【第31話】 警戒
誰かの視線を感じた。
誰だろう?
ふと、レイランお姉ちゃんを見る。
「レイランお姉ちゃん、お肉食べてる?」
それとなく聞いてみる。
「ええ、シンお姉ちゃんがお皿に載せてくれるの」
元気ない?
どうしたのかな?
あ、たしかフェロモン、コントロール出来ないとか言ってたかな?
(レイランは異性を惹きつける性フェロモンのコントロールが苦手なのです)
あ、ランお母さん!
実は、ランお母さんのかなりの術者では?
この念話、他の人は傍受できない、私にピンポイントだ!
鋭い、突きつけるような念話、ランお母さんらしい念話だ。
(え、でもレイランお姉ちゃん、魔法のコントロールは凄いよ?)
私もピンポイントを真似してみる。
私のピンポイント念話は、紙飛行機がふらふらと飛んで、コツンと当たるような感じにしかならなかった。
ランお母さんがちょっとビックリし、ニヤリと笑った。
(魔法とフェロモンコントロールは違いますよ)
得手不得手があると?
(レイランは突然、次々に獣人男性から声を掛けられ、男性が怖くなったのです)
うげ、それは怖い。
(もともと内向的な性格です。村や周りの男共には、私が話を付けましたから、今は大丈夫ですが)
!
男共?話を付けた?一瞬、何人か蹴飛ばすランお母さんが見えたのは、きっと私の勝手な想像だろう。
憑きまといは怖い。
それもフェロモンによる、性本能の憑きまといとなれば最悪だ。
怖かったろう、レイランお姉ちゃん。
フェロモンも、いいことばかりじゃないのね。
(今はどうしているの?押さえているのかしら?)
(特定の食べ物を食べるといいみたいですね、あとフェロモンを中和する軟膏があります。これを塗ると大丈夫です。本来は好ましい異性、同性に巡り逢ったときにフェロモンが漂うのですが)
え?同性?フェロモンって異性だけじゃないの?同性を惹きつけるモノもあるんだ!獣人族限定かな?
しかし食べ物と軟膏か、大変だな。
となると、フェロモンを出す食べ物と、拡散するフェロモン軟膏とかある?
直ぐに反対のことを考えるのは、算数好きの私故か?それともクセか?
(ありますよ、人族やエルフが使っているみたいですが)
あるんだ。
でも感知する機能が失われたり、低下しているそうだけど?意味あるのかしら?
そして盛大な焼肉タイムは終わり、明日の予定のお話になった。
「襲撃があるかもしれん、各自注意するように。出発は日の出前、エノンとアイ、シンが交代で見張りだ、いいな」
「……」
「どうしたの?明季?」
シンお姉ちゃんが直ぐに気づく。
「明季、言いたいことはハッキリと言え、後悔するぞ。楽しく見えるかもしれんが、皆戦士だ、常に戦いに備えているぞ」
ああ、そうだね、コロ叔父さん。
「襲撃は殺害が目的なの?」
「!」
「それは分からぬ。が、儀式を邪魔する獣人族は殺されても文句は言えん。儀式は初めての旅だ。誰であろうとも邪魔することは許されない」
「ソリに剣が積んであろう?」
「うん、シンお姉ちゃん、あれは?」
年代物の剣が一振り、ソリに突き刺さるように置いてある。
「あれは儀式用の剣だ。邪魔するモノは切り伏せる。その象徴だ」
少し考えてみる。
「明季くん、何を考えているの?」
「ぬき、を皆に伝えたい。使えた方が有利だ」
「「「「「!」」」」」
ランお母さん筆頭に、みんな、食いついた。
「まず、基本になる技をゆっくり見せる」
「分かった。エノン、レイラン、周囲警戒。この技は広がると厄介だ」
雪だるまもどきを数体作り、槍を構える。
雪だるまもどきまでの距離は10m弱。
大地から気を練上げる。
渦を巻くイメージだ。すると魔力とイメージが連動し、魔法陣が発動する。
足下に光り輝く魔法陣が浮かび上がる。
渦を巻き、力が流れてくる。
力の中心はこの場合はお臍ではなく、丹田だ。
槍に一瞬力を込める。
練り上がった力が、方向性を持ち、槍に宿り雪だるまもどきを打つ。
ぼんっ、と爆ぜる雪だるまもどき。
ひっ、とビックリするレイランお姉ちゃん。
ポカン、とするアイお姉ちゃん。
アイお姉ちゃん、ちゃんと見ていた?
