【第11話】 色々困る
どうしよう?
(……)
何と答える?
困ったな。
「語り部は、ホルダーではないか、と言っていた。お婆ちゃんは笑って、ホルダーは昔のお話だ、と言っていたけど?」
どこで気づかれた?私が粗忽者で、鈍いだけか?
(……)
「まあホルダーは伝説的存在だ、自称ホルダーは結構いるけどな」
YESは駄目だ、シンお姉さんの記憶に影響する。最悪お姉さんは……駄目だ!
(……)
では、NOか?嘘は嫌だ、でも。
じっと私を見つめるミミ姉さん。
「明季、無理して答える必要はない。話したくなったら話せ。話したくなかったら墓場まで持っていけ。前世の記憶なんて、考えただけで私は疲れると思う。いいことばかりの人生なんてないからな。思い出したくない、ことの方が多くないか?そんな気がする」
「……ミミ姉さん。姉さんだったら何て答えるの?」
「そうだな、私だったら分からん!と答えるよ」
今度、誰かに聞かれたらそう答えるとしよう。
「もう一つある」
え?今度は何?
私は思わず身構える。
「そんなに身構えるな、地獄門の大戦を知っているか?」
……え?
なにそれ?
「シン姉さんのお尻の黒子というか、特殊な痣は大戦に関係しているそうだ。このことは私と語り部しか知らない」
(シンお姉さん、本人も知らないの?)
「ああ、黒子は知っていても、大戦のことは知らない、それ程危険な言葉なんだ」
初めて聞いた言葉だけど。
あ、なんか閃いた!?
これ、炎の巨人さんに関係がある!?
「この大戦の名を、聞いたことはあるか?」
「ない」
即答する私。
「そうか、シン姉さんは精霊に選ばれた戦士だ。その印に、あの黒子があるそうだ」
地獄門の大戦?
初耳だ。
恐ろしい名前だな?
じわじわと底知れぬ恐怖がわき上がる。
「明季、意識をそらせ、その言葉に意識を集中すると、危ない」
「え?」
「その言葉は禁呪に匹敵するんだ。その言葉を口にするだけで、危険が迫ると言われている。だが、大戦についての内容は少ししか伝わっていない」
「ど、どんな内容なの?」
声に出して聞いてみた。
「いつ始まるか分からない。もう終わったのか、始まるのか、それとも今、誰かが戦っているのかも分からない。それは遙か遠方であり、目の前で行われている大戦である、と言い伝えられている」
「意味分からないよ!?」
「ああ、だから語り部や、術者はこの言葉に注意し、情報を集めているのさ」
元帥さんなら知っているかしら?
ん?
魔力感知に何か接触したぞ?
「どうした?明季?」
私の異変に、即座に反応するミミ姉さん。
(変な魔力が3つある。こっちを見ている?)
「方向は?」
(太陽を正面に、右後ろ)
(北北東か)
!
え?方角が?この世界にはある?
(まずい、氷獣だ、あれは斥候だな。目撃された狩り場はここからかなり遠いはず、ここにいるわけないのに……移動が早すぎるぞ)
ん?ミミ姉さん?
(よく分かったな、あれが。目視ギリギリだ、レイランでも探せるか、怪しいかも)
わははっ、また、やっちまったかな?
(お姉ちゃん、早く村に引き返そう!)
じりじりと下がる私とお姉ちゃん。
村のレイランお姉さんに連絡を!
こっちに意識、向けているかな?
え?
念話が通じない?魔力妨害?
この状態だったら、レイランお姉さんに繋がるはずなのに!
(お前は初めてだか分からないだろうが、彼奴らは気象コントロールもするし、術も使う、足の速さは私達の三倍だ。獣化すれば速さは対等だが、明季お前は……)
?
(獣化、意識して出来るか?)
(……やり方……知らないかも)
なんせ産まれて3、4ヶ月?
(なら、逃げ切れない)
え?そんなに足早いの!?彼奴ら?
眉間に、皺が寄るお姉ちゃん。苦悩のようす。
(少しでも生存率を上げる)
そう言って私を抱き上げ、全速力で走り出した。
「わっ!?」
(喋るなよ?舌を噛むぞ!)
矢のように走るお姉ちゃん、さっきの走りは、私に合わせてくれたのね?速度がとんでもなく違う!
(接触ぎりぎりで明季を投げる、着地に注意しろよ!!)
え?投げ出すの!?
(ここは私に任せて、お前は村まで走れ!振り向くなよ?)
……リアルでこのセリフ、聞けるとは思わなかったな。
変なフラグが立ったかも。
(ミミ姉さんは大丈夫なの?私も戦うよ?二人で戦った方が生存率上がるよ?)
(やけに落ち着いているな?怖くないのか?)
