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【第21話】 それはグルーミング

 一通り暴れて、私は疲れを覚えた。

 疲れた、と思った瞬間、私の身体は小さくなり始める。


 え?え?えっ?


 服の中に埋もれていく私。

 何かが抜けていく?

 鎮まっていく?


 周囲の目が更に熱く私に集まる。


 恥ずかしいです。

 目を逸らしてください。


「ど、どうした!?明季!?」


 慌てるお父さん。


「アンアン」


 あ、返事ができぬ。

 つぶらな瞳、ほわほわの体毛、揺れる尻尾。

 心配になるくらい、小さな、ちまちました前足。

 まあ獣人だからここは腕と言いたいが。


 私はポメラニアンに獣化した。


 こちらが本来の姿みたいな気がする。


 まず、エノンが落ちた。

 次、トアンが落ちた。

 二人とも、目の色が違う!

 私を見る目が、数秒前と全然違う!

 他の人達も、もぞもぞしている!


 彼らの顔をじっと見る。

 傭兵団のメンバー、なんとなく名前が分かるぞ。

 ちびちゃんズだ。


「これが金狼?」

「いや狼ではなかろう」


 そう言ってメンバーの一人が光の速さで私を抱っこした。


 こいつ、犬好きか?


「あああああああっツード!なにをっ!う、うちの明季にっ!」


 ツード落ちる。


 すかさず私を引ったくるエノン。


「ど、どうしたん明季!?こんな可愛い姿になって!もう、ウチ放さへん!!」


 が、私は無口な男に直ぐに奪われる。


「……よしよし」


 優しく頭を撫でられる。

 ここちよし。


「なにがよしよしだ!よこせゴコン!」

「……嫌だ、サイノには渡さん」


 ゴコン落ちる。

 サイノ落ちる。


 うーん、見た目とは、こんなにも人の態度を変えるモノなのか?

 それとも私から、変な波動が出ているのか?


 まあ確かに鏡で見たが、この容姿は凄い破壊力だ。


 が、前記の通り、私は疲れている。

 母親を探す目で、シンお姉ちゃんを探す。


「くーん、くーん」

(シンお姉ちゃん……)

 うわ!なんてあざとい声!

 そう思わせる音が、私の身体から発信された。


 さっ、とシンお姉ちゃんに回収される私。


 ごろごろごろごろごろごろ。


 喉の辺りから、リラックス音が周囲に響き渡る。


「え?ゴロゴロ言っている!?」

「ね、猫!?」

「え?どうして?」


 傭兵団メンバーの、猫好きの目が光る。


「ああ、お母さんがラン様だからか?」

「うっ……ごろごろ言わせたいっ!」


 じりじりと近寄る猫好き団員達。


「これ、あっちに行け!」


 しっしっと追い払うシンお姉ちゃん。


「明季はお眠むだ。お前達が奇襲をかけるから、疲れたのだ!」


「うっ」


 気まずい団員さん達。


「後から詫びにこいよ?」


 シンお姉ちゃんのこの一言で、皆の顔色が明るくなる。


「グルーミングは明季が許可してからだ」


 グルーミング?


「!」

「必ず行かせてもらう!」

「ああ、詫びに行かないとな」

「手土産が必要だな」

「リボンリボン!うち、シルクのリボン持っている!」

「シルク?昆虫臭くないか?」

「お花とか、髪飾りとかいいかも」


 エルフさんは昔も今も、優しいなぁ。

 あ、今は私のお姉ちゃんか。

 私はシンお姉ちゃんに抱っこされ、その場を後にした。


「やり過ぎだ、明季。後から質問攻めになるぞ」

「アンアン」

(親子だし、兄弟姉妹だし、みんな悪い人には見えない)

(それはそうだが、その内、騙されるぞ。おねーちゃんは、素直な明季が心配だよ。知らない人に、ついて行ったりするなよ?)


 ついて行ったりしません!怖いよ!


 獣人で強くなっているけど、知らない人について行くなど、根本的に怖いです。


 私ってそんなに危うい?


 私を素直と評価した人物の数は少ないと思う。

 でも、ちゃんと考えて行動はしている、つもりだよ?


 多分、この獣人の身体では重速術が使える。

 試してはいないけど、凄い動きが出来るのでは?と思う。

 ね?重速術は公表していないよ?

 その先のOVERKILLも。


 ゴブリンの時、培ったものを今に生かさなければいけない。


 魂、魄、意思の調和だ。

 どれか一つでも無理をすると、必ず壊れる。


 もう、壊すわけにはいかない。


 後悔はしたくないのだ。


 ゴブリンファミリー、獣人ファミリー、愛情の塊みたいな家族。

 私には勿体ないくらいだ。

 悲しい思いを残したくはない。


 そう考えているうちに、私はいつの間にか眠ってしまった。


 夢は……見ない。

 魔力が足りないのだ。

 超空間には行けない。

 そこにあるのは、分かっているのに。

 膨大な魔力量が私の後ろに控えているのは分かる。

 その象徴の一つが金狼だと思う。

 獣人族は使える量が少ないのだ。


 こう考えると、魔族チクリは凄いな。

 5年の寿命とはいえ、ゴブリンを最強クラスの妖精に引き上げた。

 あの才能、他に使えなかったのかしら?


