表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/406

【第23話】 成人の儀式

「王都の学生?誰だ?」


 コロさんが、もとい、コロ叔父さんが尋ねる。


 ヒュー。

 風の音。

 隙間風が身に凍みる。


「あと少しでちゃんと塞がるから!」


 我が家の大工、ミンお兄ちゃんが叫ぶ。

 先日は壁が凍って上手く修理できなかったらしい。


「毒を飲む薬師見習いと、言っていたが」


 そうだね、お父さん。


「あいつか、何度か護衛をしたことがある。薬草に夢中な学生だな」

「護衛か?」

「ああ、薬草摘みのな」

「そうか、昨日までいたがな、頃合いだと言って帰って行った」


 え?帰ったの?学生さん。


 お礼、ちゃんと言っていないよ!

 正に、命の恩人なのだけど。


「魔石を幾つか渡そうとしたが、断った。コロ、知り合いならお前からも礼を頼む」


 ここでコロ叔父さんが、沈黙する。


「違和感がある」


 一言告げる。


「どうした?コロ?」

「あいつは、相手の意を汲む真面目なヤツだ」

「ああ、そのような感じだったが?」


 コロ叔父さんの、組んだ腕の指が動く。


「赤髪で短剣の使い手、身長は俺と同じくらい、どうだ?」

「違う、黒髪で杖に仕込みの直刀、身長はお前の肩ほど」


 !

 え?

 別人!?


「別人だぞ、兄貴」


「シン、レイランと語り部を呼べ、魔力感知を最大にして居場所を突き止めろ。人族の足ならまだそう遠くには行っていない、感知出来るはずだ。ケイン、空から探せ!アイ、アラン、ミン、匂いを追え。ランは村人に連絡と説明だ」


「飛龍隊、聞こえていたよな?」


(ああ、聞こえていた。探してみよう。みんな行くぞ)


「3名残せ、村にトラップがあるかもしれん。周囲探査をする」


(了解)


 お父さんが苦いお顔で、私とミミお姉ちゃんを見る。


「二人は動くな、その場でレイランと語り部が来るのを待て」


「体内に魔力のトラップか?」


 ミミお姉ちゃんが恐ろしいことを口にする。


「そうだ、違和感はないか?ミミ?」


「全くない、調子が良いくらいだ」


「明季はどうだ?」


 私は魔力感知を、自分とミミお姉ちゃんに向ける。


「二人とも、問題ない。魔力のトラップはない」と思う。


「逃走時間を稼ぐため、何かあるかもしれん」


 少なくとも、私の魔力感知には何も反応しない。

 こんな時、亀さん鶴さん夫婦や、ローローとネーネーがいればいいのだが。

 まあ、頼ってばかりじゃ駄目か。

 不安は感じないし、トラップは無いと思う。

 でも、考えろよ、なぜ嘘をついた?

 

 彼は何者だ?


 薬、医療の知識は豊富だった。

 薬草摘みは嘘ではないだろう。

 成り行きで、私やミミお姉ちゃんを助けた?

 治療は親切で?違うとしたら何?


 獣人について知りたかったからだろう。

 獣人はタフだし、ゾアントロピー(獣化)の研究か?

 ゾアントロピーはゲーム内の知識だけど、調べたことがあるんだよね。

 でもこの世界では、前前世の知識は通用しないかな?


 やはり、メインは薬草か?嘘までついて欲しい薬草。


 私達の怪我や、氷獣の大量発生は予測出来なかったはず。

 まて、ここは妖精の世界、魔法がある世界だ。


 予測していたら?


 なら獣人族の生体情報か?

 タフな獣人族の攻略に使えるぞ?


「お父さん、雪美草ってどんな薬草なの?」

「あれが薬草という認識は、我々には無い」

「コロ叔父さん、は雪美草について何か知っている?」

「知らぬな、兄貴と同じだ」


 地元の者が知らない雪美草の情報を、どこで得た?

 何処かに端末か図書館ないかな。

 ローロンサがいれば、直ぐ聞くけど。


「明季、どう思う?」


 お父さんが聞いてきた。

 私の意見?私に意見を求める?


「雪美草について知りたい。あと獣人族の生体情報が漏れた。攻略に利用されるかも知れない」


「我々を攻略してどうする?氷獣退治の要だぞ?氷の世界が広がってしまう」


 腕を組み、指を動かすコロ叔父さん。


「氷が世界に広がって、得する種族っているの?」


「思い当たらぬ。氷属性の妖精はいるが、数が少ない。生活圏は広がるかもしれんがメリットがない」


「我々傭兵団が邪魔か?その偽物学生、捕まらないだろうな。目的は分からないが、しばらくは単独行動を控えた方がいいだろう」


「そうだな、一族に緊急伝達、今後単独行動を禁止する、期限は、取敢えず春までだ」


 誰か来る?これは?

