【第26話】 医学の知識は乏しいです
諸事情により、1時間早い投稿になりました。
「私達獣人族は、身体が丈夫です。回復力が凄く、怪我や病気は大抵、眠って治します。ですから医療の知識がほとんどありません。今までは必要なかったのです」
あ、私とミミお姉ちゃんか、氷獣の未知の毒物。
「毒物や身体の働きについては、知らなくとも問題なかったのです。まあ関節や筋肉の動きについては詳しいのですが」
「関節?」
「格闘技、関節技や打撃は獣人族の得意分野ですよ」
体育会系で怪我しても、病気になっても、寝て治ると?
ある意味、無敵では?
だが、未知の病気や毒には対応しきれない、動けない。
対策も練れない?
調べ方も知らない?
薬草や毒物について研究していない、専門技術者、薬師とかいない、と。
これは、弱点ではないか?
事実、私達は死ぬところだった。
「子供の作り方は知っているのですが、妊娠についてのプロセスなど、知識がほとんどありません、明季、あなたの知識の中に、何かありませんか?その、子供が出来るタイミングとか技術とか?」
ネットで検索して下さい。
ネット環境が無いなら、図書館でも可。
あとは産婦人科に相談を、それぐらいです、私の知っていること。
シンお姉ちゃん……助けを求めるように見つめるが、目を合わせてくれない。
コロ叔父さん……え?いない。あ、先行している。
ああ、ニトお父さんなら何か、知っているかも。
いや絶対知っている!
ニトお父さん、助けて、私の手には余ります、この問題。
魔族チクリだったら得意分野か?
だいたい、この問題、子供の私に相談する?
あ、前世の記憶当てにしている?
うーん、知っていること?
子供大好き、赤ちゃん大好きのまどかは、詳しかったんだよね。
排卵時、体温の変化があったはず。でもこの世界、体温計、無いよね。
あとは?
生理のあと排卵がくる。
卵子の寿命はおよそ24時間。
この知識、人族の知識だけど、獣人族も当てはまるのかしら?
パチン!
あ、なんか閃いた。
「見る?」
私は呟いた。
見る?なんだ?見るって?
「明季?」
(卵子、見えるかな?見えたら妊娠の可能性が大だと思う)
(らんし?)
(卵の子供よ、お母さん。この卵子がお腹にいると、赤ちゃんが出来る可能性が高い)
いや待てよ、排卵前でもいいのか?
獣人族は丈夫だから、卵子の寿命は人族より長い?
「それは朗報です!」
いや、人族の知識だよ、獣人族に応用できるかどうか。
「それと、獣人族は普通、満月の時一番強くなるはず。強くて個体数が増えないのであれば、一番弱い時期、新月の時など妊娠しやすいのでは?獣人族は月に絶えず支配されているから、月と自分達の関係を見直すといいかも」
「!そんな考えがあったのですね」
「成人の儀式が終わったら、レイランお姉ちゃんか、語り部様に相談をしてみる?ランお母さん?」
「レイランの他にも魔力が高い者が数名います、彼女達にも協力してもらいましょう」
少しは役に立ったかな?
ランお母さん、嬉しそう。
多分、レイランお姉ちゃんなら、女性の変化が見えるはず。
私も見えるかも知れない。
(シン!シン!明季に聞いてよかった!あなたの言うとおり、明季は色々なことを知っている!この知識で少しでも子供が増えれば!他にも何か知っていそう)
いえ、期待されても困ります。
(隣の奥さん、泣いていたしね。あそこの旦那、大っっっ嫌い!お姑さんも嫌いっ!あれが獣人族の一般家庭だったら、私、決魂なんて絶対しない!)
え?誰かが、泣いている?
(シン……では、うちの家庭はどう?)
(!)
シンお姉ちゃん、どう答える?
(うちの家庭は例外だと思う。姉妹兄弟、賑やかで楽しいけれど、他の家庭は違う)
(どう違うのシン?)
(だって、子供二人産まれると、奇跡と言われているのに、うちは10人よ?不思議な夢の中で、せっせと作っていたなんて、初耳よ!そのお話、他の人が聞いたらいったい、どう思うかしら)
怒るかな?ずるい、と思うかな?なぜシュート家ばかり、とか思う?
(たしかに10人の兄弟姉妹は、獣人族にしては異常ですね)
(違うよ、お母さん!ランお母さんと季羅お父さんが、本来の獣人族の姿ではないの?)
(え?)
