【第25話】 お母さんとお父さんは相思相愛相信
今回から2話ほど、人とは違う獣人族の性について書いています。
嫌悪感を感じられたら飛ばして下さい。
「誇らしげだな?ランさん。明季は成長が早すぎる。それに、こいつの知識の多さはなんだ!どこから仕入れたのだ!」
さて何と答える?
「レイラン以上に感応力が強くて、村中から知識を集めているのでは?」
シンお姉ちゃんが代わりに答えてくれた。
「知識は大事だが、実践を伴わないと身につかん。集めるだけの知識は虚しいぞ?」
お、さすが実戦の戦士コロさん。いやコロ叔父さん。
コロ叔父さんらしい言葉だね、その教え、忘れないようにします。
「質問がある、いいか?」
「……はい」
身構える私。
シンお姉ちゃんがチラリと横目で私を見る。
「答えたくなければ答えなくていい。ブーメランの名をどこで得た?」
え!?
うげっ!?
一般的な武器ではなかったの!?
「あの武器は、村に初めて持ち込んだモノだ」
「えー」
「投げたよな?巧妙に着地点、狙って」
「えー」
「投げて、回避、更に手元に戻したよな?」
「えー」
「キャッチこそ外したが、アレは手練れと言わないか?」
「えー」
「どこで覚えた?」
「えー」
どうしよう?
「これは不問でもいい」
え?聞かないの?それでいいの?
ん?これは?これはって??
「一撃、ゴブリンの技、なぜ明季が使える?」
「えっ!?」
「どうして俺が修得できると分かったのだ?」
あばばばばっ!どうしよう?どうしよう?
「ドワーフの護衛で魔獣に襲われた。その時に現れたゴブリン、動きは違ったが同じ技だ。再現しようにも一瞬だ、俺の目にも見えない速さだぞ」
「えー」
「それを明季は、ゆっくりと再現して見せた。大地から巻き上げるように練る魔力の流れ。兄貴も使えるようになった。あれはなんだ?」
「……ごめんなさい、分かりません」
これしか言えないよぉ。
ここでお母さんが、笑った。
「うふふっ、コロ団長、知ってどうするのです?無粋ですよ?精霊の導きがあったと思いなさい」
「!」
「無粋か?」
「問い詰めて満足するだけですか?どんな答えが欲しいのです?技を得たのでしょう?得たもので満足しなさい」
沈黙するコロ叔父さん。
あ、指が動いている、答えが出たのかしら?
「分かった、精霊の導きで良し、としよう」
ん?誰かがこっそり、念話している?
聞きたくはないが、耳?に入ってくるのだ。
私の場合は漏れないと思うけど。
(ランさん、いつからそんなに強くなった?精霊の導き?ようはあるがまま、全て受け入れろ、ってことだろう?明季の能力は異常だぞ?)
(子供達が、私を強くした、と言っておきましょう。明季は異常ではなく、スリルの塊よ、次は何が飛び出すか、ワクワクしない?)
(似たようなこと、兄貴も言ってたな)
ランお母さんは上機嫌で、足を速める。
少し分かったことがある。
このコロ叔父さんは、コロさんだけどコロ隊長ではない。
獣人族として経験を積み、獣人族として生きているコロさんだ。
基本は同じだが、バージョンが違うコロさんだ。
(シンお姉ちゃん、精霊の導きってなぁに?)
(確信のある閃き?かな。その閃きは間違いがないと言われているし、変更もできないらしいよ)
念話と会話で、獣人族のことが徐々に分かってくる。
雪の上を軽やかに歩く私達。
感覚的には歩くだが、かなり速い。
歩き出して3時間程か、森林が見えてきた。
ゴブリン東の砦は正確には、東ではなく南東にあたる。
3時間休み無く歩いているが、まったく疲れない、喉も渇かない。
思えば、寒くない。
どんだけ丈夫なの?獣人族?
「警戒を強めるぞ、ダークエルフの件もある」
コロ叔父さんが、呟く。
「?」
獣人族を襲撃する者達っているのかしら?
ダークエルフは、動機不明、所属不明で不気味だけど。
獣人族、かなりタフで強いのですけど?
それに私達を襲って、どんな利益があるのだろう?
