【第14話】 氷の世界
ん?
温かい感覚?
目覚めの感覚が全身に満ちる。
いつの間にか私、寝ていた?
どのくらい私は眠っていたのだろうか?
また夢の中に炎の巨人が現れたな、ん~よく思い出せん。
まあ、そのうち思い出すだろう。
ここどこだろう?
真っ暗ではないか!
眼が見えない?
あ、なんか眠い。
とりあえず、寝てしまおう。
*大好きですよ*
ん?
*大好きですよ*
私は再び起きた。が、どうも同じ場所みたいだ。
とても温かい、居心地のいい場所だ。
なんだ?この安心感は?こんな感じ初めてだぞ?
相変わらず眼は見えないが、色々な音が聞こえる。
*大好きですよ*
!
またあの声だ!
大好き?私の事か?誰だ?
身体は動くのかな?
私はちょっと動かしてみた。
コポコポ
なんだろ?私プカプカ浮いている?
!
「う、動いた!動きました」
「な、なに!動いた?」
「ええ、動きましたよ」
動いた?私のことか?
私、動けるよ?ほら!
「あいたたたたっ!」
え?ご、ごめんなさいっ!どこかぶつかった?
「だ、だいじょうぶか?」
「ええ、とても元気がいい子みたいです」
……!
え、なに?
こ、ここ、もしかして。
お母さんのおなかの中!?
「眠ったのかしら?静かになりました」
ど、どうやら私は……お母さんのお腹の中らしい。
「元気な子か……魔力はどうだろうか?」
「そうですね、魔力が多いと、いいのですが……」
!?
ま、魔力?なにそれ?どういうこと?
あ、眠い、凄く眠い、まだお話を聞きたいのだが……。
大好きですよ、いいこ、いいこ、すりすり。
あ、お腹をさすっている。なんたる心地よさ!
う~眠い……おやすみなさい。
?
ん?騒がしい?
私、どのくらい眠っていたのかしら?
!
お母さん?
「きた!逃げなければ!」
?
逃げる?
「早く、こっちだ!まだ間に合う!」
「折角、ここまで作り上げた村なのに」
「また作ればいい、今は逃げるんだ!村長、皆を!」
恐怖、不安、焦り、悲しみ、お母さんの感情がダイレクトに伝わる。
え?一体、何が起こっているの!
「ダメだっ!奴らの方が速い!」
「何匹だ!?」
「3匹はいるぞ!」
響き渡る悲鳴、怒号、獣?の唸り声。
「はあ、ハアッ、も、もう走れません、私を置いて逃げてください。このままでは、皆死んでしまいます」
「馬鹿な、諦めるなっ!お腹の子が……」
「お母さん、早く!」
!おかあさん?
おかあさん?どう言うこと?私以外にお母さんを、おかあさんと呼ぶ?え、私に、お兄ちゃんかお姉ちゃんがいるってこと!?
「くそっ」
「やめておとうさん!戻って!あいつらには、かなわないよ!死んじゃう!」
!!!
その時、私は悍ましい恐怖と、嫌悪を感じた。
なに?これ?
なんかいる!
私は『それ』を黒い塊として、感じ取った。
悪意の塊だ。
こいつ、知っている!知っているぞ!この感じ、弱者をいたぶり楽しむ奴だ!
私を散々いじめ抜いたヤツ、あいつらと同じ波動だ!
それが今、私の家族に襲いかかっている!
おとうさんに、おかあさんに、まだ見ぬ兄?姉?に!
(赤ちゃん!ごめんね、ごめんね、おかあさん、もうダメみたい!)
そんなっ!だめだ!だめだ!おかあさんは死んではいけない!おとうさんだって!私の家族!
何かできないか!どうにかできないか!
その時、聞いたこともない恐ろしい声が響き渡る。
え?これは獣の悲鳴?
「何をしている!こっちだ!」
「エルフさんっ!」
エルフ!?
「くそうっ、矢が通らん!なんだ、あの鱗は!私が囮になる、風下へ逃げろ!いいか、必ず川を渡れっ!足跡と匂いを残すなよ!」
「すまん、エルフ!こっちだ、掴まれ」
「お、おとうさん、怪我を?」
「深くない、エルフが、奴らの気を引いている、今のうちに逃げるぞ!」
焦り、恐怖、疲労、空腹。
お母さんから、悲しみと苦しみが伝わってくる。
いったい、ここはどんな世界なんだ!かなり不幸な世界ではないのか?
おかあさん、大丈夫?お父さんの怪我は?
「どうだった?」
「だめだ、避難場所にも奴らがいる、避難した者は皆餌食みたいだ」
「なんだと……」
「遠目にしか見ていないが、まだ奴らがうろついている」
「何人やられた?」
「恐らく三十人以上は……」
「東の大山に逃れよう、もうあそこしか場所が無い」
「東の大山?村長よ、その先は海岸だ、海だぞ?逃げ場が無くなる!」
「東の大山には、ドワーフの砦がある」
「ドワーフ達は受け入れてくれるだろうか?」
「他に場所は無いぞ」
「あいつら、お得意の金属加工で、鉄の砦を作っているそうだが」
「奴らの猛攻を何度か凌いだらしい」
「……俺たち、確実に追い詰められているな、どうする?」
「どうしようもない」
「そんなことはない、まだ私達、生きているじゃないか!」
「エルフ?!」
「エルフ!」
周りがざわめく。
「エルフさん!生きて……」
「死んでたまるか!」
エルフさん、生きていたのね!そうだ、死んでたまるか!何だ、この不条理な世界は!怖いを通り越して、怒りを感じるぞ!
「……」ん?お母さん?
「どうした?」
「産まれそう」
「え?」←エルフさん。
「え?」←お父さん。
「え?」←兄か姉。
「え?」←近所の人達。
え?←私。
えええええええええええっ?わわわたし、う、産まれるのっ!?どどど、どどど、どうしよう?産まれる?私が?どこから?
いや、お母さんからだよ!ど、どうしたらいいの?た、たしか呼吸はひっ、ひっ、ふぅ~だったかしら?あ、これはお母さんか?お、落ち着け、落ち着くんだ私!
次回投稿は2022/06/12の予定です。