(夫婦仲良し、お互いが尊敬し合っている。昔、遠く南の湿原で見たツルみたい)
(……あなたはツルを見たのですね)
(魔石と金貨を交換し始めてから、みんなおかしくなった。皆、金貨集めに夢中になっている!そんな風に私には見える)
金貨の流通か、得意分野の一つだ。
調べてみるか。
それと、月と獣人族、妊娠と出産について統計を取ってみよう。
何処かに記録はないのかな?
薬草とか、医学書とか、そもそもこの世界、文字はあるの?
言葉は違和感なく喋っているけど?
ん?
何か大切なことが抜けている?
あ、あれだ。
「ラ、ランお母さん、あの」
「なんです?明季?」
うわ、ききずれぇーす。
はい、聞きづらいです。
なんでお母さんにこの質問?
その、なんだ、女の子の日の周期が聞きたいのだが?
うう、ゴブリンの時は何も気にしていなかったのに。
あ、そうか、ゴブリンの時は私、男の子だった!
その意識が残っているのかな、だんだん恥ずかしくなってきた。
うう、前世の記憶邪魔です。
ん?一瞬だけどシンお姉ちゃんと目が合った?
あ、あっち向いた。
?
「わ、私は新月の時よ、だいたい29日周期」
「!」
チラリとお母さんを見る。
「私は新月の周期12か13に一回よ」
月の周期?なんだ、それ?
新月から次の新月まで?
新月周期、12回か13回に一回?
え?
それって?
ええええっ?年に一回!?
月一ではなく、年一!?
猫だよ!それ!
わ、私の前世の記憶、役に立つのかなあ!?
でも、生命の神秘プロセスは同じみたいだし?
「シンお姉ちゃん、皆バラバラなの?その、周期は?」
「バラバラよ、人族の女性は私と似ているそうだけど」
統計取れるか?
それでも未来の赤ちゃんのため、頑張ってみるか。
なにか、いい方法はないか?
女性が泣いているんだよ。
パチン!
あ!
「女性コミュニティを作りたい、婦人会!」
「「?」」
(シン、ふじんかい、とは何だ?)
(わ、私に聞かないで、ランお母さん!し、知らないわよ)
「男子禁制の女性だけの相談、愚痴こぼし、真剣勝負、何でもありの場所、を作りたい!」
「「!」」
((それはいい!!))
「ちょっと待て」
ストップをかけたのはコロ叔父さん。
いつの間に戻っていたの?気がつかなかったよ?
「どうして?何故待つの?旦那さんやお舅さんに責められて、泣いているのでしょう?放っておけないよ」
「いや、それは男共が恐れるぞ」
「?」
なんで?
「明季、いいか、よく聞け」
「はい、コロ叔父さん」
「この事実も、今回の儀式で伝えなければいけない重要事項の一つだ」
「……はい」
「獣人族は基本、女性の方が強い」
「………………………………え?」
「耐えられない痛み、と言われる出産。女性は命を産むのだぞ、そのような存在に男が勝てるか?」
「は?」
「出産で命を落とす女性もいる。不死と言われる獣人族が命を落とすのだ、それ程のエネルギー、力を使う女性に我々は勝てない」
「え、で、でも、季羅お父さんやコロ叔父さん、毒無効とか、傭兵団の団長とか?」
「団長はまとめ役、毒無効は期限付きだ。獣人男性は好戦的だから強く見えるだけだ。そして獣人女性は、おおよそ戦いを好まない」
「身を守るために戦っていると?」
「まあ、そんなところだ。そのような獣人女性達が、組織を作ったら男共は非常に困ると思うぞ」
「コロ叔父さんも?」
「いや、俺はむしろ歓迎、賛成だな」
「どうして?」
「俺は、王都や色々な都市を見ている。女性が活躍する現場は活気がある。貿易、騎士団、傭兵団の運営、色々な研究開発、特に教育の現場は眩しいくらいだ」
「教育?」
「王都に子供達の教育機関や研究機関がある」
研究機関!?
あ、あの学生さんか。
偽物だったけど、研究機関や教育機関は、ちゃんとあるのね。
……どんな所なのだろう?
この世界のヤベンさんも王都に行くように言っていたけど。
(シン、旅の終わりが楽しみになった)
(そうね、ランお母さん)
いつの間にか森を抜け、岩場が目立つ地形になってきた。
速い?
これ、走ったら明日にも到着するのでは?
聞いてみるか。
「コロ叔父さん……ん?どうしたの?」
「待ち伏せだ」
「!!」
魔力感知の感度を上げ、範囲広げる。
あ、先の森林に誰かいる!
次回投稿は2023/01/14の予定です。
サブタイトルは 追加 です。