【第101話】 気がついたら海岸戦
私は孤独を知っている。多分こいつも知っている。
私の突然の言葉に、正に言葉を失う魔族チクリ。
ヒュン。
一陣の風。
魔族チクリは動かない、何を考えている?
ぽちゃん。
池の方で水音がする。
亀さんだろうか?
独特の声、鶴さん夫婦だ。
魔族チクリに何かを伝えたのであろうか?
しかし核兵器?嘘ではないだろうな、嘘を言ったって意味がない。
「感情が世界を作り、その感情が世界を動かしている?いい言葉だね、だけどあなたの言う感情と私の想う感情は違うみたい」
黒い影が震える。
「つ、粒の兵器は禁書掲載の兵器だ、か、かなり強力だぞ、気をつけるんだなっ」
そう言い残して魔族チクリは、逃げるように消え去った。
核の技術はヤバいな、危険すぎる!
?
私の指を握りしめるルカトナちゃん。
「ルカトナちゃん、どこも痛くない?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、ねさま!」
じっと私を見るルカトナちゃん。
「ねさま、ねさまは格好いいな」
「はい?」
か?格好いい?
こんな評価は初めてではないか?
ふっ、と意識が変わる。
すると、目の前の風景がくるり、と変わる。
あ、核兵器のこと、思い出せるかな!?
目の前に広がるのはン・ドント大陸の中央平原。
千里島に漂っていた、あの嫌な臭いが辺りに満ちている。
そこには幾つもの魔獣の死体が転がっていた。
魔力還元していない?
魔獣ラグナルだけではない、知らない魔獣の死体も多くある。
身体も小さいし、容姿は凶悪だが、こいつらも人族に利用されているのか、と思うと可哀想になる。
可哀想とは思うが、とんでもなく獰猛で危険な存在だ。
ま、襲ってくるなら容赦しないけどね。
平原は静かになっていた。
ここでの戦闘は、私達の勝利で先程終わり、主戦場は海岸へと移りつつある。
人族はその数を多く減らし、敗走していた。
魔昆虫の大群は元帥さんの魔法部隊とエルフ聖騎士が一掃した。
元帥さんの魔法部隊は、皆黒いローブを纏ったスケルトン女性陣だ。
本体は200名程いるそうだが、今回10名の参戦、それでもその魔法攻撃は凄まじく、氷の嵐で、次々に魔昆虫は砕けていった。
暴れたりないわ、彼女達はそう言い残し千里島へ帰っていった。
驚いたのはエルフ聖騎士達である。
女性スケルトンの集団魔法、その威力のすさまじさ。
詠唱時の護衛にと結界を張ったが、その全てを吹飛ばし、魔法が発動されたのだ。
聖騎士の中に、彼女達のモトに赴き教えを受けたい、と言う者達が多数現れたらしい。
元帥さんによると、彼女達は、隕石により破壊された都市から救い出された魔法使いだそうだ。
独自のネットワークを使い、元帥さんの元に集まり、星喚び攻略戦に参加した人達。
彼女たちもまた、あの島に止まり、世界を護っている英傑だ。
ちなみに、ちびちゃんズが大のお気に入りで、滞在中はちびちゃんズ、色々とお世話になっていたみたい。
そして私は今、気球から降りて、大地に立っている。
右側に玲門お姉さん、左側に美観お姉さんが控えていて、私達を囲むように飛龍隊のメンバーが並ぶ。
私の目の前には壁があった。
なんだこれ?と言うくらい、でかい。
そう、キング・オーと名乗るオークの王さまだ。
私が気球から下りた時、このキング・オーとハーピーの女王さまは跪き、感謝の言葉を口にした。
いや私、そこまで大きな存在ではないのですけど?
皆あっての私。
身体壊して、召喚オンリーで戦闘出来ないし。正に口だけなのですけど?
その遙か後方にもケンタウロスの一軍が武器を捧げ、何か叫んでいた。鬨の声ってヤツだろうか?
トップらしき雄々しいケンタウロスが跪き、私に向って礼をする。
だからね、そんな存在ではないって。
そして現れるドワーフの王さま。
自然と妖精達が集まり始める。
ドワーフの王さまが、キング・オーと立ち話をしたい、と言い私も呼ばれたのだが。
その王さまとキング・オーのお話が始まる。
挨拶?会議?戦略について?
旧知の仲のようで、キング・オーは、そのドワーフ王の変わり果てた姿を見て怒りを滲ませた。
「金属加工や材料召喚、魔法に特化した身体、昔のように長時間戦えぬ、力も出ぬ、子も残せぬ」
「すまぬ」
「やむなし、せんなし」
「ゴブリンのおばばさまは無事か?」
「元気である、無事である」
「そうか」
オークの王さまは言葉少なげだ。
そこに一人、騒がしいエルフが乗り込んできた。
「イササイ、会談中だ控えろ」
エルフ聖騎士の一人が止める。
「どけ!モンは無事か!」
もん?
「クレス・ダイナ・モンだ!知らぬとは言わせぬぞ!」
知らん。
「クレスのことは後だ、態度を改めろ!」
「彼らがいなければ、今頃我々は魔獣の餌だぞ」
「知るか、モンは生きているのか?」
がしっ、と騒がしいエルフの襟首を摑むオークの王さま。
ふんっ、とその丸太のような腕を動かし、エルフを……投げ飛ばした!?
大きく弧を描いて何処かに落ちるエルフ。
「無作法者がいてスマンな、ホルダー阿騎どの」
そして何事もなかったかのように、ドワーフの王さまと話を進める。
……こえー。生きているかな、あのエルフさん。
〈ねさま、覚えている?〉
ん?ルカトナちゃん?
……あ。
あ!思い出したっ!
ありがとう、ルカトナちゃん!粒の兵器!今から話すね。
まずは元帥さんを呼ばなければ。
「ゴブ、ドワーフの王さま、キング・オーゴブゴブ、海岸の魔木や人族について話があるゴブ」
周囲に緊張が走る。
「アクセス」
ドライアド、トルクちゃんに貰った杖が輝く。
「ゴブ、今この時」
周囲の目が私に集まる。
「故郷ン・ドント大陸にてゴブ、我、阿騎がアトラ帝国スケルトン元帥を、合力のため、我が魔力をもってここに召喚するゴブ!」
ちらり、とキング・オーを見るハーピーの女王さま。
「キング・オー、まさかこれだけの言葉であのスケルトン達を喚んだのか?呪文でさえないぞ?それに普通、魔法陣が先だ」
「……この召喚術は」
黙するキング・オー。
エルフの聖騎士の一人が呟く。あ、キング・オーに投げ飛ばされたエルフさんだ。
「供物、贄、触媒も無い!?言葉のみ?魔力も殆ど流れていない、これでは召喚できない、失敗だ」
「いや、古文書にある」
「ほう、なんとある?キング・オー」
ハーピーの女王様は楽しそうだ。
「想うだけで、鳥の番いのように呼び合う、とある」
大地に浮かび上がる魔方陣、その中に出現する3体のスケルトン。
「阿騎くん、『合力』てね?面白か言葉ば使うね?やってきたばい」
両脇には旗持ち、旗手が堂々と聳え立つ。
「……ありえん」呟くエルフさん。
「なんか新しか情報ね?こっちも話があるとよ」
魔木の攻略が始まる。
次回投稿は2022/11/16の予定です。
サブタイトルは 気がついたら海岸戦2 です。