表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/406

【第15話】 誕生

 落着いて思い出したことがある。


 私のお母さんは、私を産んで死んでいる。


 前世の記憶が一斉に目覚める。


 恐怖と悲しみが私を鷲掴みにした。


 おかあさんを傷つけたくない!おかあさんは死んではダメだ!


 また、私はお母さんを?


 いやだ!絶対にいやだ!


 お、おかあさん、がんばって!わたしもがんばるから!


 でも、どう頑張ればいいのだ!


 オロオロと考えている内に、身体が引き延ばされる感覚に襲われる。


 な、なに?ちょっと、いやかなり苦しい?


 え?え?


 うわーーーーーーーん


 く、苦しいっ!


 だ、だれかぁま、まどかぁぁっ!


 !?


 か、身体がひきのばされるうううっ!


 た、たさきさあああんっくくるしいいぃよおおっ!


 ひっ!!!


 眩しい?

 色彩が!音が!


 ヒュッ


 く、空気が、気が肺に!


 ホンギィ~ホンギャ~!


 こ、声が、鳴き声が!


 ホンギヤァほんぎゃぁ~!


 止まらないっ!


 コントロール出来ない!


 私、産まれた?


 え?安産?なのか?いやだいぶ苦しかったが。朧気ながら目が見えるぞ、音も聞こえる。なんだこの匂い?お母さんは大丈夫なの?


 ん?おかしい、赤ちゃんは産まれて直ぐに、目は見えないはずだ。いや私の意識がある時点でおかしいのだが、ここは?


 目の前に優しく微笑む綺麗な女性。ショートカットの黒髪から、ピンッと飛び出した尖った長い耳、二重の瞼に綺麗なピンク色の唇、力の溢れるスラリとした身体。


 特殊メイクやCGではない自然体のエルフがそこにいた。エルフだ!それも黒髪だ。本当にいたんだ、感動!リアルな質感、これは是非ローロンサに教えてあげたいな。


 私に近づき、微笑むエルフ。自然な息遣い、ふわっと香る……これは、花の香りだろうか?私、エルフに生まれ変わった?


 いやエルフではないな、エルフさん、と誰か呼んでいたし。綺麗だなぁと見とれていると、その足下に……。


 何かいた。


 それも沢山。


 ごぶ、ごぶ!ゴブゴブ。


 ごぶごぶ?


 私を抱きしめる腕、つぶらな瞳と目が合う。可愛いぬいぐるみ?それが第一印象だ。ぱちぱちと瞬きをして、よく見る。


 濃い緑色の瞳、あれ?目だけではなく肌の色も緑系統だぞ?


 微笑む唇から覗く可愛い八重歯、決して牙ではない、と思いたい。


 瞳と同じ色の、濃い緑色の髪から見えるのは……耳ならぬ一本の曲がった角。耳は?耳は横に大きく広がって、時々ネコの耳みたいにピッピッと、動いている。


 私は自分の目が限界まで開いていくのを感じた。


 これは……?


「可愛いな、赤ちゃん。お母さんを一生懸命見ているよゴブゴブ」


「本当だ、しっかりと見ているねゴブゴブ」


「ああ、かわいい私の赤ちゃん、こんにちは、私があなたのお母さんよ、ゴブゴブ」


「ゴブ?あら、産声が止まったわね。おっぱいかしら?ゴブ」


 ……ゴブリンだ……。


挿絵(By みてみん)


 とりあえず、私は失神することにした。


 転生はしたけれども、なぜゴブリン、どうしてゴブリン?私、ゴブリン?声を大にして抗議したい!


 私、悪いことした?いや人類滅ぼそうとしたけど、未遂だよ?実行していませんよ?


 それどころか親には恵まれなかったし、いじめの尽きることのない、人生だったのですけど?あげく殺されるし、ここはエルフ!(綺麗、かっくいい)とか、どこかの国の(裕福な)お姫様!とか、貴族のご令嬢(魔力沢山勇者なみ)でしょう?


