【第3話】 待っている人達
目の前で、ゆったりと寛ぐ巨大な猫。
いや猫なんだが、家猫クラスではない。
雰囲気は猛獣だね、これは。
(私はあなたの姉、お姉さんだよ)
いや、さすがに無理があるでしょう?
確かに綺麗で可愛い美猫だけど。
あ、目の前の野生動物に、可愛いは駄目だと思う。
だってこっちはご飯だし。
(私の名前は、シュート・麗乱。シュート家の四女よ)
あ、私を魔力でなでなでした人!
ん?人かな?
(あなたに会える日を、楽しみにしていますね)
え?え?
食べたりしない?
綺麗だけど、ちょっと、いや、かなり怖いかも……。
私って、どんな風に見えているのだろう?
(え?恐怖?あなた意思に方向性がある?ちょっと待ってね)
そう言うとレイランお姉さんは……わっ!
むくり、と立ち上がるカラカル。
二足歩行?
映像ではない、リアルに骨格が、関節が変わっていく!
見た目70㎝程の猫が160㎝程の人物に!
え?ここは超空間?いや違う、夢の世界みたいだし、リアルでないリアル?
獰猛な筋肉を隠し持った、美しいカラカルは、繊細で綺麗な裸体の女性に変わった。
ちょっとつり目の美人さんだ。
髪が風に揺れる。
そっと白い綺麗な手が、揺れる髪を押さえる。
ほっそりした肩に、たゆんと揺れる格好いいバスト。
あ、うっすらと腹筋、割れている!
そして、どうしても惹きつけられる可愛いお臍、そして、その下。
……わぁ……大人の女性だ……。
鏡は無いのかしら?私は、どんな風に見えているの?心配だよ。
自分の姿が見れない!まるで目だけの存在みたいなのだ。
(不思議だなぁミン達と違う。あなたには明確な意識がある?)
ミン達?誰だろう?
直感が閃く。
この人、おばばさまみたいな能力がある。
おばばさま……会いたいなぁ最後の会話、何だったろう……。
(?)
あ!
(悲しい?寂しい?何が寂しいの?大丈夫だよ?よしよし、私の家族は皆いい人ばかりだよ?心配ないよ?)
……。
(また来るね)
そう言い残して、フッと消える意思。
辺りは暗くなり、静寂が広がる。
ぽろぽろと涙が零れる。
もうあの世界には戻れない。ゴブリンの世界は、私にとって、過去の世界だ。
まどかがいた世界も。
前世の記憶、邪魔だ!
うう、私は悲しいのだろうか?悔しいのだろうか?
くっそおおおおっ!
前を向け亜紀!
前へ進め亜紀!
私は自分を叱咤した。
(待っている人がいるぞ)
え?
この声!炎の巨人さん!?
違う!誰だ!?
(この世界でお前を、待ち望んでいる者達がいる)
誰?
(ワシも待っておる)
誰です!?
炎の巨人さんですか?
?
……もういない?
誰だろう?とても大きな感じだったから、巨人さんと思ったけど?
私を待っている人達がいるって、言っていたけど。
この私を待っている?
誰が待っているのだろう?
取敢えず、レイランお姉さんは、また来る、と言ってくれたし、よしよしもしてくれたし、私が生れるのを待っていてくれている、と思う。
早く会いに来てくれないかな。
いや、私が会いに行くのかな?
ん?待てよ?
カラカルがレイランお姉さんに変わった。虫が蝶に変わるみたいに、要は変態だ。
いや、変質なのか?それとも変身?
これは獣人族と見るべきか?
だとしたら、私は?
私も獣人!?だよね?
あんな綺麗なカラカルに、なれるの!?
あ、会話を!そうだ!会話を思い出そう!
それに先程の風景!あれは夢を使った魔法だ、何らかのメッセージが含まれているはず。
動物は何匹いた?虎は一匹ではなかったし、鳥もいたな?
全部で、三毛猫も数えて11匹、うわぁ家族が11人いるの?11人いる!
それと私が10人目の子供みたいだから、あのビジョンは全部私の家族、獣人達と見るべきだろう。
獣人って言ったら狼男だよね。
狼男ってたしか?
え~っと?
ホラー映画は怖いから、あまり見ていないのよ。
まどかは好きだったけど……。
そうそう、満月になると無敵になる?銀の弾丸に弱い、だったかな?
血で感染するんだっけ?
この世界の獣人さん達は、どうなのだろう?
色々考えている内に私は眠ってしまったようだ。
……?
ん?誰かがお腹を撫でている。
この手は……お母さんだ!
(元気に生れますように)
はい、私も元気に生れたいです。
お?次は大きな手だ!お父さん?
(わんわん、わんわん、出来ればわんわん)
……。
「ちょっと、キラお父さん?変な呪文、唱えていないでしょうね?」
あ、お母さん、お父さんのこと、キラお父さんって呼ぶんだ。
「う、な、何のことでしょう?ランさん?」
ランさん?ランさん!?
お父さん、お母さんのこと、ランさんって呼ぶの?
……私、ここにいていいのかしら?
なんか恥ずかしいというか、子供が見てはいけない場面というか。
これは、夫婦の密室タイムではなかろうか?
あ?
ああっ!い、今、もの凄い愛情が流れ込んだ!
き、き、キスしたんだ!そ、それも濃厚なヤツ!
あ、また愛情が流れ込んできた!
お母さん、キュンってしている!
夫婦仲、良すぎではないかい?
まあ、仲がいいことは良いことだ。少なくとも、このお父さんは鉄パイプで保育器壊したりはしないだろう。
次回投稿は2022/12/04の予定です。
サブタイトルは 野良猫 です。