【第17話】 ハートで勝負
本日2回目の投稿です。
誰の声?
季羅お父さん?
違う。
後の先を知っている?
誰だろう?
後からの攻撃が、先制攻撃より先に当たる、後の先。
受けて立つとか言うけど、今の誰かしら?
後ろの取り巻き達の中に、いるのだろうか?
だとしたら強敵か?
あれ?
ガモサンモをぶっ飛ばしたけど、気配がしない?
家から出てこないぞ?
ズルズル。
何かを引きずる音が、お家の方から聞こえてきた。
あ、アイお姉ちゃんがガモを引きずっている!
アイお姉ちゃんは、目測300㎏以上の巨大なガモを引きずり、軽々と投げ飛ばした。
え?投げた先には!
ボーリングのピンみたいに吹っ飛ぶ、取り巻き達。
「王都まで走らされて、眠いんだよおおおおおおっ!夜這いするんだったら髪くらい洗ってこい!臭いんだよ!」
え?アイお姉ちゃん?王都まで行ったの!?途中までじゃないの?
いや、走って行ける距離なの!?
「清潔感のねーヤツはお断りだっ!」
わあ、明らかにアイお姉ちゃん、目が据わっている。
寝起き悪い?
呆然とする取り巻き達。
「おい、お前ら」
あ、また私のお口が、勝手にしゃべり出した!?
これってもしかして、脳内住人?
魔力が少ないから、夢の世界にもたどり着けないんだよなぁ。
誰か住んで居るのかしら?
口調からして男の人?
……ちょっとヤダ。
「いい女抱きたいか?」
「……ボソボソ」
「はっきり口に出して言え!こら!」
「……ああ」
口々に、それなりの返事をする取り巻き達。
「いい女とは容姿がいい女、だけじゃないぞ?分かるか?」
「なんだよ、それ?」
「いい女はいい女だろ」
「あ、俺わかるかも」
「いい男になれ。分かったか?ハートのある男のことだぞ」
「……」
「分かったら、そのデカ物担いで、さっさと帰れ!」
100人近くいた獣人達はぞろぞろとデカいのを引きずって、村を出て行った。
ある意味、素直?暴れるか、と思ったんだけど。
獣人族は強い者に従う傾向がある、とか聞いていたけど、本当は素直なだけでは?
「おい明季、いい女とは私のことか?」
アイお姉ちゃんが私に向って悩ましいポーズを作り、ウインクをする。
あ、今脳内住人さん、ドキッとした?
「心ある女性のことだよ」
「女性は尊いと?」
「そうだよミンお兄ちゃん」
「明季、お前何歳だ?言うことが子供らしくないぞ」
「そうかしら?」
取敢えず誤魔化す。
「ガモサンモが来たらしいが?どこだシン」
集会場から父さんが帰ってくる。
ゴブリン達へのお礼について、話し合っていたのだ。
彼らの武器は早く遺族の方達に届ける、となっているが、ゴブリン達が倒した氷獣の鱗、魔石はどうするかが問題だったのだ。
「父さん、あいつなら帰ったよ」
「帰った?本当か?で、あの壁の穴は何だ?」
「わはははっ、なんだろうねぇ。鱗や魔石はどうするんだい?」
ミンお兄ちゃんがお父さんに尋ねる。
「さすがに量が多いからな、春に届けることになった。今の時期は、いつ吹雪になるか分からんからな」
私はそっとシンお姉さんの前に進み、背中を向けた。
「どうしたの?明季?」
「やっぱり、違和感がある」
「ん?何、言っている?」
アイお姉ちゃん、気が付かないの?なんかおかしいよ。
「何だ?明季?変な臭いも、音もしないぜ?」
いや、ミンお兄ちゃん、それがおかしいと思う、静かすぎる。
絶対何者かいる!
(くすくすっ)
あっ!
「真打ちは最後に登場って、本当みたい」
「何を言っている?」
お父さん?
気がつかないの?あなたほどの武人が?
ガモサンモを倒した時、何かおかしいと思った。
こっそり私達の一戦を、見ている者達が他にいのでは、と。
取り巻き達とは、明らかに違う視線。
始めは勘違いかなぁ、とか思ったけど、疑念はムクムクと私の中で育った。
そして確信に変わる。
全部で何人だろう?
「間者か?気配はしないぞ、気のせいではないのか?」
いや、いる。
どこだ?
