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番外編 遙か昔のお話

番外編です。

原稿用紙約13枚分、ちょっと長いです。

「ゴブ、ドワーフの王、行かれるのかゴブゴブ」

「行ってくるニト、お前も来ぬかニト?おばばさまも来るニト」

「私は薬師、ここで残りの命、使おうと思うゴブ」


 吹き抜ける塩風、ニトの目の前には、新造の蒸気船が堂々と横たわっている。

 その勇姿は、明らかにバトルシップである。


「エルフも来るぞ、島に行くぞ!元帥待っているぞ」

「ゴブ、お誘いは嬉しいゴブ。しかし成月が薬師の記憶を引き継いだゴブ。あいつと、この大陸を旅したいゴブ」

「エノンも一緒か?リュートも一緒か?」

「ゴブ」

「コロも一緒か?玲門も美観も一緒か?」

「コロ達は王都に残るゴブ」

「では、コロは王都の守護者だな、美観も玲門もここで阿騎とサイザンの帰りを待つのだな」


 彼らは考えた。


 ホルダー阿騎ならば、生まれ変わっても王都を目指すのではないかと、ここで言葉や偉業を残せば、阿騎に届くのではないかと。


 多くの資料をここで残せば、未来に届くのではないか?


 サイザンのことも知りたいはずだ、皆のことも。

 魔王と化したサイザン。

 鱗の人族の首都を灰にし、その住む大陸の大半を海に沈めた、恐怖のサイザン。


 魔王認定されたサイザンは討伐対象となり、速やかに討伐されるはずであった。


 起動する勇者システム。

 出撃したのは、勇者3番機、一寸法師。

 その光り輝く一寸の全長には、魔族を一撃で粉砕する力を秘めている。

 が、勇者の到着が遅れ、鱗の人族は絶滅、人族の各都市は海に沈んだ。


 フルパワーモードのメイドンは、サイザンに向わず、勇者に挑んだのだ。


「どいてください!メイドン!あなたとは戦いたくない!」


 激しい攻防の中、一寸法師は叫ぶ。


「いやデス」


 地上、空中、場所を問わず激しくぶつかる2機。


「鱗の人族が滅んでしまう!あの魔王は異常だ!」


「メイドンは鱗の人族より、サイザンさまの方が大事デス」


 そのメイドンの右腕が吹飛ぶ。


「デス!」


 次は右足が吹飛ぶ。


「なにをしている法師!鱗の人族の反応が消えたぞ!急げ」


 後方より攻撃したのは全長3mの勇者5番機、朱天童子。

 失速するメイドン。

 高速で飛び去る2機の勇者。


「朱天童子、後ろからとは…」


「俺だってメイドンは好きだぜ?頭は外したろ?」


「……どうして、あなたが出撃したのです?小角さんでは……」


「ああ8番機は嫌いだとよ、鱗の人族。出撃拒否だ」


「拒否ですか、小角さんらしいや」


「いたぞ、魔王サイザンだ!」


 この勇者と魔王の戦いは、壮絶を極め、残った鱗の人族の大陸をも沈めた。

 そして、魔王サイザンはン・ドント大陸に弾き飛ばされる。

 燃え尽きるように魔力還元し始める魔王サイザン。


 そのサイザンに意思はない。

 魔王になった時点で、怒りだけの存在になってしまったのだ。


 そして、ン・ドント大陸の北の平原に立ち上る憎悪の黒い炎。

 人型のその暗黒は、朱槍を持ち、静かに立っている。

 コアを中心に怨念だけの存在となったサイザンは、止まることなく

その怨念で周囲を破壊し始める。


「二人がかりでこれか、強かったな、この魔王」


「もう、コアだけですが、恐ろしい怒りですね……」


「この状態では……コア破壊するか?本部に聞いてみるか……」


「!」


 辺りがゆっくりと動き出す。

 お互いを見る一寸法師と朱天童子。

 その横を駆け抜ける崩れかけたメイドン。


「お別れデス、サイザンさま」


 メイドンのOVERKILLがサイザンを捉える。


 黒い思念は消え、コアは砕けた。

 砕けたコアは魔力還元し、そこには朱槍だけが残った。


 静かに佇むメイドン。


 辺りは静寂に包まれる。


「……王都まで送るよ、メイドン」

「メイドンは、歩きたい気分デス」

「そう」

「壊したオレが言うのも何だが、修理はいいのか?部品なら上(空中都市)にあるぜ?」


 勇者の一撃は、全ての体内情報を破壊する。

 メイドンは明らかにエラーが出始めていた。


「不要デス」


 メイドンは朱槍を大事そうに握り締める。

 そして朱槍を杖に、王都を目指し、ゆっくりと動きだす。


「じゃな」

「それでは」


 飛び去る2機の勇者。


「どうした法師?」

「とどめを刺したメイドンは、どんな気持ちだったかな、と」

「おいおい、あいつはゴーレムだぜ?最後の美味しいところ、持っていきやがって」

「でも、討伐に向う僕を阻みました」

「まあ、地牛が作ったゴーレムだからなぁ」


 勇者達は何事もなかったかのように、空中都市に帰って行く。


 ザクッ、ザクッ、不規則な足音。


 方向は分かる、だが距離が分からない、センサーの大半が壊れ始めたのだ。

 今のメイドンは唯、朱槍をニトとリュ-トに届けることしか考えていない。

 時間経過も分からず、指定されたポイントに向うだけの存在だ。


 どのくらい歩いたであろうか?


