【第4話】 野良猫
獣人族ってどんな種族なのだろう?
やっぱり、武闘派、拳で勝負、とかなのだろうか?
でもレイランお姉さんは凄い魔法使いみたいだし?
あ!
ここで思い出した。
野生の掟。
野良猫の生き方!
清掃員さんが教えてくれたことだ!
野生の動物は子供を護るためだったら、天敵にも挑む時があるそうだ。
そして野生動物故に、弱った子供は育てない、とも言っていた。
清掃員さんが時々エサをやっていた野良猫、子供を咥えてきて、置いていったことが何度かあった。
子ネコはとても弱っていて、皮膚病であろうか、ぼろぼろであった。
聞いてみると、弱い子を私に預けにきたのよ、って言っていた。
猫の世界、弱い子は死ぬしかないのか?
弱肉強食、世の中は修羅の世界か?
自然界は厳しい。人の世界も厳しいけど。
「弱い子が死んでいく世界、人はそれを変えることができるのよ」
清掃員さんの言葉だ。
預けられた猫は、一匹も死ぬことなく、近所の猫好きさん達に譲渡された。
凄いな、清掃員さん。彼女は、どんな人生を歩んできたのだろう。
優しいだけじゃない清掃員さん。
ボロボロの猫は、彼女との大切な思い出の一つだ。
私もお世話をした。
親に捨てられた猫、まるで自分のようではないか。
弱りきった子ネコ、手袋付けた手でケージに入れ、病院へ連れて行った。
猫には思い出が沢山ある。
犬のお世話もしたけど、私は、我が道を進む猫に惹かれた。
お散歩もしなくていいしね。
犬も好きだけど、当時の私は散歩が怖くて出来なかった。
体力的にも、精神的にも。
世界は、敵しかいなかったし。
で、お父さん、ごめんなさい。私、犬派ではなく猫派なんです。
お願いですお母さん、出来ればチーター辺りでいいのですけど。
無理でしょうか?
ほら、前前世、病弱で走れなかったし。
自力で時速80㎞の疾走、凄すぎ!憧れる。
すっ、と何かが優しく触れる。
つんつん、と指先で確かめるみたいな挨拶。
レイランお姉さんだ!
ふわっ、と交わる意識。
広がる空間、草原だ!
(今日は、赤ちゃん。今日も来たよ)
はい、今日はレイランお姉さん。待っていたよ!
(あれ?嬉しいのかな?弾んだ気持ちが伝わってくる)
それはね、こんな綺麗な猫のお姉さんが、毎日会いに来てくれるんだ、嬉しいに決まっている。
(今日は家族の紹介をするね)
はい。
(シュート家は家族が多いの、今は全部で11名。あと近くにお爺ちゃんとお婆ちゃん、曾お爺ちゃんと曾お婆ちゃんも住んでいるの)
え?シュート一族?全部で何人いるの?
レイランお姉さんも、嬉しそうに声を弾ませ語りかけてくる。
(まずはお父さん、獣人族の戦士で狼男。名前は季羅、シュート家の家長で弟さんが一人いるの。)
名前のイメージが、漢字として私に伝わる。
季羅お父さん、うん、覚えた。
(お母さんが大好きでね、ずっと新婚さんみたいなの)
はい、知っています……レイランお姉さん、赤面している?
(ん?赤ちゃん、赤面している?)
……さもありなん。
(一番上が長女で豹の、シン姉さん。とても落ち着いていて姉妹兄弟のまとめ役よ)
女豹?うわっ凄く格好いいかも!
(次が次女で虎のアイ姉さん、言葉遣いがちょっと強くて、実は私、苦手なの。元気のいいお姉さんよ)
虎?了解。
(三番目が三毛猫のミミ姉さん。ミミ姉さんは姉妹兄弟の中で一番強いわ。とても頼りになる存在よ)
え?三毛猫お姉さんが一番強いの?そういえば、チーター追い回していたな。
獣人族は見かけではないと?
(それで四番目が長男のアラン兄さん、チーターで凄く走るのが速いの。獣人だからスタミナも凄くて、野生のチーターと違って1日中走っても苦にならないみたい)
……どんな体力?筋肉痛とは無縁の存在?
(五番目が次男のケイン兄さん。ケイン兄さんは犬鷲で、鳥なの)
え?鳥?
(獣人だから夜目も利くし、鳥目ではないわ。狩りがとても上手で凄いの。でも家族の中で一人だけ鳥人だから、時々悩んでいるみたい)
一人だけ鳥?複雑な心境では?前世では飛んだことあるけど、一緒に飛べたら素敵ではなかろうか?
(そして六番目が四女の私、麗乱。魔力は家族の中で一番強かったわ)
強かった?過去形?