あ、また違和感。
お父さんをチラリ、と見る。
!
目を逸らした!
お父さん、相手が何者か知っている!?
魔力感知の感度を上げる。
全く魔力感知に反応しないところが、あやしいんだよね。
周囲のそこだけが、ぽっかりと穴が開いたように反応がない、そんな風に感じるのだ。
ぽっかりは、全部で幾つある?
誰もが見落とす、ぽっかりした魔力の穴。
あの島で、これが出来ないと命を落とした。
生き延びるために修得した技。
「全部で10名、周囲に潜んでいる」
私は足下にある遺品の槍を2本、ひょい、と足ですくい上げた。
そして素早くアイお姉ちゃんと、ミンお兄ちゃんに軽く投げ渡す。
私は、背中に背負っていた朱槍を手に取る。
ナイダイさんの槍?
ゴブリンの時は大きく感じたが、今は小降りの槍だ。
うーん、本当に、これはナイダイさんの槍だろうか?
私が手に取ると、嬉しさ?が伝わるのだが。
これはこの槍の感情か?
軽く魔力を通すと、更に朱色が強くなる。
違うな、これは槍に見えるが、本来は杖だ。
そうだろう?杖よ。
君はドライアドから譲り受けた、あの杖なのだろう?
違うか?
魔力が足りなくて形を変えられないが、これは、あの時の杖だ。
確信はない、だけど、そう信じたいな。
「おい、マジかよ?何も感じないぜ?」
「アイお姉ちゃん、だからこそおかしい、違和感がある」
ヒュン、風を切る音。
「ミン!」
アイお姉ちゃんが叫ぶ。
突然、ミンお兄ちゃんの前に現れた黒い戦士は、片刃の直刀で切りつけた。
ひやり、とする斬撃を、軽く受け流すミンお兄ちゃん。
二撃、三撃と繰り返し剣が舞う。
それを冷静に、全て受け流すミンお兄ちゃん。
様子見かな?
相手がどんな技を使うか分からない。
気配を消した突然の攻撃。
ミンお兄ちゃんは初見の相手を警戒している。
だから剣を受け流した。
まともに受けたら多分、腕を痛めるか、槍が折れていたのでは?
ヒュン、あ、また風を切る音だ!
今度は両刃の直刀が、アイお姉ちゃんに降りかかる。
「アイ姉、受け流せ!手練れの獣人だぞ!」
ミンお兄ちゃんが叫ぶけど、アイお姉ちゃんはまともに槍で止めた。
ガキッ!
重く鈍い音が響く。
「うがっ」
小さな悲鳴が思わず漏れる、アイお姉ちゃん。
槍は吹飛び、アイお姉ちゃんは後ろに大きく飛び去る。
重い一撃なのだ。
だが相手は間合いを譲らない。
歩みを詰め、アイお姉ちゃんに迫る。
あ、来る。
そう思った瞬間、無意識に槍を振るった。
出現と同時に、後ろに飛び去る黒い影。
「おい、先の先まで使うのか!?」
先制攻撃を仕掛けたつもりが、私の方が先に動く。
出鼻を挫かれた影は、素早く間合いの外に出る。
私は追うことはせず、この場に止まる。
現れたのは3人、あと7名が囲んでいる。
その中で位置を知らせた者がいる。
隠形の術?を解いた者がいるのだ。
この人物、とんでもなく強いぞ。
お父さん並だ。
「お父さん、シンお姉さんをいいかしら?」
「面白いことを言うな、明季?シンは強いぞ?護られるべきは、最年少のお前なのだが?」
「お父さん」
「なんだシン?」
「これ、私の血を使った治療の後遺症よ」
「?」
「明季の立っている場所、お母さんを護るお父さんの立ち位置とそっくりよ、いや、同じだ。」
「!」
お父さんも、シンお姉さんも動かない。
そして相手に殺気が全然無い。
殺意が響いてこない。
お父さんもシンお姉さんも相手を知っている?
間違いないな。
この10名は知人だ。
ならば、これはテストか?力量が知りたいとか?
丁度いい、私も今の自分が、どのくらいの力を発揮できるか知りたかったんだ。
氷獣の時はコントロールに失敗したけど、今回は落ち着いていこう。
私は大地を蹴り、父さん並みに強い、と感じた相手に挑んだ。
次回投稿は2022/12/28の予定です。
サブタイトルは 風の戦士達 です。