【第13話】 その薬師は学生さん
早めの投稿となりました。
騒然となる村。
「見張りは何をしていたのだ!レイラン!何故気がつかない!」
……ミミは助かるかもしれんが、明季は……
「ち、ちゃんと教えたよ……でも氷獣は結界を張るから……」
……薬が効かぬ、これは新しい毒じゃな、今ある薬では……
「ルトラオシの丘まで氷獣の死体が続いているぞ!」
……しかし、よくあの数の氷獣を……
「薬師は!薬師を呼べ!」
……あの毒はやっかいだぞ、今回の討伐は策を練らんと……
「どこから呼ぶ?この時期、薬師は不在だ」
……ケイン殿の話によると、1500匹以上……
「薬師はどの村にもいないのか?中央から呼んでも到底間に合わないぞ!?」
……氷獣の数が尋常ではないな……
「今までの毒と違うだと!?解毒は出来ないのか?」
「……」
「どうした?ンナイ?」
「いや、季羅よ、俺の村に一人、いるには、いるのだが……見習いなのだ」
「見習い?いるのか!?なぜ早く言わん!わけありか?この際、見習いでも構わん!」
「人族なのだ。雪美草が欲しいらしくて」
「人族だと?雪美草?あんな雑草を欲しがるのか?」
「それで採取に来たのだが、遭難したらしくてな、村の年寄りが助けたのだ」
「この時期、人族は寒さに死んでしまうぞ。知っているだろう」
「ああ、本人は承知でこの土地に来たらしい、それ程貴重な薬草らしいぞ」
「そこら中に生えている草に、命をかけるか?」
「なにぶん、変わり者でな、どうする?」
呼んでもらえると助かります。
この際、誰でもいいです、はい。
見習いさん、可です。
私、意識はある。
耳も必要以上に聞こえています。
熱か高いのも分かっていますし、魘されているのも分かります。
そう、今、私は意識と肉体が分離している状態である。
余りの苦しさに、これはやばい、と思った瞬間、ぽん、っと意識が肉体から飛びだしたのである。
ただ、動けない。
寝ている姿で、そのまま上に分離した状態から動けないのだ。
動けない?動かない?
見える、と言っても、剣歯虎のミンお兄ちゃんが、最近修理した天井、屋根しか見えない。
お兄ちゃん、大工スキルあるの?凄く綺麗な仕上がりだね。
私は、反省タイムである。
慢心した。
いつでも、どこでも、真剣勝負。
相手が誰でも、何者でも、真剣勝負。
亜紀なら死んでいる状態だ。
いや、これから死んでしまうかも知れない。
ああ、唯々反省。
田崎さんやヤベンさん、ナイダイさん、あの人達の武人としての生き様を目標にしよう。
?
誰か来る?誰だろう?
「もし、その女の子が死んでしまったら、僕も殺されるのですか?」
女の子?私のことか?
久しぶり聞いた気がする、女の子って言葉。
なんか、うれしい。
「そんなことはしない!我らは誇り高い獣人族だぞ!」
お父さん、私だってイヤです。絶対反対です!
「学生さん、できる限りのことをしてくれれば良い」
「はい、基本、薬師は誰に対しても全力を尽くします。ただし条件があります」
条件?何かしら?
「何だと?条件?見習いで条件を出すのか!」
「まあそう怒りの波動をまき散らすな、人族はその波動で傷つくほど弱い。それにこの者は魔石を装着していない」
魔石?強化していないと?よく、この寒い地方に来ましたね?
獣人の私でさえ呼吸が難しかったのに。
「……条件とは?」
「はい、私の名前を聞かないで下さい。それだけです」
名前?
「名を聞くなと?」
名前を聞くな?それは名前に何らかの支障がある、ということ?
「はい、私も獣人さん達の名前を聞きませんから、私の名前を聞かないで下さい。あ、それで、もし私が去った後、何か苦情がありましたら、王都ルウリィトゥルーリーの毒を飲む薬師見習い、と言えば私にたどり着けます」
えっ!
