【第105話】 ゴブリン、ラストバトル2
(我を無視するとは大したものだな?魔木の倒し方を教えたであろう?使え!このままでは不利だぞ?魔木を倒すことで、脅威が一つ減る)
(なんで?)
(?)
(検証も実験も、何もしていない攻略方法、実行なんてしないよ。少なくとも私は魔族の教えなんてまともに信じないわ)
(なんと!)
当たり前でしょう?この私が相手の命を粗末に扱う、いじめの結晶みたいな、いやそれ以上の存在を信じるわけ無い。
どれだけ酷い目に遭ってきたか。
(海水と酸素を魔力で飽和?これ、植物、暴走しない?自分が信用されていると思っているの?これだけのことを私達にしといて?)
自分で考えて、導き出した答えはこれだ。
(コロ隊長、魔木を風の魔法で包んでできるだけ多くの風で!)
(分かった、風で封印でもするのか?)
(できれば圧縮を)
(圧縮?やってみよう。飛龍隊、スケルトン魔法部隊、手伝え)
コロ隊長に魔力が集中し、周囲に風として広がる。
大地を揺るがす風が、再生途中の魔木を包む。
多くの魔昆虫も巻き込まれ、自由を失う。
その風は、周囲のドーム基地の壁に、亀裂が入るほどの暴風だ。
気候が変わる?環境変更魔法?
こんな魔法、頻繁に使用してはいけない、と思わせるほどの力だ。
(風ごときで我の魔木は滅せんぞ?)
無視、と。
(コロ隊長、元帥さん、皆、タイミング合わせてね。いくよ、3、2、1!)
溜まりに溜まった私の魔力。
一気に解放する!
天空より放たれる雷。
雷は酸素でその威力を倍増する。
そこに幽霊船の主砲より放たれた光魔法が交錯する。
私の魔力と、コロ隊長、古の魔法使いの魔力、古の魔法兵器がぶつかり合う。
空間が轟音と共に激震する。
次々に壊れていく、周辺のドーム基地。
(素晴らしいっ!我が作り出した兵器は、最高ではないか!OVERKILLの破壊力と同等、いや、それ以上だぞ!)
大きく揺れる熱気球、大空に投げ出されそうだ!
「ゴ、ゴブゥだ、大丈夫?阿騎くん?あんなに魔力を使って!?」
玲門お姉さんが、途轍もなく心配顔で尋ねる。
「大丈夫だよゴブゴブ、ちゃんと制御して使っているゴブ」
「本当だろうなゴブゴブ?」
うう、美観お姉さんには信用ないなぁ。
魔木のあった場所には、黒く禍々しい巨大な種が出現している。
トルクちゃんの時と似ている?同じか?
(阿騎!メイドンが)
(ど、どうしたのお兄ちゃん!?)
またやっちゃった?魔法攻撃に巻き込んだ!?
(粒の兵器が一つしかないって言っている!残り二つが何処かに運び出されているって!)
え?2つ消えた?何処に?
!
海だ!!
魔海獣と魔ゴブリン!運び出したんだ!
まずいぞ!ヤバい!
誰か、こっちに意識が向いているかな?
(おばばさま!リュートお母さん!ニトお父さん!エルフさん!)
返事がない!誰か!気がついて!
お願い!
(なんだ阿騎?)
!
エルフさん!
つながったっ!
(エ、エ、エル、エルフさん、おち落ち着いて聞いて!)
(……お前が落ち着けよ、阿騎。どうした?)
(粒の兵器を携えた魔海獣と魔ゴブリンが、そちらに向っている!)
(粒の兵器?元帥閣下から使用してはいけない兵器、と聞いたが?)
(それが向っている、形状や使用条件は分からないけど、早く逃げて!)
無人基地と分かれば、粒の兵器を使用しないかも知れない。
(コロ隊長からの連絡と指示で、もう海に潜っているが?)
(え?)
(全員、ドワーフ王の『新型潜水船』で海に出て潜水中だ)
さ、さすがコロ隊長!
(それで遠回りして、そちらに向っている。可能な限り幽霊船と同じ場所にいた方が安全だとドワーフ王が判断した)
(今から、なるべく遠くに避難して、規模は分からないけど粒の兵器は使用したあとも大変なの、環境を破壊し続けるの)
(……人族は何を考えているのだ?分かった。負傷者は飛龍隊が船まで運ぶか首都近くの医療施設に運ぶことになっているが、取敢えず船は大陸から離れるぞ)
(分かった)
(あ、ニトとリュートは首都を目指しているぞ)
(え?)
(薬草の知識が乏しいらしく招かれたのだ)
粒の兵器は残り2つ、一つは私達の海岸基地、ではもう一つは?
首都だ!
(護衛はゴブリン2名とキング・オーの部下3名、それと青3番だ)
(青3番?)
(ああ、この大地では動けるらしい。小型バージョンで護衛している)
(分かった、エルフさん達はそのまま避難して!あとはこちらで、どうにかする!)
(阿騎、一つ質問がある)
(?)
(私の秘密の黒子とは何だ?)
(!)
え?念話がそっちにも届いていたの!?
(皆に聞こえたのだが、この責任、どうとる?戦い、終わったら詳細が聞きたい、死ぬなよ?)
(分かりましたエルフさん)
(約束したぞ)
ひ~どうしよう?これはエルフさんの名誉のためにも頑張らなければ!