雰囲気的に、魔獣ラグナルより強いとは思えない。
(お姉ちゃん1匹、私2匹で挑まない?)
(ば、馬鹿なこと言うなっ!ここは私3匹、明季はゼロ。村まで走ってお父さん達呼んでこいっ!)
おお、ゼロと言う数字がある。
(いいか、獣人族の走りは背骨に意識を集中するんだ。背骨から全身に熱、魔力を伝えるイメージをする。疲れること無く最速で走れる。実践だやってみろ!)
そう言ってお姉ちゃんは、私を前方目掛けて、おもいっつつつきり投げ出した!
「!!!!!!」
うひーっ!と、飛んでいるよ私!
高い高い、の横バージョンだ!
くるくると周りながら落下に移る私。
?
え?目が回らない!?
すごい平衡感覚だ!何これ?
冷静に周りを観察する。
お姉ちゃんには悪いけど、着地と同時に速効で戻って、お姉ちゃんを援護する。
仲間をおいて、姉妹を置いて帰るなど、私にはできないよ。
二人で倒そう、お姉ちゃん!
!
やばいっ!
(お、お姉ちゃん!北東から3匹、南東から3匹!)
着地は見事に失敗し、私は雪の中に深く沈む。
う、動けん!
こんな時に!困るよ私っ!しっかりしてよ私っ!お姉ちゃんがっ!
身体を丸め、力任せに雪の中をゴロゴロと転げ回る。
足場、確保、と。
雪の中から這い出した私は周囲を確認する。
氷獣8匹?
あ、一匹お姉ちゃんが倒している!
あとから現れた6匹は、私方向に接近中だ。
私は、氷獣を迎え撃つべく走り出したけど、氷獣はとんでもなく俊足だった。
ぐんぐん縮まる距離。
(馬鹿者!逃げるんだよ!そっちじゃない!)
背骨だったね、お姉ちゃん!
多分、戦いの時もこれの応用だね。
うわっ私、足、はやっ!
無呼吸全速力、全然、苦じゃない!
目の前に迫る氷獣1ッ匹!後方に2匹、左から3匹。
あ、動きが変化した!
最初の一匹は、私の間合い寸前で大きくジャンプをし、大きな口を開ける。
その牙は魔獣ラグナルより小さい。
動きも無駄が多いかな?
でも、間合いは知っているようだ。
私の間合いを変化して、崩した。
意識をこの氷獣に集中する。
すると、周りの動きがスローモーション化する。
しかし、よく似ているなぁ。
!
もしかして、魔獣ラグナルのオリジナルは氷獣?
氷獣を元にラグナルを作った!?
すっと自然に、私は仁王さんに似た形をとる。
ミミ姉さんが何かを叫んでいるようだが、もう聞こえない。
迫り来る氷獣の大きな口。
うーん、魔獣ラグナルの方が、怖いな。
第一印象、感想である。
今の私に、脳内住人、いるのかしら?
亀さん、鶴さん夫婦。
「アクセス」
(……)
ま、魔力が、たりんっ!
不在かな?困るよっ!
迫り来る氷獣。
足下は雪で不安定。
全身を使う抜き、には秘密がある。
小柄でチカラの無かった亜紀。
田崎さんは支点、力点、作用点、を教えたのだ。
どこに支点を作るか、持っていくか、どう作用するか、どこを動かすと、結果どうなるのか?
数学的な考えに、私は直ぐに飛びついた。
田崎さんは言った。
「では、足場が悪く滑ったり、支える点が不確か、無かった場合はどうする?」
「え?支点が無ければ、全て成り立ちません」
「物理ではね」
「?」
「私の流儀は、それを体の中心に求める」
「あ、丹田とかですか?」
「ほう、丹田を知っている?でも違う。お臍だよ」
「お臍!?」
「お臍は見ることも出来るし、触ることも出来る。お母さんとの絆、命の連帯でもある。お臍は力場の中心だよ、足場が無い場合はお臍を支点にし、力点にし、作用点にする。できるかな?」
「意味不明です!」
「はははっ、これが出来たら伝承者だよ」
伝承者を名乗るかな?
大地を踏みしめて、大地より力を伝える抜き。
雪の上で不安定、ともすれば沈んでしまう足場。
この場合、抜きは発動しない。
外に、力の場所を求められない。
ならば、自身の内側に見つける、作り出す。
そして、これを自身で打つ。
お臍を意識するだけで、無意識に拳が動き、氷獣を打った。
氷獣のどこにヒットしたのか分からない。
が、氷獣は一撃で吹っ飛び絶命する。
残り7匹。
魔獣ラグナルに挑み続けた、ゴブリン達の技の記憶、田崎さんに教えてもらった技、全力で使わせてもらう!
次回投稿は2022/12/18の予定です。
サブタイトルは 明季、暴走す です。