王都の名前、知っているよ!
「今、ここでは名乗れないと?」
同じ王都だろうか?名前が同じだけ?時間軸的に考えると、私のゴブリン時代は、いつの時代?過去?もしかして未来?
「はい、名乗れません」
「わかった、聞かぬよ」
あ、どんどん近づいてくる。
ドアが開いた。
うう、お顔が見たいけど、私動けないし、天井ばかりだ!
「これは……」
「どうだ?」
だから、お顔が見えない!
どんな人なのだろう?
服装は?身長は?感じからして男性だろうか?男性だね。
ちょっと恥ずかしいな、裸だし、傷だらけだし。
そして、なによりも臭いだ。
腐敗した臭い。
自分でもイヤになる臭いが、部屋中に充満している。
「傷口の腐敗と再生、獣人族でなかったら即死ですね」
「治りそうか?」
どう?
「難しいです」
……やっぱり。
「お母さんは、いらっしゃいますか?」
お母さん?なんで?
「討伐に出ている」
怒り狂って出ていったしな、お母さん。大丈夫かな?心配だよ。
無事、帰ってきて、お願い。
「では、女性の姉妹は?」
「麗乱、今はお前だけか?」
「シン姉さんもいるけど?あとミューはお婆ちゃんの家」
「呼んでもらえますか?」
「なぜだ?」
「血を一滴、使います」
「血だと?」
「子供はお母さんのお腹の中で育ちます。お母さんの血は基本なのです。これに含まれている情報を魔力強化して、この子の毒を解毒します」
「俺からも一つ条件をいいか?」
え?お父さん?変な条件は駄目だよ?
「はい、何でしょう?」
「お前の薬師としての、立脚点、始まり、信念を聞きたい」
立脚点?お父さん、また難しいことを。
でも、大事なことだよね。
「自他を生かし、お互いを助け合い、共に生きていく、ことです」
即答した!この人、凄い!格好いい!?
「誰の言葉だ?」
「ばれました?見習いのセリフでは無いですよね、私の先生、教授の言葉です」
「よい言葉だ、治療を頼む。この子は大きく見えるが、産まれて間もないのだ。命を繋いでくれ」
「では始めますね」
「ここにいていいのか?」
「構いません」
カチャカチャ。
ん?ガラスの音かしら?
パタパタ。
あ、テキパキ動いている?
ギーコギーコ。
何、この音?私の身体、どうなっているの?
ガリガリガリ。
優しくしてくださいね?
「血液を使うとは、聞いたこともない治療法だが?」
痛くしないでくださいね?
「通常の治療では、この毒は解毒できません」
治療法、難しい、と。
「そして、この子が完治したら、この子の血、一滴から沢山の解毒剤ができます。あと、これだけ強い毒ならば、魔力と融合した異常抗体が発生して、数十年、毒無効になるかも知れませんね、この子」
完治したら?
治った後のことを考えている?
なら、私、治るの?
「我々獣人族の血は危険とされている。使いようによっては能力が一時的に移るとも聞いたが?遙か昔、戦に利用された、と伝わっているが?」
あ、お父さんの波動が膨らんだ?
「はい、その通りだと思います」
え?認めちゃったの?
「ですが、今ではそれ以上の技術があります。血による強化実験は古い技術になっていますよ。危険な強化より、魔石による人体強化の方が、より安全で血液以上の強化が出来ます。王都の騎士団は、あなた方獣人族と対等に戦えます。ご存じでしょう?」
え?人族、いつの間にそこまで強く?
「お前は本当に薬師見習いか?」
「間者ではありませんよ」
あ、この人笑った!?
すごい余裕ではないか!
ん?ドアが開いた?誰か来た?
「明季はどう?私が必要と聞いたが?明季のためなら何でもするぞ?」
あ、シンお姉さん!
うう、涙でそう!
次回投稿は2022/12/21の予定です。
サブタイトルは ホントに学生さん? です。