表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/406

【第107話】 あるゴブリンの死

少し早めの投稿になりました。

「どう言うこと?あなたは何者なの?魔族チクリ?」


「我か?我は知りたがりの魔族だ。本来、この地に我は近づくこともできない存在だ。お前には感謝しているぞホルダー阿騎。ここは天地創造、星々や宇宙世界を作り出す高次元世界の雛形だ!」


 エノンの目が少しだけ動く。


「ああ、そうだよ私が亜紀だよ、これが私だよ」

「……」


 そっとエノンの手を握る。


(阿騎くん?女の人?)

(ええ、そうよ。ここでは私、女の子なんだ)

(エルフさんみたいで綺麗)

(綺麗!?ありがとう)

(うち、死ぬのかな?)

(!)

(故郷で阿騎くんと決魂して、赤ちゃん沢山産んで、育てて、仲良く、楽しく暮らす予定だったのだけれど……うち残念)


 怒りと悲しみが全身に満ちる。


「ちょうどいいではないか!物質の接触行動ではなく、心のふれあいで子が出来るのだ!お互いを思う気持ちが強ければ強いほど、能力の高い子が生れる!さあ我に高次元の奇跡を見せよ!」


 おもいっっっきりこいつをぶん殴りたいっ!!と思った瞬間、それが現実化した。

 周囲の力が、一斉に魔族チクリに集中する!

 魔族チクリの周囲の空間が異様に歪む。

 魔力を、大きくまき散らしながら吹飛ぶ魔族チクリ。


「げはっ」


 そして魔族チクリは消えてなくなった。


「ねさま、すごい。魔族チクリ、言っていたよね?ここで起きたことは現実世界に反映されるって。可哀想に、現実世界に戻ったらあの魔族、どうなるんだろう」

 しるか。

 不届き者のド変態め、赤ちゃん作るところ、我に見せよ、だと!?神楽ならいざ知らず、秘め事は見せるモノではない!

 その時、九州で見た神楽を思い出した。

 まどかとの旅行、楽しかったな、数少ない安らぐ思い出の一つだ。


 あ!?


 私の手を通し、エノンの何か?が流れ込んできた!?

 それと同時に、私の中の何かが、傷ついたエノンの身体に流れていった。

 花の渦?

 綺麗な花の渦巻き?それに何これ?梅の花の香り?


((か、身体が、身体が熱い!))


 エノンの身体が小刻みに震え出す。

 棘が貫通し、ボロボロだった身体が徐々に回復し始める。

 エノン、助かった?

(阿騎くん、お腹が暖かい)


 え?


 エノンの目は潤み、優しいため息を一つ。


「ねさま、この子が生れたとき、魔族チクリに利用されないように、僕の意思も少しだけ、エノンちゃんに渡すね。僕の記憶が、この子達の役に立つはず」


 え?この子!?この子達!?


「ねさま」

「?」

 ルカトナちゃん?雰囲気が?

「さよならだ。サイザンお兄ちゃん、頑張っているけど間に合わないみたい」

 え?

「飛龍隊も3機しか残っていないし、ハーピーさん達も皆、倒れたみたい」

「ルカトナちゃん?」

 飛龍隊?

「流石の元帥さんも、不通り島の援軍は、気づかなかったみたいだね。粒の兵器が動き出したみたいだから、僕が中和して無効化するよ。余った僕の魔力はサイザンお兄ちゃんにあげる……敵の数は……3000か」

「待って!ルカトナちゃん!」

「駄目だよ、このままだったらニトお父さんとリュートお母さん、死んじゃうよ。僕、あの二人、好きなんだ」


 そう言ってルカトナちゃんは消えた。


「え!?待って!待ってルカトナちゃん!」


 亀さんは何も言わない、鶴さん夫婦も沈黙している。

 彼らは、アドバイスはする、が、私達の選択に是非は言わない。

 私達がどのような選択をしようと、彼らはそれを尊重する、そんな存在なのだ。

 だけど、亀さんも鶴さん夫婦も何か悲しそうだ。


 ふっ、と焦点が合う。

 轟音が響く。

 戦っている?


 どこだ!?ここ?


 あ、魔木!

 今までどこにいた?夢の世界?

 覚えているか?

 うん!覚えているっ!