 いや、ゴブリン可愛いよ、最初はぬいぐるみかな?とか思ったし、ちょこちょこ動く仕草は、ハムスターみたいな小動物を思わせるし……。


「大丈夫かしら、この子、ゴブゴブ」


「なにがだい?ゴブ」お父さんが、優しくお母さんに寄り添う。


 体は小さいけど、しっかりした肩の筋肉、大きな手。顔はちょっとつり目で怖いけど、瞳がとても綺麗で宝石みたいだ。この人が、このゴブリンが私のお父さん。


 食事中の私を心配そうに眺める二人。


 うまうま、おっぱいを吸う行動が止まらない私。本能の成せる技か?そしてお母さんと目が合う、優しい目だ。その目が悲しそうに揺れる。あれ?おっぱいの味が変わった?


 おかあさん、心配事?


「この子、生まれて直ぐに失神するし、病気かしら?私、心配で……ごぶごぶ……」


 後は涙声で、何を言っているのか聞き取れない。


 お母さんの大きな涙が、私の頬に落ちる。


 一つ。


 二つ。


 ぽたりぽたりと、際限も無く大きな瞳から、涙が落ちてくる。


 え?……な、泣かせてしまった?お、お母さんを?わわ、私……ど、ど、どうしよう?どうしたらいいのかな?泣かないで、お母さん!私も悲しくなる!お願い、泣かないで!私は願いを込めて、小さな手でお母さんの指を握りしめた。


 確かに、この現実、未だに受け入れられないけど、両親の愛情は感じる。事実、暖かいモノが身体を包むのだ。とても心地よい、これは魔力か?


「泣くな、元気に育つ、そう信じようゴブゴブ」


「……」


「指を握っているゴブ?まるでお前のことを心配しているみたいではないか、こんな小さな子に、心配をさせてはいけないゴブゴブ」


「ゴブゥ……そ、そうね……」


 お父さん、優しい!お顔はちょっと怖いけど。

 

 ん?なんか苦しい?私が身体を不規則に動かすと、お母さんはサッと抱き方を変えた。そして優しく背中をトントン。


 ん?なんだこれ?


 お?お?お?なんか、でる!


「ぐえっっっつぷっ」


 あん、すっきり!


 ……あれ?視線が?みんな私を見ている?


 仕方ないでしょう、赤ちゃんだし、我慢は良くないと思う。


「おいおい、今のはなんだゴブゴブ?」


「ドラゴンの咆哮か?ゴブ」


「元気がいい、心配はいらぬ、ゴブゴブ」


 周りの皆が、お母さんに声を掛ける。大丈夫だ、安心しろ、皆が付いている、この子は元気な子だ、と。

 

 あ、集まってきた。もしかしてゴブリン、子供好き?

 

 ゴブリンの皆は、浴衣みたいな服を着ている。


 帯の色ががとてもカラフルで、え?目立ちすぎでは?と思うほどだ。頭には革の帽子のような、ヘルメットのようなものを乗せていたり、綺麗な布を巻き付けたりしている。


 それらは大きな耳や、小さな角を格好良く見せていて、凝った意匠でとてもよい。


 服の方は、よく見るとオーバーオールみたいで、その上から浴衣みたいな服を羽織り、帯で締めているようだ。


 後で気づいたことだが、このオーバーオールもどきは、お臍の下辺りから尾骶骨付近までスリット?が入っており、上着の浴衣もどきを捲るだけで、トイレが出来るようになっている。


 え、おパンツ?ゴブリンには、おパンツの習慣は無いみたい。はい、皆全てノーパン、まるで平安時代とか鎌倉時代だね。


 でも平安貴族みたいな雅ではなく、皆、服はボロボロだ、折角の帯や服のデザインが残念なことになっている。怪我している人も沢山いるみたいだ。


 私はゴブリン達を見回し、更に周りを見る。


 ここは森?の中であろうか、おそらく沢山の木々が立ち並んでいるから森であろう。昼間だろうか?斜面もあるし、山の中みたいだけど?


