【第13話】 闇の中の私
どうしよう、どうしよう、ごめんなさい、ごめんなさい……。
ああ、そうだ、同じ死者同士、逢えますか?
*難しい。彼とお前は意識の存在、変化率が違うからな*
そうですか……。
……ごめんなさい、では済まされないな。
申し訳ない、あなたの人生を消してしまった。償おうにも償えない、どうしたらいい?どうしようもない……私は、どの行動を選択すれば良かったのだろう?
*泣いておるのか?*
……く、泣いていません!
*仕方あるまい、ほれ、ないしょだぞ*
巨人は大きな手を私の前に下ろした。
すると、手のひらの炎が人の形を取り始める。その人の形をした炎をみた瞬間、あ、横山君だ!と分かった。疑いようが無い、横山君だ。本能?直感?で分かった。
(?あ、秋津川さん?)
巨人が少し震えると、小さな炎の横山君も少し震えた。何か情報伝達があったみたいだ。
(……僕は死んだけど、後悔していないよ、助けてあげられなくてごめん、それだけだ)
私の身体が少し震えた。すると何かが混ざり始めた。意識が混ざる?彼の感情が流れてくる。それと同時に私の感情も彼に流れる、いや吸い込まれるみたいな感じだ。
ごめんなさい、そして私を助けようとしてくれて、ありがとう。
思い出が過る。
初めて彼を意識したのは関連企業のソフトボール大会だ(そうなんだ)
私は野球やソフトボールなど、スポーツ関連は詳しくない。
ルールすら怪しいものだ。
彼は2塁と3塁の間を守っていた(ショートだよ)
そして打者が打ったボールが転がって、顔に当たった(イレギュラーだね)
で、顔がはれて、そう、特に左瞼、痛そうだったな(あれね、あれは痛かった)
戦力外応援の私が、病院に連れて行って(会社の車で送ってくれたよね、車の運転、安全運転で上手でしたよ、ええとても、本当です。でも僕はもう乗りたくありません)
ちょっと、何で私の心の呟きが筒抜けなの?
*これは面白い*
面白いって……。
*霊体同士での会話だからな、意識が混ざるのは仕方ない。上手く使えば凄い情報交換が出来るぞ*
……今、している所です。
炎の巨人さんと話しながらも、あの時の記憶が甦る。
そうそう病院で目薬を貰ったのだ。彼は一瞬戸惑い嫌な顔をしたのを覚えている。
(……忘れてくれ)
病院帰り、そのまま彼の家まで送って行った。途中腫れが酷くなり私は目薬を進めた。彼は返事だけして決して眼薬に手を伸ばさない。
なぜ?
私は思い当たることを口にした(見逃してくれ、口にしないでくれ)
もしかして目薬、苦手?点せないとか?
その時の彼の顔は忘れられない。
(なぜ気がついた?)
それは私のダチも目薬が駄目なのだよ、点せない。ウインクはできるのに。
まどかは私が眼を開けて、と言うとなんと口を開けた(誰それ?親近感を強く感じるぞ!)
目薬点せない横川君。男子が可愛いな、と初めて思った人だった(えっ?)
酷い虐めに遭っていた私は、周りの人間全て敵だった(なっ!)
人に対して可愛いと思う感情など、持ち合わせていない(……)
近所の野生の猫の方が数百倍以上可愛い、断言する。好きでこんな人間に成ったつもりはないのだがなぁ。
私は感情の一部が凍った人間だったんだ。
そして溶けることなく、死んでしまった。
何時何処で、死が待っているのか分からない。後悔無いように今を生きなければならなかったのに、私の人生は後悔だらけだ。
ああ悔しいし、悲しいな。
*お前は両親に苦しめられた、と思っている。両親を恨み呪い憎悪の対象にしている*
……そうよ、その通り。
*そして、悲しみに満ちている。何時も両親に問いかけていた*
……(そうなのか?)
*心が冷たく重くなったから、死後は冷たく重い世界に行く*
う、それ、いやだな。
どうにかなりませんか?心が冷たく重くなったのは私だけの責任ですか?
*責任?だがお前は冷たい世界に行けなくなった。お前には『ダチ』との思い出がある。お前のために命を捧げた者がいる。そのような者は沈まぬ、沈んではおれぬであろう?*
……そうだ。
あんな両親やクラスメイト、担任の先生が原因で沈むなんて、私を虐めた奴らのせいで冷たくなるなんて!
思い出の人達、まどかやローロンサ達、清掃のお婆ちゃんや校長先生、田崎さん、彼らの方が大事だ!助けようと手を伸ばし、命を落とした人がいるのだ!沈んでなんかいられない!
炎の巨人はゆっくりと動き、掌の横山君に語りかけた。
*お前は後悔していない、あるとすれば心配だ、残された両親と、祖母のことだろう*
巨人さん、あなたは何者ですか?
*ワシはお前達の上位存在だ*
横山君の形をした炎が、小さくなり始める。
*さて、時が来た*
彼は、細長い光の棒みたいに見える。引き延ばされている感じだ。
*青年、何か言い残す事は無いか?*
君を助けたかった。
そう言い残すと蝋燭の灯が消えるように、ふっと消えてしまい、この場は私と炎の巨人、二人だけになってしまった。
私は巨人を見つめる。
*お前の時も来たようだ*
私も消えてなくなるの?
*ん?消えて無くなりはしないぞ、渡るべき世界に渡るだけだ*
?
*お前は今より、色々な世界を巡ることになる*
え?
*旅立ちじゃ。生き変わり、死に変わりを繰り返すのだ。お前は倒れても、必ず起き上がるだろう*
七転八倒?ん?七転び八起き?あなたが仕組んでいるのですか?
*これこれ、仕組むとか言ってはならん。私は上位存在だが、私の上にも存在がある*
その上の存在が仕向けているのですか?
*仕向けている?違う、お前が望んでいるのだ*
私が?
*そうだ、お前がだ*
なにを?
*それを掴め*
それ?一体何を言っているの?
*よいか、この先大きな戦いがある!お前はその戦いで、必ず勝たなければならん!負けるなよ*
意識がだんだん遠くなる。
*ここで話した事を聞いたことを忘れるなよ、想い留めよ、そして必ず勝て!*
そ、そんなこと言われても。
*必ず勝て*
戦いで勝てなんて無理です!私、戦闘向きじゃありませんっ!
コマンド入力が得意なだけです!早押し連打が得意なだけですっ!ただのゲーマーです!戦闘はゲーム内オンリーですっ!
この時までは覚えていた。でもスイッチが切れるように意識がぷつり、と切れた。
そして世界が変わった。
ここどこ?真っ暗!?
大地ある?歩けるの?浮いているの?
私は、暗黒の世界へと落ちて行くような感覚に襲われる。
え~落ちないって言ったのに~なんか落ちて行くんですけどぉ~。
私、どうなるのぉ誰か助けて~。
……。
まどかぁ。
……ど、どうなっているの!
ローロンサぁ!
落ちているの?上がっているの?
ルカトナぁ!
ひぃ~。
……ア、アトロニアぁ!
わぁ~んっ!!!た、たさきさああああん!
……。
私は、闇の洪水に呑まれ意識を失った。
……。
次回投稿は2022/06/10を予定しています。