「ゴブッメイドン!!」

「はいデス!!」

「プラン変更ゴブ!私が魔木にあらゆる手を使って、とどめを刺すゴブ!エノンを連れて避難、もしくは首都を目指せゴブ!敵の数は3000に増えているゴブ」

「了解デス」


 ここを早く終わらせて、お兄ちゃんの援護に向わないと!

 ルカトナちゃん!


(元帥さん!魔法部隊の召喚はできますか?)

(いつでもよかよ、俺っ達ん所の魔法部隊は一つじゃなかけん、何時でも喚びなっせ)


「アクセス!!」


 スケルトン100名の戦士はあと少しで時間切れだ。 

 召喚が重なるけど、魔力的には問題ないな。

 明らかに私の魔力使用上限が上がっている。

 多分、瀕死から回復したことが原因だろう。

 召喚した魔法使いは100名、黒頭巾の女性スケルトンだ。


(同調いいかしら?海水を竜巻で巻き上げ、大量の酸素を含ませ、魔力飽和させる。その竜巻で魔木を包み、枯らします。これで駄目ならもう一度雷を使い、そのあと炎を使い焼き払う)

(分かった、ホルダー阿騎。あの魔木、エノンを傷つけた、ゆるせん)

(ホルダー阿騎、エノンは無事なんだろうな?)


 エノン、人気者?


(メイドンが護っているから心配ない。ドライアド・トルクさま、魔木を枯らします)

私が宣言すると、私達もフォローします、と答えが返ってきた。


 更に強まるドライアドの結界。

 ん?黒い種に動きが?

 黒い種はむくり、と起き上がり、黒い液体を撒き散らしながら、割れ始める。


 中から這い出てきたのは……何だ、あれは!?

 カラカラに干からびた、三面六臂の……鬼女?


 目は赤く、口は耳元まで裂け、短刀のような鋭い牙が不揃いに並ぶ。

 口を閉じたら怪我するのでは?と思うくらい恐ろしく長い牙だ。

 触る前に切れそう!

 右の顔は傷だらけで、天と地を、人族を、妖精族を、生きている者全てを呪っていた。


「私を見捨てた天と地よ、呪われよ!ドライアドとして世界をこんなにも慈しんだのに!消えてしまえ、生きとし生けるもの達よ!全て消えてしまえ!滅んでしまえ!」

 左の顔は涙や鼻水、嘔吐物を吐き出しながら、自分を呪っていた。

「私は慢心していたのであろうか?己の力に溺れていたのであろうか?魔族に捕まり、生きていけないほどの辱めを……こんな自分、消えてしまえ!」

 そう言って自分を何度も何度も、叩き続ける。

 腕も、身体も壊れては、再生、これをを繰り返している。


 そして、真ん中の顔は、虚無的な赤い目でポツリ、ポツリ、と小さな涙を零しながら……私を見た。

 その目は虚空の目だ。

 見るもの全てを破壊する目だ。

 事実、強い破壊力秘めた魔力の塊を、際限なく周囲に放っている。

 まるであの頃の自分を見ているようだ。

 その怨念は周囲の大地を、ドーム基地を腐敗させ始めた。

 根の瘤から生れた分身も、もだえ苦しみ、腐敗していく。

 ボロボロと崩れ去る基地、悪臭を放ち、毒沼になる大地。


 ああ、私が虐められていた時の思いと、同じだ。

 私は沢山の男性や女性から、とても酷い目に遭わされた。

 両親への憎悪は、私に向けられた。

 理不尽な暴力、私が何をした?

 被害者の私は、加害者になろうとした。


 世界を呪った。

 世界を壊そうとした。

 それは孤独だった。


 私が立ち止まったのは、思い出があったからだ。

 目の前のドライアドは、あの頃の私ではないのか?

 私は少し、いやかなり、躊躇った。

 このままでいいのか?このドライアドさん。

 しかし、打つ手がない。こんな途轍もない毒念の塊みたいな存在、OVERKILLを使用したところで、簡易転生できるか?

 亀さん鶴さん夫婦の答えはNOだ。


 誰かが止めないと、世界が壊れる、このドライアドさんは危険すぎる。

 お兄ちゃん、ルカトナちゃん。

 ニトお父さん、リュートお母さん、エルフさん、ボンバーズ。

 そしてエノン、コロ隊長、おばばさま、ナイダイさん。ちびちゃんズ。

 ああ、ちびちゃんズ、みんな無事かな。


 空から風が巻き下ろしてくる。

 海に接したそれは、轟音と共に海水を巻き上げる。

 周囲を破壊しながら、海水の竜巻が種を包む。

 あらゆる物を巻き上げ、その渦で粉々にする巨大竜巻。


「がっ……………」


 魔力を帯びた酸素と海水が、巨大化し始めた魔木を粉々に粉砕していく。

 魔族チクリ、嘘ではなかった。


 アイツを信じることができていれば、被害も少なく出来た。

 アイツを素直に見ることができていたら、粒の兵器も……。

 前世の記憶が邪魔をしたのか?いや、記憶が無くても同じだったろうか?