 しかしなんとも不気味な森だ。


 木々はねじ曲がり、ジメジメと湿度が高く、自然の新鮮な気配がしない。匂いも変だ、腐ったミカンみたいな匂いが立ち籠めている。この世界はいったい、どんな世界なのだろう?


「さあ、休憩は終わりだ。今日中に山を越え、東の大山に行くぞ」


 エルフさんの声が森に響く。その声に反応し、一斉に動き出すゴブリン達。


「エルフ、コースはまかせていいかゴブ?」


「ああ、いいぞ村長、だがよければ、3年生か4年生の魔力の強いヤツを両脇に付けてくれ」


「わかったゴブ」

 

 ゴブリンは皆で百人程であろうか?エルフは一人しかいない、一体どんな集団なのだ?何かに追われているようだけど。


 あと3年生とか4年生とか何だろう?ま、赤ちゃんに状況説明してくれる人はいないよね?あ、人ではなく妖精か。

 

 ん?


「かーちゃん、赤ちゃん、これ食べるかなゴブ?」


「それはまだ無理よ、でもありがとう。優しいのね、お兄ちゃんゴブ」


「じゃ、かーちゃんが食べなよ、あげるゴブ」


「私はいいわ、あなたが食べなさい。お腹すいているでしょうゴブ?」

 

 香ばしい、お肉の匂い。なになに?お肉?チラリと横目でお兄様(きゃぁ~お兄様よ、お兄様!私の!)を捉える。


 その手には、全長三十センチ程の何かが木に突き刺してあり、煙と香りを漂わせていた。

 

 その形は……トカゲさん?

 

 は?


 無理無理無理むーりー!無理なんですけどぉ!


 トカゲなんて!ああああ、ポリポリ美味しそうに食べてるぅ、食べてるっ!それにお母さん、まだ無理よって、将来は食べなきゃいけないの?確定なの!?大きくなっても無理なんですけどぉ!


 それにトカゲの大きさが無理!ゴブリンって身長1m程か?1mに対しての30㎝くらいの大きなトカゲってって見てるだけでも怖いんですけどぉ!


「おお、上手に火の魔法を使えるようになったな、偉いぞゴブ」


 ん!?魔法?


「うん、とーちゃん、これで俺も一人前か?俺、凄い?このトビトカゲも俺が捕まえたんだぜゴブ」


「罠で捕まえたのかゴブ?」


「いや、手で捕まえたよゴブ」


 これは、休日の海で、親子の釣りの会話の感覚であろうか?アジコ(小さいアジのことです)、釣れたよ!みたいな。


「とーちゃん、罠はだめだよ、奴らに見つかると大変だものゴブ。ちゃんと、とーちゃんやエルフさんの言うこと聞いているよ。痕跡、足跡は残さない、だろゴブ?」


「そうだ、足跡は残してはいけないゴブ、できるだけ自然に溶け込み移動するのだぞゴブ」


「ゴブ!」


「さあ、俺たちも行こうゴブ」

 

 そう言うと、本当に溶け込むように、周りの風景と同化した。

 

 お父さんとお兄ちゃんが見えるのだけど見えない、透けて見える?そんな感じなのだ。


 そして滑るように移動が始まる。


 な、なにこれ?振動と音の無いジェットコースターに乗っているみたいだ。


 お、お母さん凄い!私を抱っこしているのに、このスピード!どうやって走っているのだろう?飛んでいる?陸の飛魚みたいだ。

 

 え?ということは、私も大きくなったら、こんな風みたいに走れるってことだよね?ちょっと憧れるんですけど。


 前は身体弱くて思いっきり走れなかったし。ゴブリンって凄い!


次回投稿は2022/06/15を予定しています。


ページ下の評価欄から、評価をしてもらえると嬉しいです。

いいね、ブックマーク、感想等も、もらえると励みになります。

よろしくお願い致します。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