 あ、レイランお姉ちゃんと語り部さんだ。


「お邪魔するよ」


 高齢の獣人族は軽い足取りで部屋に入る。


「語り部、レイラン、どうだ?」

「異常はない」


 一言告げる語り部さん。


「私も、周囲には獣人族しかいない」


 レイランお姉ちゃん、緊張している?


「レイラン、施術中はどうだった?」

「横にいたけど、怪しいことはなかったわ」

「明季を恐れて、見落としたことはないか?」


 わっ!お、お父さん!

 それ、皆の前で聞く?


「ない。怖くても、繋がりを切ったことはない。私の意思の一部は、ミミ姉さん、明季と同じ経験をしている。魂、魄、意思、私に異常がないから二人にトラップはない、異常はない」


 !


 そ、そこまで感応しているの?


(そうよ、それが獣人族、最高術者である私のお仕事なの。獣人族は洗脳されたり薬で意思操作されたりすると困るの、驚異なの)

(私の記憶、どこまで知っているの?)

(前世の記憶が少し見えたわ。でも凄い炎の鬼神が現れて、死にそうになったの。これより先は命を落とす、と言って追い払われたわ)

(誰かに喋った?)

(語り部と家族。必要以上に喋ると、死を招くといも言われたの。だから私から明季に質問はしない。あなたの質問に答えるだけよ)


 うわぁ、これは相当怖い目に遭っているねレイランお姉ちゃん。


「語り部、雪美草について何か知らぬか?」

「何も伝わっておらぬ。逸話もない。他の村もあたってみたがよかろう」


(団長、いないぞ、もう我々の探索外だ)


「足が速すぎる。人族ではないな」


(おい、匂いが途中で変わっている!)


「変わった?人族の匂いだったぞ」


「季羅を欺くとは、上位存在か?」


 コロ叔父さんの指が動き出す。


(この匂い)


「どうした?」


(ダークエルフだ)


「!!」


 この一言で、村全体が静かになった。

 ざわめきが消えた。


「過去の復讐か?」


「しかし、ダークエルフなら我々の生体情報は知っているはず」


「兄貴、王都に向かい雪美草について調べる」

「護衛の依頼とゴブリンのお礼参りはどうする?」

「二人余る、こいつらに王都に行ってもらう」

「ゴブリンのお礼参りが一番だ、いいな?」

「律儀だな」

「取敢えず警戒だ。それと明季」

「はい、お父様」


 ?

 なんだろ?


「……」

(どうした?兄貴?)

(いや、ちょっと感動してな)

「は?」

(わんわんの娘が、お父様と……)

(親馬鹿)

(うるせー羨ましいだろう?お前も早く決魂しろ!子供は可愛いぞ)

(悩みの種ではないのか?)


「明季、お前はもう貴重な戦力だ。成人の儀式を受けてもらう」


「……はい」


 え?まだ私、一歳未満なんですけど?

 確かにお馬さんとか鹿さん、キリンさん辺りは、生れて直ぐに立ち上がるけど。


 どんなの?儀式って?


「心配するな、本来は氷獣を一体、成人戦士と共に倒すのだが」


 ふんふん。


「お前はもうミミと倒している」


 何体か分からないけど、かなりの数、倒したみたい。


「そこでシン、ラン、コロと共にゴブリン砦に向い、遺品と朱槍を届け、無事戻ってこい。これを明季の儀式とする。いいな」


「本来は付き添いの戦士から戦士としての心得を教わり、旅をしながら氷獣を倒すのだ。期間は1年以上の者もいれば、数日の者もいる」

「コロ、俺の家族、頼んだぞ」

「ああ、わかった」


「……」


(どうした?)

(ランに手ェ、出すなよ)


 あわわわわ、この会話、私聞いて良いのかしら?

 勝手に聞こえてくるんですけど?


(知っているだろ?成長が遅かった俺の子守が誰だったか)

(……)

(俺はランさんに、オシメとか世話になっているんだよ!逃げ出したいくらいなんだがな。なんで俺を選んだ?)


(ランからのご指名、お願いでね、ま、頑張ってくれ)


(尻に敷かれていないか?)

次回投稿は2023/01/08の予定です。

サブタイトルは 力の粒 です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