【第1話】 闇の中の巨人
暗いなあ、ここどこだろう?
歩いている感覚はある。
みんな、どこ?
記憶が曖昧だ。
お兄ちゃん!メイドン!
私、寂しいよ。
それに、ここ、寒い。
暗闇に対する恐怖より、不安が先行しているな。
あ、先に光の点が見える?
あそこに行ってみよう。
きっと皆あそこにいる!
私は確信し、足早に光の点を目指す。
光の点は段々大きくなり……?
いや、私が近づいているから、大きく見えるのか?
暗闇の中、対象物がないから確認しにくいなぁ。
巨人?
人の形をしているけど?
燃えている!?
あ?
あ!
思い出した!
炎の巨人、夢の中に出てくる!
!!
ここで私は、全てを思い出す。
炎の巨人はゆっくりと私を見下ろした。
「大したものだ、魔族チクリまで辿り着くとは」
「巨人さん!教えてくださいっ!皆は!皆はっ!」
「もう別の世界のことだぞ?心砕いても、何も変わらんぞ?」
「そのセリフ、前回も聞きましたっ!別の世界でも、私が住んでいた世界ですっ!変わらなくても、知りたいし、心配するのは当たり前です!」
皆はどうなったの?お兄ちゃん!メイドン!お父さん、お母さん!エルフさん!
あの、黒髪の女の子は!
「……」
炎の巨人は腕を組み、沈黙した。
「教えてください!」
「私としては、魔族チクリの先まで進んで欲しかったのだが」
?
魔族チクリの先?魔王さまかしら?
「違う、魔王ではない。妖精族の能力を利用し、全てを利益にしようとしていた者がいる。そいつを止めて欲しかったのだがな」
え?
黒幕ってこと?
「多くの人族を動かし、設備を投資し、古の科学技術を復活、経済を活性化し莫大な資金運用、世界を握りつぶそうとしていた人物だ」
何それ?
「私に何の関係が?」
「お前を結果的に殺害した、多国籍企業の創始者が、こちらの世界でも同じことをしているのだ」
迷惑。
「そう、世界にとって迷惑な存在なのだ。世界を豊かにできるのに、私利私欲、自己中心的でお金が大好きなヤツなのだ」
「でも、どうして私が?」
「あの者が生きている世界に、お前が転生すると、必ず何らかに影響でお前が死んでしまうのだ」
「え?」
「そしてお前が死んでしまうと、お前の眷属や、お前のことが大好きな者が敵を討つ。そして必ずあの者は倒される」
「え?それでは?」
「ああ、前回はナツが、今回はサイザンがヤツを倒した」
「お兄ちゃんが?」
「お前が死んだと聞いたサイザンは暴走し、人族の首都を急襲、全てを破壊した。鱗の人族は絶滅したよ」
ぜ、絶滅?絶えた?
「……お、お兄ちゃんは?」
魔王に……なった?
「魔王化したサイザンは、勇者に討たれた」
……そんな……お兄ちゃん……。
お父さん、お母さん、悲しんだろうなぁ。
メイドン……。
どの選択が一番良かったのだろう?
一生懸命考えて、生きてみたけど……。
「ん?なぜワシを睨む?」
「そんな大事なこと、最初から教えてください!私には敵がいるって!」
そうすれば、回避できたかも知れない。
「言ったぞ?ちゃんと」
「え?」
「勝て、と」
そ、それだけ?
「許せ、鶴夫婦や亀同様、詳しくは言えないのだ」
「私は穏やかに、ゆっくり暮らしたいです」
「そうは行かないのが、人生だ」
「行き過ぎてませんかっ?」
波瀾万丈すぎると思う。
みんな、どうなったのだろう?
「亜紀、時間だ」
「え?早すぎますよ!もっとお話し、しましょうよ!」
あ、巨人さん、周囲を魔力感知で探っている?
この巨人さんにも敵が?
「一つだけ教えてください!巨人さん!」
「なんだ?」
「エノンはどうなりました?赤ちゃんは!?」
もし、生れているなら、私の子供だ!私とエノンの赤ちゃん!
「元気な男の子が生れたぞ」
私はその場に座り込んでしまう。
「わ、わた、わたしの、私の……子……です、よね?」
「そうだ、お前の子だ」
……。
私は号泣した。
「わああああああああああああん……わあああああああああん」
「何故泣く?」
「だ、だ、こ……だっ、だっだっこ、だっこ!抱っこ、してあげたかったっ!」
「……そうか」
「な、なまえ、な、名前はっ!?」
「おばばが付けたぞ」
おばばさまが、名付け親……。
……私は子供が怖かった。
前世で、親から酷い目に遭わされたし、親を知らない私は、もし、子供が生れたなら、親と同じことをするのではないか、と恐怖した。
愛情を知らない私は、愛情を与えられない、そう思ったのだ。
まさか、こんなにも愛おしい存在だったとは。
遅い、遅いよ私。
今、気がついても!見ることも、触ることも、もう出来ない!
「な、なっ名前を、名前を教えてください、名前を!」
「成月だ」
「え?」
「お前の子供の名だ」
「……な……つ?」
すっ、と意識が遠くなる。
闇に吸い込まれるように、光がどんどん遠くなる。
「ま、待って!待って!まだ、まだ聞きたいことがっ!聞きたいことが沢山ある!巨人さん!」
「……!」
何を言っている?聞こえない!
「……」
何を伝えたいのだ!
もどかしいぃ!ホントに!あの巨人さんはっ!
ふわふわと漂う感覚が身を包む。
あ、世界が変わった。
ここどこ?
大地ある?歩けるの?浮いているの?
私は、暗黒の世界へと落ちて行くような感覚に襲われる。
落ちているよね?落ちないって言ったのに!
それから、どのくらい時間が経過したのか分からない。
多分、私は眠っていたんだと思う。
不思議な夢を見た気がするのだが、思い出せない。
「……」
あ、誰かがお話ししている?
どこから?
こっち、かしら?
「……」
ほら、声が聞こえる。
行ってみよう!呼ばれている気がする!
こうして私は、声に呼ばれて世界を変えた。
「豹、虎、三毛猫、チーター、犬鷲、カラカル、剣歯虎、ピューマ、ジャガー」
「何が言いたいの?」
「わんわんがいない」
「いるでしょう?鳥だけど。それに、にゃんにゃん、いっぱい、ねっ?にゃんにゃんで我慢しなさい!」
「イヤだ!わんわんほしい」
「我が家の食費、知ってる?」
「知らん、でも十分稼いでいる自覚はある」
「……はぁ」
深いため息一つ。
「わんわん」
「……はあぁ」
深いため息、2つ目。
?
なんだ?
この会話?
亜紀は夢の中で、不思議な会話を聞いた。
投稿は2022/12/03の予定で、サブタイトルは 新しい家族 です。