【第28話】 キャンプ?
「さて、今日はここでキャンプだ」
え?コロ叔父さん、日はまだ高いよ?
太陽の位置からして、15時?
「日が沈んでからでは遅い。確かに俺達は夜目が利くし、寒さにも強い。走れば今日中に到着だ」
「急ぐ旅ではないと?」
「ああ、色々と覚えないといけない。まず、俺と明季で家を作る、雪の家だ。シン、アイ、お前達は狩りだ。特にシン、弓の練習ちゃんとしていたか?」
「コロ叔父さん、弓よりもいいヤツがある」
あ、シンお姉ちゃん自慢するんだ。
ニヤリとして、ソリから武器を取り出した。
「大事に使ってね?無くさないでね、まだ試作品なんだから」
「わかった、わかった」
私の心配をよそに、嬉々として、大小様々な投げ矢を手にするシンお姉ちゃん。
「矢か?弓はどうした?」
コロ叔父さんが睨む。
「シン姉、それ短すぎるぞ?」
「これは、こう使うのさ!」
ひゅん。
獣人族の怪力と反射神経、特化された五感。
シンお姉ちゃんは遙か前方、樹木に身を潜めようとしている雪鹿を、仕留めて見せた。
「なっ!」
驚くコロ叔父さん。
屈強の傭兵団戦士が息を呑む。
それ程、一連の動作が素早かった。
そして正確無比!
「「え?」」
あ、アイお姉ちゃんとレイランお姉ちゃんがハモった。
「う、うそ……シン姉が獲物を?仕留めた!?」
「え?あ?あんなに遠くの雪鹿を!?」
「「しゅごい」」
称賛する、新ちびちゃんズ。
泣き出すお母さん。
え?え?お、お母さん?
「う、う、うううっ、シ、シンが、シンが雪鹿を、仕留める日が来るなんて!!」
おうっ、おうっと嗚咽が漏れる。
ち、ちょっとランお母さん!?大袈裟では?
「い、今のは、なんだ!?」
コロ叔父さんの声が高くなる。
「投げ矢だ」
一言、シンお姉ちゃん。
ふんっと胸を張る。
自然とコロ叔父さんの視線が、私を捕らえる。
私の視線は意識的にどこか、遠い方向に向く。
(明季!お前か!?)
取敢えず沈黙する。
雪鹿の体長は3m程だろうか?
重さは見た感じ、うーん私の計算では900㎏?
トナカイのような角があり、体毛は長く、真っ白だ。
シンお姉ちゃんは雪鹿に手を合わせ、いただきます、と言った。
「あれは自分に繋がる、全てのモノ、に対する感謝の言葉だ。解体は初めてだろう?ちゃんと手伝えよ」
私はコロ叔父さんに言われるとおり、お手伝いをした。
お魚は、捌いたことがあるし、3枚に下ろすこともできる。
清掃員さんから教わったのだ。
施設の皆は全員出来た。
覚えておきなさい、と言って清掃員さんが丁寧に教えてくれたのだ。
だがしかし、さすがに魚類と雪鹿は勝手が違う、獣人族の怪力がなかったら、動かすことも出来ない、大変な作業だった。
「食料は、当分調達無しでいいな。しかし一矢で仕留めるとは、どこで覚えた、シン?それに、ナイフを投げる技は見たことがあるが、矢を投げるとは、誰の考えだ?」
ん?シンお姉ちゃん、一瞬私を見た?
「明季と二人で考えた」
(明季と二人で?違うな、おそらく明季が考え、教えた、これが正解だろう)
う、コロ叔父さん、相変わらず鋭いなぁ。
エルフさんの氷の矢は凄かった。
前世で使っていた武器だからね、今は金属や木材で、代用している試作品だけど。
「私達の生活で、狩りは大事だ。生きていく術だからな」
「おい、シン姉、なにカッコつけているんだよ!今まで散々食べさせて、もらっていただろう?」
「今からは違うぞ」
獣化すれば、狩れるのでは?と私は思う。
(満月期しか獣化できないのが、普通なのだ。まあ、個体差はあるがな)
(ではコロ叔父さん、満月期に大量に狩れば?)
