【第15話】 駆けつけた者達
「おい季羅、面会だが」
「俺は忙しい!氷獣の群れが増え始めている!」
増え始める?どうやって増えるのだろう?
「それが南のゴブリンなんだが」
!南のゴブリン?
他にもいる?東とか?
「は?何だと?南のゴブリンが何用だ?追い返せ!それでアイ、氷獣は何体発生している?」
「今、2000を越えているぜ。オヤジ、今年はおかしいよ。異常気象で増殖したのかな?それとも増殖で異常気象になったのかな?」
「魔力の歪みは世界に関係していると言う。何処かの世界が壊れたか、壊されたか、どちらにしろ、自然世界からの警告だ。どうする?季羅?」
「まだ増えているのであろう?アイ、王都に連絡を」
「えっ?私?連絡!?王都に行っていいの?」
「途中の衛星都市ハニワナまでだ。そこに念話専門のエルフがいる。いいか、遊びや観光じゃないんだぞ、すぐに走れ」
「おう、行ってくるぜ!!」
「満月期を外すと、死人がでる。アイ、遊びではないぞ?」
「了解、ンナイ村長さん」
「で、季羅よ、ゴブリンだが」
「適当にあしらっておけ!」
「無理だ」
「なんでだ?」
「完全武装だぞ?それも旗を立て、正装してきている。簡単には返せない」
「この忙しい時に、俺達と戦でもする気か?」
「まさか」
「この時期、よくここまで来たな?歩くだけでも、死んでしまうぞ彼奴ら?」
「死んでも構わん、と言っている。お前に会わせろと、言い張り引かん。対応よろしく」
「もう一度言うぞ!この忙しい時に!アランでは駄目か?」
「アイツは今、西の獣人族の村へ行っている。応援要請だ」
「ケインは?」
「東の砦に応援要請だ……明季の具合はどうだ?季羅?」
「喋れるようになったが、まだ動けん」
「回復しているのだろう?凄いな、あの学生。明季の身体は半分溶けていたのにな、で、どうするゴブリン、正装の意味、分かるよな?」
「ゴブリンに会おう、何人来ている?」
「10」
「たったそれだけか?何しに来たのだ?」
「出発時は40名程いたそうだ、途中の吹雪で死んだらしい」
「そこまでして、何用だ!」
私は聴力に全魔力を集中しようとした。
が、魔力が上手く扱えない!
なんで!?
上手く、聞き取れない!
どうして!
意思が分離していたときは、あんなにはっきりと聞こえていたのに!
ゴブリン!
ゴブリンがそこにいるのに!
お話がしたい!お話が聞きたいっ!
あ、あ、あ、焦るな!明季!ゆっくり身体検査だ。
身体はどうだ?
トイレできないほど弱っている。
私の身体のお世話は、みんなシンお姉さんがしてくれている。
……前世でも散々迷惑かけていたような……今生でも?これをカルマというのか?
お喋りは出来るが、身体は動かない。
次、魔力は?
身体の回復再生にむけて、全魔力がフル活動している!これが原因で魔力が使えないのか?
生命の本能領域で魔力が使われているから、私が意識して使う魔力が残っていないと?
今は、魔力を使わない方がいいような、気がする。
今使うと、なんか危険かも。
ならば、獣人族の聴力を生かして、聞いてみるか?
「ここは獣人族の地だ!立ち去るがよい、お前達のくるところではない。寒さに死んでしまうぞ!」
「ゴブゴブ、我々は呼ばれたから来たゴブ」
「呼ばれた?誰が呼んだ?今、獣人族は精霊との契約の仕事で忙しい、早々に立ち去れ!」
「ゴブ?仕事?氷獣討伐ゴブ?」
「そうだ」
「ゴブ、ここに、氷獣と戦った仲間がいるゴブ」
「ゴブリンはいない」
「いるゴブ」
「ここは獣人族の村だ。獣人しかいないし、獣人しか住めない。お前達も知っているであろう?このままこの地に滞在したら、死んでしまうぞ」
「ゴブ、討伐に参戦するゴブ」
「馬鹿な、無駄死にだぞ」
「おい、季羅」
「今度は何だ!?客人の前だぞ!俺は今非常に忙しいのだが?」
「西のゴブリンが救助された」
「救助?」
「ゴブ?西の民ゴブ?」
「生存は5名、後の25名は死んでいる」
「ゴブリンは命を大事にしないのか?」
「それから」
「まだあるのか?」
「東砦のゴブリンが50名ほど到着した」
「どういうことだ?もういい、まとめて会うよ。ん?どうした?」
「東のゴブリンの中に朱槍がいたぞ」
!
え!?
朱槍!?
「間違いないか?」
「ああ、先の大戦で魔王と対峙した槍だ。稀に産まれる短命のゴブリンだ」
(その者は4、5年で亡くなった、と聞いたが?)
(槍は相応しい者に渡される)
(とんでもない者が来たな、何故来た?)
え?魔王と対峙!?何があったのゴブリン?
「客人、南のゴブリン、誰が呼んだのだ?聞かせて欲しい」
あ、お父さん、対応変えた!
「ゴブゴブ、数日前、声を聞いたゴブ」
「声だと?」
「叫び声ゴブ」
「違うゴブ、助けを求める声ゴブ」
「ゴブ、あれは悲鳴ゴブ」
「なんだ、みな違うのか?」
「ゴブ、そこで皆で相談したゴブ。答えは、同胞が北の大地で苦戦している。これは助けを呼ぶ声だ、となったゴブ。多分、他の村や砦も同じゴブ」
「しかし、確かめもせず、確信も無く、よく、ここまで来たな!?死者も出ているのだぞ!」
「ゴブゴブ、助けを求められれば、誰であろうと必ず助けよ、と言葉が伝わっているゴブ」
「お前達はそれで、何時も大変な目に遭っているだろうに」
「ゴブそれでも、古の戦士が残した教えゴブ」
ゴブリンはこの獣人族の村にはいない。
でも、皆はいる、と言う。
もしかして、私か?
私の声が、ゴブリンに届いた?
どうやって?
どこまで届くの?
今の私、獣人族だよ?
どうして届いたの?
そんな!
え?それで、ここまで来るのに、何人も死んだの!?
どうしよう!?
嫌だよ、私!
!
だ、誰?
……。
ん?
……。
誰?
凄い魔力が、近づいてきている?
(よろしいか?)
ドアの向こうで誰かが念話を送ってきた。
「誰だろう?」
今この部屋にはレイランお姉さんと、学生さんと私の三人しかいない。
あ、レイランお姉さんが震えだした?
目は見えないが、感じるぞ。
微かではあるが、魔力感知が働いているみたい。
「ここは重傷者のいる部屋です、あなたからは血の臭いがします。立ち入りはご遠慮ください」
!
血の臭い?
おかしい。
学生さん、あなたは人族でしょう?
ドアの向こうの血の臭いが何故分かる?
もっとおかしいのは、今のは、念話だ!言葉では無い!
どうして分かったの?
ドアの向こうに、何者かいるって!?返事までした!
この学生さん、何者?
「ゴブゴブ、ではここで話をよろしいかゴブ?」
「!」
「多分、君と話したいのだと思う。話してみるかい?」
「お話し、したいです」
「長くは駄目だよ、いいかい?」
「はい」
「外のゴブリンさん、彼女は治療中なので部屋には入れられません。ですが少しならお話、いいですよ」
「ゴブゴブ」
次回投稿は2022/12/25の予定です。
サブタイトルは ゴブリン全滅 です。
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