 苦しみながら消えていくドライアド。

 それでも世界への攻撃はやめない。


 魔族チクリ、人族、ゆるせないなあいつら。

 世界を呪うように仕向けた。


 だけど、これでいいのか?よかったのか?


(ホルダー阿騎)

 ドライアドさん?

(我々は聖と魔の属性を持ち合わせています、あの妹は魔の属性が強かった。魔に惹かれ、共振したのでしょう)

 共振?

(植物は力を持っています。少量、適量で薬、多ければ毒。魔族チクリと人族はより多くの毒を使ってモ・カとド・カを虜にしたのでしょう、恐ろしいことです)

もう一人のドライアドが言葉を添える。

(許したくないな、魔族、人族。私の大好きなお姉さん達を)

(ユ・ミ、モ・カだけでも助かったのです。ド・カは強力なドライアド、トルク一族の中でも強者です。それこそ勇者か魔王クラスの力がないと、簡易転生は無理です。真名をもって異界に送りましょう)


 まことな?私は気になって聞いてみた。


(真名って?)


(ス・ミ姉さん、それは迷信でしょう?遙か昔、本当の名前は隠さないと悪意の者に支配、利用されるって、言い伝えだよ)

(ホルダー阿騎、遙か昔、私達は名前の一字を隠していたのです。今では隠す者はいませんし、真名の言葉自体、伝わっていませんが。私の真名はドライアド・トルク・マスミ、同族の者はス・ミ、と呼んでいます)

(私はドライアド・トルク・マユミ、ユ・ミよ)


 あ、私の世界が震えだした、そういうことか。


(彼女の名前はドライアド・トルク・マドカ、皆はド・カと呼んでいたわ)


 バチン、霊音が響く。

 何かが弾けた。

 騒ぎ出す魔法部隊のスケルトンさん達。


(!ホルダー阿騎!危ない!回線が切れた!)


 一瞬、私は止まった。

 竜巻も止まり、霧散する。

 私を見ていた虚無的な目が一瞬光ったように見えた。


 あ、マズイ。


 魔力に刺し貫かれる私。


(阿騎!)


 誰かが叫んだ。


 魔力還元が始まる。


 ああ、前世の記憶、邪魔だな。


 まどかの名前、単なる偶然の一致かも知れないのに。

 私のまどかと、目の前のマドカ、何の関係がある?


「ゴブ、でもその名前、聞いたからには、助けずにはいられないゴブ」


 身体に3つほど穴が開いて、拡散し始める私。

 もう私は助からないな、ならば。


 全魔力を解放した。


 誰かが何か言っているけど、もう何も聞こえない。


 手に持っているドライアドの杖は、赤色に染まり、まるで朱槍のよう。

 上限を無視した重速術は私の身体を壊し、私は意思だけの存在になった。


 恐ろしいドライアド・マドカの顔が迫る。


 まどかはもっと、優しい顔だ。

 これはきっと別のまどかだ、私の知らないマドカだ。ああ、前世の記憶邪魔だな、この記憶さえ無かったら、私は死ぬことはなかった。でも後悔はしていない……いやしているかな、この世界にまだ、さよならはしたくなかった。喩え5年の命でも。


(菌糸算譜さん、今からOVERKILLを使うわ。当てられるでしょう?お願い)

(嫌な役だな、私がお前に引導を渡すのか?)

(あなたにしかできないことよ)


 OVERKILL。


 私の魔力を目掛け、空から巨大な隕石が落ちてくる。

 拡散していく私の意思。

 ボロボロと崩れていくドライアド・マドカ。


 あなたが誰か知らないわ。

 でも、その名前の持ち主に、私は不幸になって欲しくないの。


 あ。


 一瞬、黒髪の女の子が見えたような気がした。

 

 簡易転生を確信し、私は消えていった。

次回投稿は2022/11/30の予定です。

サブタイトルは 闇の中の巨人 です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