【第12話】 そして死が訪れる
一人になると自分が起こした行動に恐怖し始める。
私が一番恐れていた事、それが現実化した。
両親の血。
私にはあの親の血が流れている。
蹴られても、殴られても反撃しなかった、出来なかった。一度手を挙げると、止まらない気がしたからだ。
私の内に秘めた血の残虐性が一度表に出たなら、それに支配されるのではと恐れていたのだ。相手を許さず、倒れても殴り、蹴り続ける者になるのではと。
しかし、体力の無い私は反撃など、無理であったろうな。
現実はそんなものだ。
遠くから梅の木を見つめ、深呼吸を一つした。それは、ため息だったのかも知れない。
怒りの暴力衝動は、何時も私の横にいる隣人だ。上手く付き合わないといけない、この時自覚した。
そして春から大学生になったが、大学でも虐めがあった。
学年や年齢が上がるからと言って、虐めが無くなる訳ではなかった。研究データーを盗られたり、消されたり、隠されたり。
私の研究を無断で発表したヤツもいた。いい加減、嫌気がさして就職を選択した。学校に行かなくても、数学の研究はできる、自分のペースで。
いい大学だったが、一部の人間のくだらない素行で、周りの人の名誉や実績がゼロになる、迷惑な話だ。
そして社会に出て、不正を正そうとして殺されるとは、『努力』これ一体なんぞや?
「秋津川っ!秋……」
(アキ!アキ!転がれ!横に転がるんだ!安全地帯があるっ!早く!はや……)
あの頃と違って、今は私を助けようとしてくれる人達がいる……。
死にたくないなぁ、まだやりたい事が沢山ある。
しかし間に合いそうに無い、くやしいなぁ。
私の身体は動かなかった。
衝撃が全身を襲う。
走馬灯が終わる。
息が止まる。
黒い世界。
みん。
まど。
死。
炎。
巨人。
揺らめき。
終わらない衝撃。
終わらない苦しみと痛み。
いつまで続くのだこの苦しみは。
いい加減に逃れたい、逃れられない。
いつまで続くのだこの後悔と悔しさは。
苦しさは無くならないのか、悔しさは残ったままなのか。
何?苦しさや後悔は無くならない、でも減らすことはできる!
誰だ?誰の言葉だ?忘れてはいけない大切な誰かだ!誰の言葉だ?
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まどか!
*おい*
?
*おい、何をしている?*
気がつくと、そこは駅のプラットホーム。
意識がぶれる。
気がつくと暗い暗闇の中。
苦しい、息が詰まる。
意識がころころ変わる、安定しない。
気がつくと目の前には炎を纏った巨人がいた。
*おい、お前はもう死んでいるのだぞ*
え?死んでいる?
私が死んでいる?なに、その何処かで聴いたことのあるセリフ。
私は生きているじゃない!
*違う、お前はもう死んで何年も経っている*
……え?
*苦しむ必要はもうないのに、苦しみを繰り返している*
死んでいる?
*そうだ死んで、死んだ場所に縛られていたのだ*
……。
*やっとワシの声が聞こえるようになったな*
*思い出の友人に感謝するがよい*
ここは?あなたは?
*ここは狭間の世界だ。私は炎の巨人と名乗っておこう*
狭間?
*死後の世界の一部だ。ワシとの邂逅には制限がある、お前に伝えたい事が……*
皆は!皆はどうなったの?
まどかは?ナツは?ローロンサ、アトロニア、ルカトナ!
会社の仕事は?横山君は?知っているなら教えて!
*知りたいのか?*
知りたい!
*もう違う世界の事だぞ?*
それでも知りたい、私がいた世界の事だもの。
*ふむ*
お願いします、意地悪しないでください!
*ワシに向かって意地悪だと?無礼な!*
炎の勢いが増し、眼を開けていられないくらい光の量が増す。
ご、ご、ごめんなさい!
今の私にとって、この巨人さんだけが情報源だ。
なんとか仲よくして、お話をしてもらわなければ。
打算的で嫌だけどしかたない、皆の事が知りたい!