「明季、森が見えるだろう」
「はい」
「あの森が境界線だ、森林限界と言うらしい。あの森より北側はもう植物は育たないと言われている」
?雪美草は?
「雪美草は?」
「ああ、あれが唯一例外だな。あの森付近では樵のオークや狩猟のエルフ達が住んで居る。相手にもよるが、他種族と出会ったらまず名乗れ、私はシュート家の者だと」
「はい、害意はないと、名前を言うことで伝えるわけですね?」
「まあ、そんなところだ」
あ、ランお母さんと目が合った。
「明季、次は私です」
「はい」
お母さん?どんなお話?
「村で、子供が少ないと思いませんでしたか?」
「あ、はい」
そう、獣人族の村は子供が少ないのだ。
なぜ?
しかし、少ないと思うのだが、私達は10人姉妹兄弟。
これいかに?
「獣人族は、なかなか子供が出来ないのです。強靱な肉体と精神を得たので、個体数が増えないのでは、と言われています」
自然の摂理?
強すぎる者が増えすぎると、全体が滅ぶ、は必定か?
「でもランお母さん、私達、10人姉妹兄弟だよ?大家族だよね?どうし……て……たくさん……!?」
ここで、平然としてはいるが、ランお母さんの頬がほんのりと赤く染まる。
あ、子供が聞いてはいけない……ことのような……気がしてきた。
え、でもお話振ったのはランお母さんだし……。
あ、コロ叔父さん、気まずそう。
あ、シンお姉ちゃん、横向いている。
……どうしよう?
「私もなかなか子供が出来ませんでした。そんなある日、季羅と二人で同じ夢を見たのです」
「え?」
同じ夢?アイお姉ちゃんが、言っていた夢使い?
「その夢はとても不思議で、感情が素直に伝わるのです。私達はお互いをより良く理解出来るようになり、すれ違いや誤解がなくなっていきました。こんな嬉しいことはありませんでしたよ」
「……」
「どうしたのです、明季?」
「感情が伝わる?人によってはその夢、見ない方がいいのでは?相手に対して良い感情ばかりではないと思うんだけど」
「思慮深い考えですね、明季。ですが相思相愛相信でないと同じ夢は見れないみたいです。あ、それと、どちらかが夢使いの素質がないと無理ですね」
……と、いうことは?私とアイお姉ちゃん、相思相愛相信?
あ、シンお姉ちゃんのお顔、見れないかも。
「頻繁に、私達二人が、同じ夢を見ることはありませんが、凄く、ごく稀に、もっと不思議な夢を見るのです」
「え?」
「そこでは、言葉で言い表すのが難しいのですが、感情の交換?大切な何かをお互い分け合うような感覚があるのです」
超空間!?
え?ま、まって!?
あそこまで行ったの?
獣人族、魔力少なめなのに?
ランお母さんも季羅お父さんも魔力は高めだけど、私よりも低いよ?
どうして行けたの?
魔力に頼らずに、行ける方法があるってこと!?
パンッ!
あ、なんか弾いた?閃いた?
月だ!!
月の魔力、おそらく満月か、新月の魔力を使ったんだ!
「その夢を見た後は、必ず子が宿りました。このことは誰にも話したことがありません。何故だと思います?」
え?なぜ?このことが広まれば、子供が確実に産まれる。
超空間での行動、修行したことは必ずリアルに反映されるからだ。
だけど?
相思相愛相信?簡単にできることか?
え?どう答える?
「相思相愛相信は簡単ではないし、夢使いはなりたくて成れるものではない。同じ獣人族でありながら、不平不満を口にする者が出るのでは?」
口にしても何も変わらないだろうに。
「そうです。ですから皆、私達、家族のことを知りたがります。そして私達夫婦の子供を欲しがるのです」
?
なんだ?それ?どうして?
「私達の子だから、子供を沢山得ることができる、と考えるのでしょうね」
「無理でしょう、それ」
「はい、でもどんなに、子供は違いますよ、と言ってもお見合いの話が次々に来ます。これが今の獣人族の問題の一つです」
少子高齢化?獣人族の現状か。
「そこで明季」
「はい?何でしょうランお母さん?」
うわーっ無理難題の予感。
「妊娠について何か、知識はありませんか?」
え?娘の私に聞くの?
次回投稿は2023/01/11の予定です。
サブタイトルは 医学の知識は乏しいです です。