表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/406

【第12話】 明季、暴走す

 2匹目が体当たりをしてくる。

 さっきのより、でかい。

 

 角のある巨大な頭部が、目の前に迫る。

 私は怯むことなく、下がらず、前に進んで氷獣の攻撃を躱す。

 そして、私の横をすり抜ける寸前に、お臍に力を込め、抜きを!


 ふんっ!


 ドオオン、っと響く衝撃音。

 周りの雪が吹き上がり、一面、真っ白になる。

 鱗が砕け、雪の中に沈む氷獣、これで私は2匹目。

 魔獣ラグナルはもっと硬かった、もっと速かった!

 後方でミミ姉さんが、氷獣と戦い始める。

 一撃で倒していない。


 ん?お姉ちゃん?服が?


 風に舞い飛び散る服。

 獣人族の服はゴツい頑丈なフック一つ外すだけで、あっという間に脱げる。

 瞬時にミミお姉ちゃんが猫に変わる。猫に変わる寸前、真っ白い肌が雪に映える。

 その均等のとれた裸体に一瞬、目が釘付けになる。

 

 ゴブリンの目が自然と発動する。


 鞭のようなしなやかな肢体、うわっ憧れるなぁ。

 出ているところ出ているし、へこんでいるところ、へこんでいるし。

 野生美溢れるミミ姉さん、素裸の方が格好良くないか?

 それに、お姉ちゃん、猫になっても美猫で凛々しいっ!

 着ていた服が風に舞う。


 風が出てきたか?


 雪が舞い始め、段々と視界が悪くなる。

 このままいくと、天候で行動が制限されないか?

 獣人族は寒さに強いとはいっても、その服装は結構重い、鎧も兼ねた防寒着なのだ。その防寒着が風に舞う?嵐の訪れか?


 いつしか太陽は分厚い黒い雲に覆われ、青い空も見えなくなっていた。 

 凜々しくも可愛い猫が、連続猫パンチで2匹目を仕留める。

 そして、凄い速さで私を目指して走ってくる。

 

 あ、回り込まれた!


 私は私で、4匹の氷獣の連帯連続攻撃を受けていた。

 しつこい。


 抜き、の技は一瞬だが『タメ』がある。

 氷獣は賢い。魔獣ラグナルは連帯がまったく駄目だった。

 が、氷獣は違う!

 抜き、という技を見た、と思う。

 抜き、を思うように打てない!

 打たせてくれない、が正解か?


 氷獣は連帯で狩りをしている、そんな感じだ。

 休むことなく攻撃を繰り返し、疲労の蓄積を狙っているようにも感じる。


 このままでは不利?


 服が、重いな。

 ならば、私は肩に付いているゴツい金具に手を伸ばし。


 パチン、っとな!


 一気に服が外れ、風に舞う。

 これ、考えた人、凄いな。


 ……ざむいっ!かっこつけて脱いだけど、やっぱり寒いっ!

 でも寒いなんて考えていたら、あっという間に氷獣の餌食だ!

 風に舞った私の服は、氷獣の顔に張り付く。


 攻撃してきた氷獣が、一瞬戸惑う。


 突進した私は、そのまま飛び上がり、舞った服越しに抜きを放つ。

 ぺち、という軽い音。


 が、効果は覿面、吹飛ぶ氷獣、残り3匹!

 その氷獣を支点、足場にして!


 回し蹴りっ!


 ぺち!

 仲間を盾に襲ってきた氷獣は、軽く吹っ飛び、積雪に埋もれるように倒れる。

 これで残り2匹!


 こいつらを倒せば、あとは、お姉ちゃんのところの一番デカいヤツのみ!

 正確に、確実に、一匹ずつ仕留める。

 更に飛び上がり!


 あっ!


 お姉ちゃんを飛び越し、私をターゲットにする巨大な氷獣。

 その巨体が、なんと空中で、くるりと回る!

 この攻撃!

 分かっていても避けられない?

 いや『タイ』を返れば!避けられる!

 身体の重心を動かし、身体をコントロール!

 ギリギリで身体をひねり!


 が、丸太のような尻尾が私にヒットする。

 あ、慢心していた?

