【第30話】 獣人族とフェロモン
「応援に来たよ、うちが来れば100人リキ!」
うわぁ100人リキとか言うんだ。
「けっ、帰れ!戦闘員は間に合っているよ!」
バッサリ切り捨てるアイお姉ちゃん。
「ふん、うちは季羅さまの命令で来たんよ、帰るのはアイでしょう?送るよ?あ、季羅さまに怒られるのが怖くて帰れない?無断外出だもんねぇ」
「ぐっ!」
「エノン、それくらいにしておけ」
「はーい、コロ団長」
にっ、と笑ってみせるエノン。
ぐるるるるっ!
今にも飛びかかりそうなアイお姉ちゃん。
「アイ」
「はい」
母の一言で、戦闘態勢を解除するアイお姉ちゃん。
パーティーメンバーがまた増えた。
次も戦士系。
僧侶とか、魔法使いとか、召喚士とか増えないのかしら?
ま、無理か。
お話が進んでいる間も、レイランお姉ちゃんはコツコツとお肉を焼き、シンお姉ちゃんとミューお姉ちゃん、ヒューお兄ちゃんはせっせと食べている。
「取敢えず、明季はその塊を切って、レイランへ渡せ、火は使うな」
「はい」分かりました、シンお姉ちゃん。
食べられるときに食べる。
「あ!お肉!う、うちも食べたい!」
「どうぞ、エノン」
さっ、お皿を用意するシンお姉ちゃん。
「シン!ありがとう!」
「これ焼けているよ」
「うう、お肉、レイランこれ食べていいの?」
「どうぞ、熱いわよ」
挨拶もそこそこに、焼肉に参戦するエノン。
この二人、エノンに優しいな?
といあえず疑問を口にする。
「エノン」
灰色狼のエノンに話し掛ける。
「なに?明季くん?もぐもぐ」
あきくん?
う、この声、前世と同じ!阿騎くん。
阿騎くん、か、私泣きそうかも。
それに、この灰色狼の可愛さ!
ピンとした耳、黒々とした目。
野生の狼じゃないから、雰囲気がちょっと違うけど。
私の横に座り、軽くしっぽ振っている。
その魅力に負けて、そっと手を伸ばし、軽く頭を撫でてみる。
目を細め、私にスリスリするエノン。
なでなで。
「と、鳥のメンバーはどこ?入れ替わったの?」
すりすり。
「入れ替わり?」
なでなで。
巨大な『?』マークがエノンの頭上に浮かぶ。
「目視できたのは鳥よ?舞い降りて、やって来たのは灰色狼のエノン。鳥さんはどこかな?」
ここでコロさんがエノンを見る。
あ、目で会話した。
「傭兵団の極秘事項だが、エノンはダブルなんだ」
「ダブル?」
何それ?
もぐもぐ。
しかしよく食べるぁエノン。
「普通、獣人族の獣化形態は1つだ」
ふんふん。
確かに、ランお母さんは虎、シンお姉ちゃんは豹、アイお姉ちゃんも虎だ。私はポメだし、形態は一つだ。
ホラー映画の狼男は、狼だけだ。
ん?まさか、エノンは?
「ネコ科かイヌ科が圧倒的に多い中で、鳥は少ない」
「うちは、その少ない鳥と灰色狼、二つになれる存在なんよ。凄いでしょう!」
えっ!?
「と、鳥にもなれるの!?」
「うふふっ、うち、なれるんよ!」
狼で走って、鳥で飛べる!凄い!
「中途半端って言わないかぁ?」
だからアイお姉ちゃん!
「子ネコはよく鳴くなぁ、明季くん慕って追いかけたくせに!」
「あんだとぉ?こ、これはヒューとミューが……」
ああ、この二人は?相性悪い?
ここでコロ叔父さんが止めに入る。
「エノン、明季を慕って、ついて来たのは、お前もだろう?魔力感知ギリギリで空からみ見ていた」
「……う!」
「まあいい、金狼の儀式に加わったんだ、仲良くしろ、とは言わん。もめるな、いいな?」
「……はい」
「それとアイ」
「……な、なんだよう」
あれ?アイお姉ちゃん、コロ叔父さん苦手?
「見合いは断ってもいいんだぞ?」
「!」
「兄貴からの伝言だ」
「コロ?」
あ、ランお母さん、ちょっと怒気?
