【第16話】 ゴブリン全滅
ゴブリン、どんな容姿なのだろう、私の知っているゴブリンなのだろうか?
私が死んでからのこと、何か知っているのだろうか?
聞きたいことが山ほどある!
「ゴブ、ここへ来る途中、なだらかな丘で、沢山の氷獣の死体を見たゴブ」
あ、私が倒した氷獣かしら?
「全て、一撃ゴブ。この技の名前が知りたいゴブ。もし支障なければ教えてほしいゴブ」
?
抜き、だけど?なぜ知りたい?
「私は獣人族の……明季、あなたの名前は?」
「ゴビッ!」
「どうしました?」
「ゴブ私の名前は、ヤベン、ゴブゴブ」
!
「朱槍をお持ちですね?」
「ゴブ。朱槍を次ぐ者は、代々この名を名乗ることになっているゴブ」
ここは、未来だ!
あの時代より未来の時代だ!
繋がりがあった!
間違いない!
ならば、彼らを呼んだのは私か?
じゃ、なぜ私の声は聞こえて、彼らの声は聞こえない?
「ゴブ、あなたが我々を呼んだゴブ?」
「分かりません、氷獣との戦いで叫びましたが、その声でしょうか?」
「ゴブ……技の名をお教えるゴブ」
「おい、ゴブリンさん、あんたこんな所で何しているんだ?」
あ、シンお姉さんの声!
「悪いことは言わない、ここは獣人しか生きていけない場所だ、帰った方がいい」
何時の時代でもお姉ちゃん、優しいね。
「ゴブ、この村に来る途中、一撃で倒された氷獣を見たゴブ」
「お、凄いだろう!あれは我が妹が仕留めたんだぜ!」
お、お姉ちゃん!?
「ん?あんたの朱槍、もしかして魔王と対峙した?」
「ゴブ、対峙した者はもういないゴブ、私は槍を引き継いだ者ゴブ」
「凄いモノ引き継いだな、誉れあれ、ゴブリンさん」
「ありがとうゴブ、氷獣を一撃とは凄い技ゴブ。妹さんの技、凄いゴブ」
あ、引っかけだ!
「あの技すごいよな、明季のやつ、確か『抜き』とか言っていたな」
……シンお姉さん、言っちゃったね、あっさりと。
たぶん、そのゴブリンさんも使えるよ。
「ゴブ、ありがとうゴブ」
(おおお、聞け!皆の者!ついに、ついに探し当てたぞ!本家のお方ぞ!聞こえているだろう?本家のお方よ、我らが勇姿、とくとご覧あれ。皆の者、氷獣退治に参戦である)
え?なんで?どうして参戦?
(あなたの、あの技のお陰で、我々はあの島を出ることが出来た)
!!
島の記憶が伝承されている!?語り部か?
(そして、今まで命を繋ぐことが出来たのだ。今こそ、その恩に報いる時。あなたの教えた技は、今では勇者、魔王に対峙するまでに至った。怪我が治ったなら、王都へ行かれよ。あそこには私と同じ、秘のゴブリンがいる。必ず、尋ねられよ)
二日後の満月、ゴブリン達は獣人族の戦士と共に氷獣を討った。
発生した氷獣は3000以上いたが、全て討たれた。
ゴブリン達は少数だったが1000以上の氷獣を討ち、寒さで死んでいった。
私の手には『ヤベンの朱槍』と魔石が残った。
ヤベンさんの名を継いだゴブリンは、朱槍を私に渡してくれと言い残し、魔石になったそうだ。
悔しいことだが、私が動けるようになった時には、もう討伐は終わっていた。
父さんは言った。
この者達が駆けつけてくれなかったら、倒れているのは氷獣ではなく我々だった、と。
氷獣に比べ、獣人の数が足りなかったそうだ。
いくつかの村が、応援を拒んだらしい。
隣の村のンナイ村長は怒り心頭で、まさに、頭髪が逆立った。
「精霊との契約だぞ?我らの存在理由だぞ!なぜ集まらん!」
「俺の不徳だ。精霊には従っても、俺の頼みは聞かないらしい」
獣人族の内部抗争?
権力争い?
ゴブリンは犠牲者か?
私には話が無く、推測だが、どうもお父さんは獣人族の長では?
