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【第8話】 それは言えない

少し早めの投稿になりました。

「どどどどどどどうしたぁ明季!」


 焦りまくるアランお兄ちゃん。


「シン姉!シン姉が変なこと言うからっ!」

「ち、ちょっとま、待て!明季!泣くな!泣くな!そんなに悲しいことなのか!」


 狼狽えるシンお姉さん。


「えぐっ、えぐっ、わあああああああああん、あああああああああん」


 涙が、声が、止まらない!


「そんなに悲しいことか!?なら無理して喋らなくていいから、な?な?」


 慌てて私を抱きしめてくれる、シンお姉さん。

 ふわっ、と優しい香りが、私を包み込む。


「ヒューやミューが起きちまう、アラン、外行ってくる!マント、取ってくれ!」

「外、寒いぞ?」


 そう言いながら、毛布のようなマントが私達を包む。

 2重のドアを開けると、そこは一面の銀世界。


 真っ白い雪景色!


 獣人族の村は、遙か北の大地、人族は住めない極寒の地にある。

 今日は風も吹かず、お日様の見える穏やかな日なのだが、数日前までは雪嵐が凄かった。


「えぐぅ、えぐぅ」

「泣き止んでくれ?な?な?ごめんよ?ごめんな?」


 抱きしめられる度に、マントの中にシンお姉さんの匂いが籠もる。


 いい匂い。


 この匂い、エルフさんみたい。

 ん?

 ……。

 この匂い?

 違う。

 霊匂?


 エルフさんみたいじゃなくて、この匂い、この波動?エルフさん!?


 ピタリ、と泣き止む私。

 あ、でも嗚咽が。


「うぐっ、えぐっ」

「ごめんよ、ごめんよ?明季、お姉ちゃん、悪かったよな?な?お姉ちゃんもなきそうだよ!」


 優しいお姉さん、涙目だ。

 じっとその瞳をのぞき込む。


「いったい、どうしたんだよ、突然」


 お鼻とお鼻がくっつきそうである。

 私が、エルフさんの匂いを間違えることはない。

 断言する、この匂いはエルフさんだ。


「ん?どうした?明季、寒いか?母さん早く帰ってきてくれぇ」


 勇気を絞り出して聞いてみる。


「お、おねえたん」

「!」


 ち、が発音しにくい!もう一回!


「……シンお姉ちゃん」

「お、おう、な、なんだ明季?ほんと、ごめんな?」

「シンお姉ちゃんは、なんで今日、狩りに行かなかったの?」


 何と答える?


「ん?あははっ、私は弓を使った狩りには行かないよ、弓がヘタなんだ」


 心臓が早く動き始める。

 ドキドキと音が聞こえそうだ。


「あの……一つお願いがあるの」


「何だ?何でもいいぞ?」

(どんなお願いだ?やはり、私が思ったとおりだ、明季は見かけこそ子供だが、中身は違う!)


 素直なお姉さんの意思が聞こえる。

 読むつもりはないのだが、漏れ聞こえてくるのだ。


「なにも聞かず、私の質問に答えてくれる?」

「?いいぞ?」

(質問?彼氏はいないし、ちゅーもしたことないぞ、いや、そんな質問ではないな?)


 お姉ちゃん、思春期?

 ちゅーという言葉に、私は笑いそうになったが、言葉を、一つ、一つ、絞り出し、聞いてみた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん右のお尻に、涙の形のほくろ、ある?」

「なんでそれを知っている!?」


 何でだろうね?でも、それは言えない。


 悲鳴に近い声、綺麗な二重瞼の目が、大きく見開かれる。

 私、さらに泣きそうである。


「一緒に風呂、入ったか?ど、どこで見た?母さんと語り部しか知らないことだぞ?いや母さん喋るわけないし?麗乱か?」


 私はシンお姉さんの細い首に腕を回した。


「お、おい、どうした?明季?くすぐったいぞ!?」


 エルフさん!!

 会いたかった!


 ……。


 ぺろぺろ。


「んきゃぁぁぁぁぁっぁあああああ!」


 ぺろぺろ。ちゅっ、ちゅっ。


「こ、こらぁ!や、め!やめろっ!あん!いやっ!だ!だめだってええっ!」

「シンお姉ちゃん、大好きだよ!」

「わ、わかった!分かったから首にペロペロはやめろっ!首、弱いんだよっ!どこで覚えたんだよ!こんなことっ!?」

「え?だって私わんわんだし、愛情表現だよ!ぺろぺろぺろ」

「ひいぃぃっ!」


 私は猛反省した。

 強くならなければ、泣いてばかりでは駄目だ。

 もし、私が原因で、シンお姉さんの記憶が蘇ったらどうなる?