「見えた?」
「見えた」
鋭い眼光で答えるコロ叔父さん。
「次いくね、今度もゆっくり見せるから」
槍を置き、仁王さんに似た型、を作り上げる。
口からは、細長い呼吸音が口笛になって響く。型と呼吸音が重なるその瞬間、お臍を意識し、拳を振るう。
ぼんっ、と再び爆ぜる。
「魔力を放出しているのか?」
アイお姉ちゃんには、そう見えるのね。
「うちには、魄の力を使っているように見える」
「先程の技と、重心が違うのではないか?」
うわっランお母さん!?
凄い質問なんですけど!
「最初の技は丹田を使い、今の技はお臍を使っています」
「そうか、分かった」
え!?分かったの?
「体術は獣人族の得意とするところだ、驚くことはない」
「では、もう少し」
「まだ技があるのか?」
技は山のようにあります。
ただ、思い出せないだけです、しくしく。
そこで氷獣との戦いで思い出した技がある。
ローローに教わった技だ。
「レンガを一つ、壊していいですか?」
「駄目だ、焼肉に困る」
ですよねぇ。
「では、代わりの何か硬いモノがあればいいけど」
「これではどうだ?」
ごろりとした、岩石もどきを大地から引き抜くアイお姉ちゃん。
獣人族、重力って知っている?
これ数トンありそうだけど?
「……アイお姉ちゃん、使わせてもらうね」
私はソリにある儀式用の剣を見る。
「使うか?」
ひょい、と投げるランお母さん。
ずしり、と重い剣。
獣人の私だから扱える。
亜紀だったら、両手でさえ持てないだろう。
難なく、すっ、と剣を抜く。
細身の直刀。
片刃である。
「それは儀式用として伝わっている物だ。成人の儀式には必ず携帯するようになっている」
「不思議だよね、私達は剣よりも拳派なんだけど」
アイお姉ちゃんが呟く。
そう言われるとなぁ。
「剣を使った技なんだけど、どうしよう?」
「見せてみろ、なにか応用できるかもしれん」
「そうだね、コロ叔父さん。では、まいる!」
私は直刀に魔力を込め、大岩に刃を当てると、すっと横に引いた。
剣は、速ければ速いほど切れ味を増す。
今の横引き、何人見えたかな?
ゴトリ、と大岩が切れ、落ちる。
「!」
「なっ!」
「岩を切った!?儀式用の剣で!?」
どうかしら?ま、驚くよね。
私も実際、使ってみるのは初めてだけど。
超夢の中では切れた。
「魔法剣?魔力を瞬時に使ったな?それも大量に」
「身体全体で剣を引いた?うちにはそう見えたけど」
「……正解です」
さすが凄いな、コロ叔父さん、エノンもよく見たな。
「あ、明季!手が……指が!?」
私の指は色が変わり、白く強張っていた。
じんじんと痺れたような痛み。
獣人族の回復力で速やかに元に戻ったが、人族だったらまず治らない。
「専用の剣が作れたら、大丈夫と思うけど」
「剣が、振動していたな?」
「これは、土属性魔法剣の先に在る剣です」
「土?」
「土属性の先?」
「大地、と言った方がいいかしら?」
「魔法はどのように組み立てるのだ?」
「説明しますね、ランお母さん」
みんなとんでもなく真剣な眼差しになった。
「いきものは、海から生れたとか言うけど、死んだら土に帰る、という。何で海に帰るって言わないの?」これはネーネーの言葉、そのまま使っている。
「!」
「生れた場所に帰るなら、海に帰る、が正解だよね?でも帰る場所は土なの。そこでこの属性剣」
あ、ランお母さんが魔法を組み立て始めた。
まずは海をイメージしている。海から生れた物が、大地に帰るイメージだ。
私の説明で魔法を組んでいる!
「この属性は土属性の剣なんだけど、正確には魄属性の剣」
「魄?それは肉体の剣、となるのか?」
「物質を構成している剣、と言った方がいいかしら」
「はく???」
アイお姉ちゃんが『?』マークに囲まれている。
「アイ魂魄の魄のことだ」
「はい、コロ叔父さん」
「魄は海から始まるのだな。そして土に帰ると?では先程の、明季の剣はハクの剣か?何か足りないような気がするが?」
ランお母さんは上位術者だ、間違いない。
「そう、これは土属性の先、上位存在の魄属性に、意思を加えた生命属性の剣」
「初めて聞く。ならばその剣は我々獣人族に対して有効か?」
「有効よ。この技は、満月期の獣人族を切ることができる」
「そのような話、聞いたことないぞ?」
ランお母さん、でも切れるんです。
次回投稿は2023/01/21の予定です。
サブタイトルは 生命属性の剣 です。