「勝った」


 その言葉で目が覚める。


「あ、すまん、起したか?まだ早いゆっくりお休み、私も寝るから」

「……」


 私はコテン、と直ぐに寝てしまう。


 ん?今の誰だろう?

 シンお姉ちゃん?

 もしかして、アイお姉ちゃんだろうか?

 あの二人、匂いがとても似ているんだよね。


 次女のアイお姉ちゃん。

 素直に一緒に寝よう、と言えばいいのに。

 おっぱい出して寝ているなんて恥ずかしいよ!


 その前に、寒くないの?


(寒くはないぞ)

 寒くない?本当かしら?

(嘘は言わん。外で寝てもかまわん。獣人族は意思の力で、ある程度、寒さを克服できる)

 お家、いらない?

(これを修得するには修行が必要だ、小さい子には無理だ)


 ふーん。


 あれ?会話しているぞ?ここは超空間ではないのに!


 半分起きているみたいな、眠っているみたいな状態だな。

 何だろうこれ?

 アイお姉ちゃん、呼べば、私来るよ?


(いや、それは私のプライドが許さん。無意識にシンねえを、求めるのだろう?私も無意識に求められたい!)

 も、求めるってなんか、表現がエッチだ!説明は上手く出来ないけど、なんとなくエッチな感じがする!

(わたしは同じ条件でシンに勝ちたい!)

 勝ち負けなの?

(そうだ!求めるは勝利のみ!)

 ……やつぱり体育会系?


 ここでパチンと閃く。


 グルーミングだ!

 動物は毛繕いをする。獣人族も同じなんだ!

 犬や猫、動物にとってグルーミングは大事な行為だ。

 病気の予防や機能維持、愛情の伝達に役立つ行為。

 清掃員さん、言っていた。グルーミングはストレスの緩和にも役立つとか。

 獣人族はその名の通り、人よりも、獣に近い?


 それからグルーミングは、もう一つの意味があると言っていたな。


 こちらは恐ろしい意味。


 犯罪用語だ。


 小さな子供、未成年に、途轍もなく親切にして信頼関係を作り、相手を懐柔、信用した途端、虐待、暴行を始めるって。

 おぞましい犯罪者の手口。

 私は孤児で虐められていたから、清掃員さんは知っていることは全部話しますよ、と言い何でも話してくれた。

 ある意味、私を家族として扱ってくれた。


 ああ、だからシンお姉ちゃんは心配したのか、素直すぎるのはいけないと。


(エノンはその手口で連れ去られた)


 !


 アイお姉ちゃん?


(その組織は、私達と王都騎士団で潰した。お父さんの怒り、子供を大事にする獣人族の怒りは凄かったよ。まあ私も容赦無く敵を引き裂いたけどね)


 子供は身を護る術を知らない。

 親や周りの大人達の責任は重大だ。

 子供とのコミュニケーション、日頃の会話が防止に繋がる。

 あとは友達か?

 まどかと、もっと早く巡り会っていたら、私は壊れなかっただろうな。


 そして子供はすぐに染まる。


 善にも悪にも。


 私をいじめ抜いた者達は、大人もいたが、殆どが子供だ。大人も元子供か?

 自分達でいじめを考えて、私をいじめ抜いた。


 それは面白そうに、私を踏みつけ続けた。

 人は根本的に邪悪だ、と思った瞬間でもある。


 その虐めを一日で止めたアトロニア、ルカトナ、ローロンサ。

 たぶん、脅迫だろうな。


 脅迫はいけないことだが、脅迫で私に対するいじめが止まったことは、ありがたかったな。


 子供は残酷であり、素直だ。

 二つの相反するモノを持っている。

 子育ては難しい、と思う。


 世界には、邪悪な人物がいる、その事実を少しでも早く知るべきだ。


 私はゆっくりと目が覚める。


 横にはアイお姉ちゃんが、すぴすぴと寝息を立てている。

 寝相は……これはちょっと、お話するのは控えることにしよう。

 アイお姉ちゃん、大胆すぎるよ。目のやり場に困る。


 周囲を見る。


 魔力感知に反応無し。

 皆寝ている、


「……」


 チュッ。


 あ、ヤバ、起きるの?

 その綺麗な睫がぴくっ、と動く。


「お、おい明季!今どこにチュした!?」

「さ、さあ?何のことアイお姉ちゃん?」

次回投稿は2023/01/07 20時頃の予定です。

サブタイトルは 夢使い です。

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