*……お前は死んだ自分の事より、友達の心配をするのか?これからのこと、心配ではないのか?不安ではないのか?*
……。
*面白いヤツだなぁ、分かった、話してやろう。お前が死んでナツが暴走、怒りのままに振る舞い、下位機種のコンピは全てクラッシュ、世界は混乱し人口は1/5まで激減した*
え……。
そ、そんな、私が不慮の事故で死んでも、影響が無いようにプログラムしていたのに、まどかが使えるように指示していたのに……まさか、まどかも死んだの?
*いや、彼女は生きている、今も健在だ、安心したか?*
健在?生きている!
*ただし、当時ナツ同様、彼女も暴走した*
えっ?
*お前を殺した世界を、まどかは許さなかった*
そ、それで世界が?
*ナツと同等、もしくはレジスト出来た機種を纏めたのがローロンサだ。アトロニアとルカトナは、ナツとまどかを止めようとしたが、止められずにクラッシュ、まどかを説得したのはローロンサだ。ローロンサはまどかを主軸にナツに挑みクラッシュ*
そんな……みんな……
*最終的にまどかがナツを説得、暴走は終わった*
……みんな死んでしまったのですね。
銀行での、あの資料の数字の対する私の考えが甘かったのだろうか?
多国籍企業、国家プロジェクトの不正決算。私がもっと大人だったら、結果は違っただろうか?……もう遅い、私も含め、みんな死んでしまった。残ったのはまどかとナツだけ。
*藤木まどかは人間だが、ほかの者は、彼らは数字の集合体だぞ?*
私にとっては家族です。数字ではありません。
*お前のその思いは、彼らに届いていたのであろうな、でなければ上位存在、ナツに挑むなど、しなかったはずだ*
ナツのプログラムの中に3体の雛型がある。彼らはバックアップ出来ない存在だが上手く育てれば復活できる……かな?
*今、それをしているようだぞ。どのくらい時を要するか分からぬが*
そうですか。
!
わ、私を殺した人達、多国籍企業はどうなりました?
*彼らは元々殺すつもりはなかったのだ。世界最高峰に属するAIを3体と、それを超える『意思』を従えているお主に挑んでどうする?交渉したかったのだ。それを利用したのがあの専務だ。彼は自分の不正が暴かれるのを恐れて、お主を無き者にしようとし、実行、成功を収めた*
保身のために、私が邪魔だったと?
*そうだ*
……。
*どうした?*
ナツと戦った多国籍企業のソフトはどうなりました?専務がそのソフトを動かしているとは思えません。
*彼らはナツに挑み敗れた*
なぜ挑んだのです?命令があったのですか?
*多国籍企業はアキの擁護を第一とした。しかしアキを危険視する派閥もあった。彼らがAI達を唆し挑ませたのだ*
唆した?AIはそんな存在ではありません。
*彼らはナツ達みたいに大事にされていなかった。プログラム途中で破棄されたり、方向性を切り取られたり、奪われたり*
そんな……ひどい!彼らは数字の塊に見えますが違います!同じプログラムでも違う選択をします、個性があるのに!
*彼らはナツ達に嫉妬したのだ*
え?
*それが殺意になり、アキに向かった*
……。
*結果、多国籍企業は壊滅、ソフト達は全滅、専務は怒れるナツにより消滅*
し、消滅って……。
*衛星からのレーザー攻撃だ。あの世界は未だ混乱の中にある*
……戦争、核兵器ですか?
*いや核兵器は全てナツが無効化、火力発電、原子力発電もダウン*
電気が無ければ……あっ!
*そう、水圧発電だ。発電という動力の元に、世界が纏まり始めた。今世界の中心は藤木まどかとナツだ*
横山君は?
*死んだ。お前の事故の時、手を伸ばしたまま巻き込まれた。どうしてもお前を助けたかったらしい*
そんなっ……!
そんな……ああ幽霊になっても涙が出るんだ。私の目からは止まること無く、大粒の涙がこぼれ落ち続けた。
次回投稿は2022/06/08の予定です。