 エルフさんの記憶だ。


 おばばさまが、死を選ぶかも知れないと、言っていた破滅の記憶だ。

 危険すぎる前世の記憶、エルフさんにとっては、もう邪魔でしかないだろう。

 反省しろ明季、シンお姉さんのこれからの人生に、影を落とすところだったのだぞ。

 いや、影どころか、破滅をもたらしたかも知れない。


 この日から、私にとってシンお姉さんは特別な存在になった。

 エルフさんは、シンお姉さんとして頑張って生きている。


 皆、どこかで生きている、と信じよう。


「おお?どうした?シン。明季と仲良しして?お出迎えか?お父さんは嬉しいぞ!」


 沢山の獲物を携え、お父さん達が帰ってきた。


「父さん、明季がじゃれて困るんだ!」


「お帰りなさい!お父さんっ!」


 ハイな気分の私は、元気に声を出した。


「ああ、ただいま明季、皆無事にか帰っ……て……きた?ぞ?」

「え?夫よ、明季が喋っている、私の明季がお帰りと!」

「……お父さん、だと?私を、お帰りなさいと……」

「ん?夫よ、何を言っている?だから、あれは間違いなく、私と夫の子だぞ?」


 そう言って、お母さんは私を、シン姉さんから引ったくった。


「さあ明季、母と呼びなさい!ママと呼びなさい!お母さん、マム

、母上と呼ぶのですっ!」


 私を抱き上げくるくると回るお母さん。


「お帰りなさいっ!ランお母さん!」


 子供が喋るだけで、こんなにも嬉しいモノなのか?

 ボカロ、一曲歌ったら、嬉しいを通り越して恐怖だろうなぁ。

 そうだな、例えば、エノンと私の子供が、おとうさんお帰りなさい、とか言ったら?


 ……あ、駄目、嬉しすぎるっ!世界が変わるっ!


 エノン、成月……私は、この世界から全力で二人の幸せを祈る、それしかできない。二人だけじゃない、あの時代の皆の幸せを!


 そして、約束する。


 もし、この時代で会えたなら、私の命、全てを、皆にあげる。

(この時の私は、まだ知りもしないけど、この約束は、後に果たされることになる)


「シン、今夜は会議だ。村長や語り部達が集まる。酒の用意を」

「はい、父さん……何かあったの?」

「狩りの途中で、氷獣の群れを見た」


 ひょうじゅう?


「!」

「数が多い、我々だけでは手に余りそうだ」

「夫よ、明季のお披露目もある。金狼の噂は北部全体に広がっているみたいだ」


 え?


「アラン、ケイン、麗乱、連絡を頼む。ミミ、氷獣について明季に教えておけ」


 家族に指示を出すと、お父さんは村の皆を集め始めた。


「お母さん、明季は産まれて間もない、話すのはいいけど理解できるのかな?」

「ミミ、あなたは理解出来たでしょう?半年も経たないうちに狩りに出て、氷獣まで仕留めている」


 獣人族って、産まれて直ぐに立ったり、走ったりする、お馬さんみたいなのかな?

 育成ゲームでの知識だが、確か、2年ほどで独立、親離れしていたような?

 あ、レイランお姉さんと目が合った!

 コンタクトしてみるか?


(レイランお姉ちゃん!)

(ひいっ!)


 ん?なに?この反応!


(ど、どうしたの?)

(ひいっ!ごめんなさい!ごめんなさい!)


 なんで謝るのだろう?

 私は怯える波動をまき散らす姉に、軽いショックを覚える。

 そ、そんなに怯えること、した?


(あ、明季、あなたの魔力、私には強すぎるの、お、怒らないでね、私、あなたが怖いの!)

(怒らないよ!産まれる前は平気だったのに、魔術担当の後継者とか、考えていなかった?)


 ん?ミミ姉さんと目が合う。


(レイランは怖がりなんだ、暴力的なことが嫌いでね)

(私、暴力振るわないよ!)


 心外である。振るわれたことはあっても、自ら進んで振るったことはない。

 魔獣ラグナルや人族と戦いはしたが、あれは理不尽な暴力に抵抗したものだ。

 少なくとも、進んで他者を傷つけ、楽しんだことはない。

 

 あ、ペンケース、投げたかな?


(金狼事件がショックみたいでね、他の皆は頼もしいとか、面白がっていたけど、レイランは怖かっただけみたい)


 実のお姉さんに怖がられる?それはイヤだな。

 折角の姉妹、仲良くしたい。


(さて明季、お前については色々と聞きたいことがあるし、教えたいこともある。ちょっと付き合え)

 私はミミ姉さんに抱っこされ、屋根上に連れて行かれた。

 なんで屋根上?

(見晴らしがいいからだよ、それに私、猫だし)


 ……兄弟姉妹の中で最強のミミ姉さん、どんなお話なのだろう?

次回投稿は2022/12/17の予定です。

サブタイトルは 獣人族の村 です。


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