 メイドンは首都に辿り着くと、更にニトとリュートを目指した。


「ゴビッ!メ、メイドン!」


 そのボロボロの姿を見て、リュートは泣き出した。

 そして駆け寄り、メイドンを抱きしめる。

 静かに歩み寄るニト。


 メイドンは静かに震えた。


 そして、声を上げる。

 慟哭だ。

 それは、まるで泣いているようだった。


 首都は騒然となる。


 魔王を討伐したのか?

 勇者以外で?

 噂が広まり、妖精達が集まり始める。


「メイドン帰った?どこに帰った!?」


 走り寄るドワーフの王。

 集まる妖精達を蹴り飛ばし、ぶん殴り、道を自ら作り、進み出る。


「治してやる、修理してやる、ドワーフの王の名において、元通りにしてやる」


「デは、オウ、悲しミも治しテ下さい、メイドンは苦シいデス」


 メイドンは小さな子供のように叫び、動かなくなった。


 これより、ドワーフ王はその生涯を掛けてメイドンを修理することになる。

 そして、その過程において、数多くのゴーレムが生み出される。


「ドワーフ王、修理はどぎゃんね?」


 ここは元帥閣下の足下、千里島。


「難解である、困難である」


「おったちの魔科学力でも、これは難しかね。そぎゃんだろ?開発部長?」


「閣下、部長はおやめ下さい、私は二等兵であります」


「階級あげちゃる」


「遠慮しますよ、もう死んでいるし。この位置が、居心地いいのです」


「そぎゃんね。ばってんぐらぐらこくね、菌糸算譜のヤツ、協力せんち、言うた」


「閣下、それは仕方ないです、彼は基本どこにも属しませんし」


「ちっとばかり、よかろうもん!阿騎ん言うこつは聞いて、おったいん言うこつは聞かん!」


「まあまあ閣下、菌糸算譜にも立場がございます」


「二等兵殿、相棒殿!」


「どうされました?ドワーフの王?」


「ワシの時間は限られておる、お主の時間は限りがない」


「まあ、不死はある意味、呪いですかね」


「そこでお願い、頼みがある」


「何でしょう?王よ」


「ワシが倒れたらメイドンを頼む、これからを頼む、相棒殿しか頼めない」


「!」


 メイドンのボディーは僅かだが、自己回復している。

 ただ、その回復は非常に遅く、一部品に数十年は掛かるのだ。

 ドワーフの王と相棒殿はおそらく、この回復の遅さは勇者の攻撃が原因ではないか、と推測した。


「分かりましたドワーフの王。では、これらのゴーレム、いかがいたします?どれも素晴らしい仕上がりですが?」


「阿騎にやる、すべてやる」


「阿騎くんにね?いつ、どこに生まれ変わるか分からんとよ?この世界にまた来るかどうかも」


「それでもやる、すべてやる」


 これらのゴーレムは、後にネクロマンサーの召喚システムに組み込まれることになる。スケルトンもゴーレムも、その性質は変わらないとドワーフの王は看破した。


 死体に憑依して魔力と意思で動くスケルトン、金属に方向性を持たせ、魔力と命令で動くゴーレム、同じではないか?ドワーフの王はそう考え、研究を重ねた。


 そしてドワーフの王は、密やかに笑う。


 楽しみである、愉快である。スケルトンを召喚する時に、気がつくはずである。


 改良に改良を重ねたゴーレム。

 魔力1で召喚できるゴーレム。


 追従を許さない、このドワーフ王のスーパーゴーレム、百数十機。


 その時、驚く阿騎の顔と、傑作ゴーレムの活躍が見たい!


 阿騎、帰ってこい、皆待っている。


 そしていつも思う。ここにサイザンがいれば!

 この整列するスーパーゴーレムを見て、何と言うだろうか?


 目をキラキラさせ、感動するに違いない!


 生まれ変わりを信じるドワーフ王は、魔力還元するその時まで、メイドンの修理に心血を注ぎ、消えていった。


 数多くこの島に来た、ドワーフ。

 彼らは、それぞれの最高傑作の剣、槍、太刀、斧、武具、多くの物を残し、魔力還元していった。


 そして、それから時は流れ、メイドンに目覚めの日が来る。


 魔王を筆頭に魔族がン・ドント大陸に侵攻したのだ。

 魔族の目的は破壊と混乱。


 メイドンは再び、朱槍のゴブリン達と共に、大軍の前に立つ。 

 魔王に対峙したメイドンはこう言ったと伝わる。


「サイザンさまより、弱そうデスね」


    番外編 終


いかがでしたでしょうか?

久しぶりの 0時 投稿です。

一部変更があるかも知れませんが、後日譚です。

本編も、よろしくお願い致します。


ページ下部の評価欄から、評価をしてもらえると嬉しいです。

いいね、ブックマーク、感想等も、もらえると励みになります。

よろしくお願い致します。



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