(元帥さん、粒の兵器が2つ、海岸基地に向っている!それと首都にも!)
(分散したとね?厄介たい。阿騎くん、こっちもいかんよ、魔木は倒れて種になったばってん、エネルギー量は変わっとらん)
え?それって?
元帥さんは不思議な目を持っている。
予測の目、と元帥さんは言っていた。
軍隊でも、基地でも、人物でも、相手の『力量』が見えるらしいのだ。
魔力感知でも、霊視でもなく元帥さん独自の能力らしい。
この能力で元帥の地位まで昇った、という。
うーん本当かしら?元帥さんだったら人徳も有りそうだけど?
元帥さんが見て、人族のドーム基地はその力量が僅かに私達より劣る、らしいのだ。兵器、戦術、内容は一切分からない、が、その力が見えるらしい。
僅差で私達、妖精が勝つ、らしいのだ。
その元帥さんが言う。
魔木は倒れたが、エネルギー、力は変わっていない?そのまま?
形態が変わっただけ?
大地を割り、巨大な黒い種が這い出す。
(駄目、変わっていない!)
(簡易転生できていない、魔族の力が強い!種からは危険な個体が生まれるわ!気をつけて!)
ドライアド・トルクさま達が叫ぶ。
私のお休みは終わりだな。
「降りるゴブ、気球は妖精族を先導し、首都ルゥリー・トゥルリーを目指せゴブ」
「ゴブ?」
「ゴブ、粒の兵器は私達の海岸基地を破壊したあと、妖精族の首都を目指すゴブ。気球は首都防衛にあたるゴブ」
「ゴブ、あ、阿騎くん?ドワーフの王さま達は?皆はゴブゴブ?」
「王さま達は、新型の潜水船で避難しているゴブ、でもリュートお母さん達が首都を目指しているゴブ、救助に言って欲しいゴブ。出来るなら私達の基地も守ってほしいけど今の戦力じゃ無理だな、粒の兵器、3つ阻止は無理かもゴブゴブ」
「ここは私達が抜けても大丈夫ゴブ?魔木も、粒の兵器も一つあるのでしょうゴブゴブ?」
「ゴブ、ここを制圧したら私達も首都へ向うゴブ」
「大丈夫なの?出来るのゴブゴブ?」
本音は一緒にいてほしい、だけど。
「大丈夫ゴブ、人族だって簡単には粒の兵器は使用しないと思うゴブ」
その時、何か聞こえた。
遠方だ。方向は?
私達の海岸基地?
大地が揺れた。
数々の悲鳴が霊音として広がる。
草花や小動物、小鳥や虫たちの悲鳴だ。
北西の空が黒い渦に包まれている。
禍々しいその黒い雲は、見るものを圧倒した。
それが現実の雲なのか、霊視して見えているのか分からないが、あってはならない光景なのは確かだ。
なぜ無人の基地に対して使用する!?
意味は!?
(忌むべき兵器だな、この技術、人族から消すべきだ)
誰だろう、この呟き。キング・オーだろうか?
(阿騎くん、次はここたい。魔木に攻撃を集中している時に、粒ば発動たい)
(!)
(俺っならそうする)
(解除は!?)
(今、俺っ達の工作部隊が探しよるとよ、ばってんメイドンとの連隊が上手くいかん。敵の数が多か)
傘を使い落下する私。
(阿騎くん?何ばするとや?)
大地に降りると同時に、周囲の魔獣が吹飛ぶ。
ドライアド・トルクちゃんから譲り受けた杖が、赤く光り出す。
(元帥さん、呼ぶよ)
「アクセス!」
(阿騎くん?無理はいかん!魔力還元するばい!?)
(ゴブリンの、私の魔力使用量上限、ぎりぎりで勝負する。無理はしない)
「ゴブ、今この時、我らが故郷ン・ドント大陸にてゴブ、我、阿騎がスケルトン100の戦士を、人族撃破のため我が魔力をもってここに召喚するゴブ!集え英雄達ゴブゴブ!」
最初の現れたのは元帥さんだ。
フル装備である。
絶対に敵にはしたくない、そう思わせるド迫力の闘気。
本来、召喚魔力1000以上を基本値とする元帥さんを、召喚魔力1に調整して召喚するには無理がある。難しい魔力調整が必要なのだ。
亀さんは難しくて無理だと言ったが、召喚してみると、あっさりと上手くいった。
数学好きの、私の特権か?
しかし、魔力1の召喚だから、元帥さんの本来の力は1000分の1しか出せない。
が、それでもその力量は凄まじいものがあり、とても魔力1で召喚したものには見えない。
「軍曹、声ば上げれ!」
元帥さんが叫ぶ。
「我らが主、ネクロマンサー阿騎大地に立つ!皆の者!その力、主の前に示せ!」
一気に戦況が変わる。
「ゴブ、阿騎!無理は駄目だよ!」
素早く私のガードに駆けつけるメイドンとお兄ちゃん。
「無理はしていないよゴブゴブ。メイドン、ここの粒の兵器はどこゴブ?早く見つけて無効化しないとゴブゴブ」
「魔木の真下デス」
「!」
え?
(さてどうする?ホルダー阿騎?)
魔族チクリ!
次回投稿は2022/11/26の予定です。
サブタイトルは ゴブリン、ラストバトル3 か 私の死 のどちらかです。