(多分、赤ちゃんの方が私より上だと思う。ごめんね赤ちゃん、獣人族は魔力がそれ程強くないの)
ふむふむ。
(だから魔力が強い子は、お仕事が沢山あるのよ)
……。
(フォローはするから、1番の名誉は譲ります。お願い、受け取って!私、人前とか苦手で、苦痛なの)
ええ!?お姉さん!ずるい……私に拒否権あるの?
うう、まだリアルで見たことも、触ったこともない姉のお願いだが、善処します。
(で、七番目が三男の剣歯虎、サーベルタイガーのミン君。食いしん坊でマイペースよ。八番目と九番目は双子の男女なの。四男のヒュー君がピューマで、五女のミューがジャガー、ヒュー君はせっかちで、慌てん坊、ミューは世話好きでお母さんが大好きでべったりなの。多分あなたが生れたら、嫉妬するでしょうね)
うわ、姉妹のドロドロ?
姉妹の嫉妬って?どんなのかしら?
お姉さん、生れる前からやめて、そんな話。
(そしてあなたが十番目の六女、明季ちゃん)
!
また同じ名前だ。
(今は冬なの、この地方の春と夏は短くてね、冬がとても長いの。春は皆が待ち望んでいる明るい季節、それでお婆ちゃんが付けた名前よ)
呆れた、のアキかと思った。
誰かが言っていたし。男女関係なし?生れる前から名前あり?
(呆れるのアキ、じゃないですよ)
そう願います。
男女と言えば、私、男の子かしら?女の子かしら?
女の子がいいんですけど。
男の子は色々と元気が強くて、私としては困る?戸惑う?
ゴブリン男子の時に経験したが、直ぐに女子の胸元や腰に、目が吸い付けられるのだ。全てのゴブリン男子がそうとは限らないが、私の場合、エルフさんの髪の香だけでも、ドキドキと心臓が早鐘を打つほどだ。
ちょっとでも異性を感じると、女の子大好きモードが発動する。
これはゴブリン男子に限ってのことだろうか?
まあ他の種族はどうか知らないが、似たようなモノではないだろうか?私の偏見か?
従って、私としては圧倒的に、女の子の方が安らぐんですけど。
これは、誰にお願いすればいいのだろう?
炎の巨人さんかしら?
それとも巨人さんより上の、上位存在?
(産まれるときの儀式というか、状態?伝統?を教えるね)
はいはい。
(私達は、一見、見た目は人族なの。人族は満ち潮と共に産まれて、引き潮と共に死を迎えるというわ)
あ、それ聞いたことある。
(獣人族は満月と共に産まれて、死すべき時に死す、と言われているの)
満月?やっぱり、月と関係があるんだ。
(私達の生活は月と共にあるの、例えば私は満月と新月の時が一番強いの、あ、このことは秘密ね。本当は言ってはいけないことなの。明季が覚えているかどうかは分からないけど、一例として教えるわね)
逆に言うなら、満月と新月の中間の日が一番弱いってこと?
それならば確かに、他者には教えられないわね、弱点だもの。
(産まれる前の『教え』はとても重要なの、子供でもできるだけ大人として扱うのが、獣人の掟なんだ)
産まれる前の教え?あ、もしかして胎教のことかな?
似ている気がする。
いや、これは獣人族の胎教だ。
ここでエノンと成月のことを思い出す。
泣きそうだ。
エノン、一人で子育て、苦労していないか?
ニトお父さんやリュートお母さんは、きっと大事にしてくれているはず。
エノンや子供や皆……全員、元気に頑張っていると、信じさせてくれ!
思うだけで、私にはもう何も出来ない。
こんなに悔しくも悲しいことはない。
(明季?どうしたの?)
目の前のカラカルは裸体の女性に変わり、そっと私を抱きしめる。
え!?
か、感覚がある!!
マシュマロ以上に柔らかい感覚が私を包み込む。
普通の夢だったら感覚はないはず。
超空間にしては魔力が満ちていないし?
(どうしたの?心配ないよ?)
この女性は、危ういくらい優しい女性なのでは?
それとも、獣人族の女性は、皆こんな感じなのだろうか?しかし食事の感じはかなり違っていたが?
(明季、私には今あなたが銀色の球体に見えるわ。その球体がニコニコ笑って光ったり、暗く沈んで溶けそうに成ったりして見えるの。元気出して!余り、頼りにはならないかも知れないけど、お姉さんが側にいてあげるよ、お母さんだって)
決別の時だ。
ゴブリンを忘れはしないが、別れないといけない。
この時私はそう思った。
次回投稿は2022/12/07の予定です。
サブタイトルは 産まれたよ です。