ゴブリン達の働きは、凄まじく、獣人族の戦士達は鬼神と評した。
死体は獣人族の墓所に丁重に葬られ、武器は集められた。
ゴブリン族の習わしでは、武器は代々受け継がれるらしい。
私の時には無かった風習だ。
「ゴブリン達の武器を、それぞれの村や砦に送り返したいのだが、ついてくるか?」
シンお姉さんが私に尋ねる。
私は満月の力と、学生さんの治療のお陰で以前の身体を取り戻していた。
いや、それどころか、身体が成長していた。
「そんなに悲しい顔するな」
「でも、シンお姉ちゃん」
「彼らは望んで戦ったのだ、ゴブリン達の勇姿を伝えに行くぞ。最初は東の砦だ」
広場で遺品を整理していると、ゴブリンの弓を蹴る者が現れた。
「邪魔だな」
「おい、死した戦士に無礼は許さんぞ」
シンお姉ちゃん凄む。
「あん?ゴブリン風情に助けられるとは、獣人族も落ちたな、俺が長だったら氷獣の群れなんざ瞬殺よ」
一瞬、巨大な熊に見えた。
ああ、多分霊視が働いたのだろう。
3m近い巨人がそこに立っていた。
「今、ご到着か?ガモサンモ」
「シン、ガモサンモさんな、さん。年上のお方、に呼び捨てはイカンよ、呼び捨ては。ああ親の顔が見たいねぇ」
「討伐は終わった、お前に用はない。消えなガモサンモ」
「……親の教育がなっていないなぁ、まあいい。あとでじっくり、ごめんなさいと言わせる。いいか、真打ちは最後、一番最後に出てくるモノだよ」
広場は次第に獣人で溢れていった。
100名は下らない。
初めて見る意匠の鎧だ。この獣人達は全員、討伐に参加していない?
あ、目が合った。
血走ったヤな目だ。
お酒でも飲んでいるのかしら?
明季でよかった。
亜紀だったら、思わず田崎さんって、心で叫んじゃうよ!
「このチビが金狼?でまかせもいいところだ。氷獣にヤられて、討伐には参加しなかったんだって?それが金狼を名乗る?うそはいかんよ、嘘は」
パキン。
巨大な足が剣を踏み割る。
「あん?ぼろい剣だな?まあビンボーゴブリンはこの程度か?おい、シン、季羅を呼べ、アイツを潰して、ランをもらう。いい女は俺に相応しい。ランに種付け終わったら、次はシン、お前な」
シンお姉ちゃんが動く前に、私がキれた。
(明季、よせそいつは長の座を狙っている。挑発にはのるな!)
女性を何だと思っている?
それに、ゴブリンの苦しみ、悲しみを知っているか?
(そいつが参戦しなかったのは、ギリギリで助けて恩を売るためだ!)
コン。
何かが熊男の頭に当たる。
「誰だ!」
瞬時に怒る狂うガモサンモ。
「小石一つ避けられない、とは、これいかに?」
あ、ミンお兄ちゃん。
「ミン、きさまぁ」
パチン。
ミンお兄ちゃんの親指が動いた!
これ、指弾だ!
手に握っているのは小石じゃない、砕かれた氷獣の鱗だ!
それを親指で弾いている!
獣人族が弾くとまるで弾丸だ。
「ぐわっ」
大きな両手で、鼻を押さえるガモサンモ。
「おかしいなぁ、オヤジは余裕で避けるのに?なぜ当たる?」
不思議な顔で首を傾げるミンお兄ちゃん。
「き、きさまぁ」
「的がでかいと当てやすい、それとも鈍重か?知っている鈍重」
ミンお兄ちゃん、微笑みかけたよ!挑発しすぎでは?
(明季、今のうちに間合いを外せ、俺がこいつの相手をする)
私はゆっくり、近づいていった。
(おーい明季、俺の獲物だって!聞こえないフリするなよぉ)
「ガモ、その臭い足をどけな」
え?今のセリフ、私が言ったの?
ああ、燃えるような、怒鳴り散らす怒りではなく、氷のような冷たく、静かな怒りなんだ。
「どかしてみろ、チビ」
「そうさせてもらうよ」
その巨大な右足は、ぐりぐりと剣を踏みにじる。
覆い被さるように見下ろすガモ。
私と目が合う。
間合いまであと一歩。
血走った目が私を捕らえて外さない。
「ガキが、戦士の間合いも知らぬか?」
ガモサンモはゆっくりと拳を握る。
腕を動かすだけで、確実に私に当たる間合い。
「あなたの方こそ」
「あと一歩で確実に死ぬぞ。本気で俺に挑む気か?見逃しているが、お前、3回は死んでいるぞ」
「嬉しそうね?」
「警告はした、さあ進めよ金狼」
躊躇うこと無く、一歩進む。
ふっとガモサンモの右腕が消える。
ガモの渾身の一撃だ。
私の目も、ガモの目を捉えて外さない。
私を仕留めた、と確信しているガモ目。
歓喜に満ち、ドス黒い感情が滲み出ている目だ。
私は、あっさりと左足の甲を踏み抜く。
「!」
モノも言わず、身をすくめるガモ。
突然の激痛に声も出ない。
目が見開き、臭い口が大きく開く。
そして、綺麗に私に対してお辞儀をする。
魔力を込めた右ストレートがガモの顎を打つ。
消えるように吹っ飛んだガモは、家の壁を破壊し、その場から消えた。
満月期は過ぎたけど、まあ獣人だから死にはしないだろう。
「……折角屋根を直したのに、今度は壁か」
あ、ごめんなさいミンお兄ちゃん。
「ほう、後の先、を使うか……」
!
誰?今の声!?
次回投稿は2022/12/28の予定です。
サブタイトルは ハートで勝負 です。