【第58話】 知らない超空間でお話1
夕刊です。
何が盗まれた?
魔導書!?
そんなのあった?
いや、作ったのだろう。しかしゴブリンが魔導書とは、どんな内容なのだろう?
「明季くん?」
震える声でエノンが名前を呼ぶ。
そっ、と誰かが私の頭を抱いた。
あ、おっぱい波動、出ている!
この波動、エルフさんだ。
あなたが導いていたゴブリン達は、この地、故郷のン・ドント大陸で生きているよ。
ここで、ギクリとした。
記憶、蘇ったりしないよね?
「明季、何があった?いや、聞いてはいけないな。お前も話したくないのだろう。話したかったら、もうとっくに話しているはず。ゴブリンを許してやれ、泣きながら歌うリラちゃんは、見ていて痛ましい」
「あ!」
嗚咽混じりの歌。
「リ、リラちゃん!もう、もういいよ!」
彼女は首をふる。
最後まで歌いたいらしい。
リラちゃんは一生懸命歌う。
改めて聞いてみる。
真剣に。
……こんなにも正確に、伝えていたの!?
(はい)
誰だ!?
パチンッ、と何かが弾けた。
わっ!なにこれ!?凄い魔力の渦だっ!
わっわっ、ひ、引っ張られるっ!
……え?
辺りが暗闇に包まれる。
ここ?
気がつくと、見知らぬ場所に私はいた。
あ、亜紀になっている!
え?なに?このフリルのワンピース、誰の趣味?
あ、でも靴は可愛いかも。
でかい帽子も頭にのっかっているなぁ……。
周囲を見回す……ここは超空間、だよね?
日本庭園ではないが、綺麗な湖が広がっている。
誰の超空間だ?
あ、青い鳥!
えーと、あれは……あ、そうだカワセミだ!
カワセミに近づくと、どこからともなく、歌が聞こえてきた。
(これは我々と、闘神さまとの思い出の歌です)
誰?実体がない?
カワセミに憑依している?
(私はゴブリンの集合意識体です)
なんだそれ?
(数多くの魔石の結晶が意識を持った、と思って下さい)
え?わからん!
(ゴブリンの想念が繋がって、千年ほど前に生れた意識体です。生きているゴブリンも死んでしまったゴブリンも、その意思の一部が私の中で循環しています。先程、老ゴブリンが言った、不死のゴブリンとは、私のことです)
ますますわからん!
超空間の住人?ローローとネーネーの拡大版?
残留思念の集合体かな?
綺麗なカワセミに見えるが、見えるだけだろうなぁ。
鳥といえば、1.5mの巨大雀(近々大活躍予定)。
ふと、エノンを思い出す。
あ、ほっこりして、なんか落ち着いてきた。
(この私の存在に気づいた王都の者は、私をインフィニティーリングとか循環上昇の輪とか呼んでいます)
!?
(循環しながら、進化してく、エネルギーリングと言っていました)
何処かで聞いたことあるぞ!?インフィニティーリング!
どこだ?
あ!
ナツのコアだ!
特殊なコア、インフィニティーリング!
どういうことだ?
私は自然と、リラちゃんを意識する。
彼女を依り代としているの?
(そうです、今は彼女の魔石に宿っています、ホルダー阿騎)
懐かしい呼び名だ、だけど今は私、獣人族の明季。
シュート家の明季。
(私達にとっては、ホルダー阿騎なのですが……)
次回配達は 2023/02/02 朝7時の予定です。
サブタイトルは 知らない超空間でお話2 です。