 気づいたときには遅い、ってパターン?

 おかしい!避けたはずなのに!?


 ここで私は致命的なミスに気がつく。


 あ、ゴブリン阿騎なら避けられたんだ!


 今の私、阿騎より大きいし、重い!

 ブロックした両腕は確実に折れている。


 雪原にたたき落とされる私。

 積雪に深く沈み、一瞬、身動きがとれなくなる。

 そして遙か上空から、狙い澄ました巨大な爪が迫る。


 ああ、ヤベンさんとナイダイさんに怒られる!


 どこからともなく、湧き上がる怒り。

 

 猛毒の爪は私に深々と刺さり、突き抜ける。

 詳しく書けない色々なモノが、私の口から吐き出される。


 白い雪が赤黒く染まる。


 氷獣は、笑い声のような雄叫びを上げ、私を投げ捨てる。

 余程私を仕留めたのが嬉しかったのだろうか?

 それともこんな声で、こいつは鳴くのだろうか?

 が、氷獣の攻撃より、獣人の回復力が上回っていた。

 身体は痺れ、激痛が全身を襲ったが、倍速再生以上の速さで傷口が塞がっていく。


 あれ?痛みが?

 ふっと痛みが消える。

 獣人族の再生能力は驚異だな。

 だけど、痛みが無いのはおかしい、何故だ?

 あ、ゴブリンの回路が一部、開いている!

 痛感をカットしている!


 血に染まった雪上にゆっくりと立ち上がる私。


「明季!避けろ!無闇に立つなっ!」


 ?


 何言っているの?お姉ちゃん?

 聞こえない!

 念話を使って!

 いや、念話を失念するほど焦っているのだろうか?

 

 !


 どうやらこの氷獣は、3匹、一グループで行動するのではないか?


(お姉ちゃん、氷獣に囲まれているよ)

(早く回避しろ!立ち止まるな!)


 はい、立ち止まらないよ、私は走り続ける。

 止まったりしない。

 ゴブリンの時代、走り続けた気がする。

 走りすぎたのか、後悔も残った。

 後悔だけはしたくないな。

 

 ……私の魔力感知は正確に氷獣を捉えていた。


 新手、九組27匹。


 ん?一部傷口が再生していない?

 ドクドクと流れ出る血。


 どっ、と前のめりに倒れる私。

 何か起きた!?


 再び積雪にのめり込む。


 それは、爪による攻撃だった。


 まあ死角からの攻撃は、ある意味正攻法か。

 さすがに傷の再生が緩やかになる。


 カチリッ、と何かのスイッチが入る。


 それはイメージだったが、明らかに私の動きが変わった。

 ……これ、もしかしてゴブリンの暴走モード?


 ヤバい!止めないと、押さえ込まないと、殺戮マシーンに!


 視野が狭くなり、その視野に入る動くモノ全てを粉砕し始める。


 な、私の意思だけでは止められない!次々に数を減らしてく氷獣。


 ?


 新手の数の減り方が?

 誰かが参戦した?


 サーベルタイガーと黒豹、大きな前足が目を引く虎が次々に氷獣を狩っていく。


(ミミ!お前が付いていながら、明季は無事か!?)


(明季が暴走している!止めるから誰か手を貸せ!)


(凄い戦闘能力だな、このまま氷獣を狩らせてくか?あっと言う間に全滅だぞ)


(駄目だ、暴走モードは死のモードだ、止めるのが先決だ)


(明季は俺に任せろ、取敢えず湖に投げ込む)


 氷獣とバトル中の私を、空から舞い降りた大鷲が、その大きな爪でガッシリと摑む。

 私は大暴れし、抵抗したが、どうにもならない。


 その内、湖に放り込まれて、あまりの冷たさに、ようやく暴走スイッチが切れる。


 が、その後が大変だった。


 もともと獣人族は怪我や病気に強い、薬師無用の一族なのだ。

 簡単な毒消し程度しか常備薬はなく、薬草の知識も殆ど無い。

 

 解毒できない私は死を待つばかりになった。

次回投稿は2022/12/21の予定です。

サブタイトルは その薬師は学生さん です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