「ランさん、俺はメッセンジャー、言いたいことは季羅に直接言ってくれ」
「分かりました。そうさせていただきます」
敬語が怖いな。
私の横に座り、ぱくぱくお肉を食べるエノン。
お皿が空になると、シンお姉ちゃんがさっ、とお肉を運ぶ。
ついでに私のお皿にも、乗っけてくれる。
そして、右側にはアイお姉ちゃんが陣を取り、ガツガツをお肉をお腹に詰め込んでいる。
「アイお姉ちゃん、噛まないと……」
「肉は飲み物だ!」
いや違うでしょう?味、分かるの?その食べ方で?美味しいと感じるのかしら?
「どうした?ランさん?」
「明季の周りには人が集まる。未知のフェロモンでも出ているのかな、と思って」
フェロモンと聞いて、ビクッとするレイランお姉ちゃん。
ランお母さんと目が合う。
「いいですか、明季、フェロモンには種類があります」
ふんふん。
「これは匂いに似ています」
ふんふん。
「これは、道しるべとなり、同族を導きます。また外敵の存在を知らせたり、仲間を呼んだりすることが出来ます。そして異性を惹きつけます。このン・ドント大陸に男女の獣人二人がいるとします」
!
ン・ドント大陸!
ここはン・ドント大陸なんだ!
「どうかしましたか?明季?」
「ううん、続けてランお母さん!」
「この二人は、どんなに離れていても、必ず巡り会います」
「!!」
「もちろん、好き嫌いは別ですよ、好みは別ですが、巡り会うことは必定です」
このフェロモン機能、途轍もなく大事な機能なのでは?
この機能が、フルに働けば、なにか凄い連帯感が出来る気がする。
仲間が危ない時とか、知らせたり、助けに行ったりできる?
それどころか、同族攻撃がなくなる?
いや、異性を巡って問題起すか?
「す、凄いですね、フェロモン……」
「そうですね、凄いです。ただし、この機能は薄れつつあります」
「えっ!?」
「人族やエルフ族の大半は、フェロモンを感知する機能をなくしています。彼ら種族の分裂や混乱は、これらの機能をなくし、同族間の同調が乱れたからとも言います。フェロモンはとても大事な機能です」
「人族やエルフは乱れているのですか?」
「権力を好み、支配を好みます。絶えず何処かで同族間の争いが起こっています。ン・ドント大陸は妖精の大陸ですが、人族も暮らしています。彼らには注意が必要です」
「巻き込まれるかも知れないと?」
「そうですね。それからゴブリンと一部のドワーフには、この機能がありません」
「え!?」
ない?どうして?
あ、元ゴブリンとしてはどうだ?
フェロモンなんて感じたことなかった?
「これは人族に、消された、と言われています」
「!」
え?
「遙か昔はあったそうですが、ある時代を境に、この機能がないゴブリン、ドワーフが現れ、増えていったそうです」
「……どのくらい昔なんですか、その、ゴブリン達が現れたのは?」
「語り部の話だと、アルゴナルゴ歴8500年辺りと言われています。この頃の人族は非情で、鱗があったと言われています」
鱗の人族!伝承がある!
それに歴がある!い、今は何年?何年だ!?
この言い伝え、もっと聞きたい!
「ラ、ランお母さん、今は何年なのですか?」
私は乾いた声で尋ねた。
多少声が、うわずっていたかもしれない。
「今は……」
「今は?」
「アルゴナルゴ歴で20501年です」
何年前だ?
約12000年前?エルフの寿命が2000としたら、何世代前だ?
人族と魔族の蛮行、正確に伝わっているのか?無理だろう!
地形も変わっているだろうし、進化、退化した生き物だっているはず!
その前に5年のゴブリンが、今まで命を繋いだ?
無理だろう!
いや、稀に生れる5年のゴブリンとか、季羅お父さん、言っていなかったか?
うう、考えることいっぱいだ!
ゴブリンの生態が変わった?
ん?
ちょっと待て、フェロモン機能をなくしたなら、ゴブリンやドワーフも混乱している?
いや、少なくとも私達は同族で争うことはしなかったぞ。
「ゴブリンやドワーフも混乱、分裂しているのですか?」
「いえ、彼らは不思議と団結しています。フェロモンに変わる何かがあると言われていますが」
魔力感知、感応力の強化だろうか?
もともと記憶の伝承があるから、ゴブリンは分裂しにくいと思うけど。
魔族チクリは何をしたんだ、私達に!何を望んだのだ!?
フェロモン機能を魔族チクリが消した?
邪魔だった、ってこと?
種族の連帯に必要な機能、フェロモン。
ゴブリンやドワーフを孤立させた?
次回投稿は2023/01/21の予定です。
サブタイトルは 警戒 です。