次回投稿は2022/06/21を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