(必要な分だけ狩る、これは世界との約束だ)
「狩りは、相手の命を刈るものだ。必要以上に狩ってはいけない。そして相手に感謝できなければ、狩りはしてはいけない。この雪鹿は、今から俺達の血となり肉となるからだ、明季、忘れるなよ?」
「……はい、コロ叔父さん」
「そして、俺達が死ぬとき、魔力還元したら俺達の魔力は、世界の魔力の一部になる。魄が残ったら大地に帰る。まあ虫や肉食獣が食べるかも知れん。どちらにしろ死ぬ時が来たら、その時は俺達の番ってことだ。世界は循環しているし、循環させなければいけない。獣人族の昔からある教えだ。覚えておけよ?忘れるなよ」
「……はい」
あ、ランお母さんと目が合った。
「火葬されたら煙となって天に昇り雨を降らす。土葬されたら地に戻り草木を育てる。戦いに敗れ、野に屍を晒したら虫や獣に食われ、その者達の血肉になる。まあ口で言うのは簡単だが、実際、死を目にすると色々な感情が湧き上がる」
(ま、死にたくない、が、本音だがな)
「ランお母さん?」
「そして遊びで、命を刈ってはいけない、分かるな?」
「はい」
あ、前前世の記憶が横切る。
私は遊びで、命を刈られるところだった。
いや、心はだいぶ刈られたな。
今でも癒えない。
いつもは、この考えや記憶は横に置いているか、無視、封印しているんだけどな。
何かのきっかけで、浮上する。
今は、それどころじゃないのに。
嫌な記憶、どうやったら消えるのだろう?
復讐したら消えるのかしら?
うーん、消えないだろうなぁ。
ああ、悲しいくらい邪魔だなぁ前世の記憶。
「!」
誰かが、後ろから私を抱きしめた!?
レイランお姉ちゃん!?
(嫌なこと、忘れるくらい、いいことが沢山あれば良いのに)
(……そうだね、レイランお姉ちゃん。私が怖くないの?)
明らかに慰めてくれているよね?
私の記憶が怖いはずなのに。
どこまで私の記憶が見えているのだろう?
あ、手が少し震えている。
(怖いけど、私、助けられているのよ、明季に……でも、私に出来ることは、あまりないの、ごめんね)
「さて家作るぞ!雪集めろ、レイランも手伝え」
「は、はいっ!」
突然名前を呼ばれて、飛び上がるレイランお姉ちゃん。
「シン、お前も手伝え!」
「待って、コロ叔父さん、干し肉作りが先だよ!」
「これだけ寒いんだ、干し肉にしなくても大丈夫だ」
雪の家を作りながら、ゴブリンのことを聞いてみる。
これから会いに行くのだ、情報は多いほどいい。
それに、家を作るとは言ったけど、私は指示通り動くだけだし。
「コロ叔父さん、ゴブリンって強いの?」
どう答える?
「弱くはない。魔獣を一撃で倒すゴブリンもいるしな」
「小さいのに凄いね」
うふふっ、ゴブリンは弱くない!嬉しいな!
「ただ……」
「ただ?」
ん?何でしょう?ただ?話しにくいこと?
「ゴブリンは2種いる」
!
2種?何それ?
「良心あるゴブリンと暴力を好む魔ゴブリン」
「マ……ゴブリン?」
え?あのゴブリン!?生き延びていた!?全て討伐出来なかった?
いや、待って?いったいどのくらいの月日が?
彼らも5年の命だったはず……。
アイツらは、技をコピーする、とんでもない生物兵器だぞ!
「魔ゴブリンは殺戮と破壊、血を好む恐ろしい存在だ」
どういうこと?
「一番厄介なのは、この魔ゴブリンは技を真似るんだ、それも瞬時に。見た技を覚え使い熟す。こいつが発生したら一匹残らず倒さないと、大変なことになる」
発生!?
「コ、コロ叔父さん、その恐ろしい魔ゴブリン、どこにでもいるの?」
「明季、手が止まっているぞ」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
作業どころではない!
あのゴブリンが、野放し!?
獣人族のパワーとスピードで、見る見る巨大なカマクラが作られていく。
「魔ゴブリンは、魔力の淀みに発生する思念タイプの妖精だ」
「思念タイプ?なんですそれ?」
初耳だ。意思に関係あるのだろうか?
「思念タイプは、歪んだ意思や想念に、淀んだ魔力が反応して発生する、といわれている。また遙か過去、善と悪とに別れたドライアドの、悪の思念が関係しているとも言われているな」
まさか、原因はドライアド・トルク・マドカ?
「は、遙か過去に何かあったのですか?」
「ああ、あったらしい」
「……」
あの時の話が聞けるのか?
「ん……どうした?明季?」
「いや、続きを聞きたいかなって」
「歴史に興味があるのか?」
こくこく。
凄くあります!
「すまんな、俺はあまり詳しくないのだ」
えええええっ!?
そ、そんなぁ!
次回投稿は、1時間後の予定です。
サブタイトルは 更に追加 です。