【第99話】 開戦
夜明け前。
中央平原北側には、妖精達の連合軍が陣を張っている。
先程まで黒い霧が辺りを包み、戦闘が繰り返されていた。
苦戦する妖精達を支えた、ナイダイさんのゴブリン部隊。
古代アトラ帝国の技術を使い、魔獣ラグナルの鱗を加工した特殊ブーメラン。
死角より次々に襲ってくるブーメランは、魔獣を悉く仕留めていった。
離れればブーメラン、接近戦では山茶花、人族の夜間部隊は数を減らしていった。
驚愕の目で見る妖精達。
それを複雑な思いで見る私達。
恐れられるのは良いのか、悪いのか。
コロ隊長の飛龍隊と、お兄ちゃんとメイドン、集団魔法隊は休息、静観である。
私とボンバーズこと美観お姉さんと玲門お姉さんは、気球で遙か上空から地上を見下ろしている。
エルフさんは参戦しない。
記憶が戻る可能性があるからだ。
おばばさまやニトお父さん達と、後方支援に徹底してもらっている。
もうすぐ夜が明ける、私はコロ隊長や皆に念話を送る。
(攻撃を開始する)
(おい阿騎!まだ夜明け前だぞ!?夜明けが合図だろう?)
(元帥さんの作戦だよ、妖精連合に裏切り者がいるかもしれないから、攻撃は早めると)
(は?軍人さんは疑り深いな?……分かった、飛龍隊、ボンバーズの攻撃後にスケルトンを召喚、吶喊する)
(聞いての通り、スケルトンを可能限り召喚する、その後は一匹でも多く魔獣を減らす、用意はいい?)
各部隊から返事が返ってくる。
「ゴブ!故郷を取り戻すゴブ!行くぞ!」
「「はいっ!」」
綺麗な炎の円が地上に現れる。
その巨大な炎の壁は、滞在する魔獣を多く包み、徐々に円の中心点に集まり始める。
多くの魔獣は炎を嫌がったが、この程度か、と嘲る態度をとった。
やがて炎は消え、水滴が集まり始める。
魔獣達は進軍し、水滴も炎も無視した。
平原を埋め尽くすような魔獣の群れ、これは、生産工場が海岸基地にあるな、私は確信した。
数は多いが魔獣達が小さいのだ、2m無い。
リーダーらしき魔獣は大きいが、それでも3m程だ。
そしてこの小さな魔獣達、命令を余り聞かない。指揮系統がぼろぼろなのだ。
辛うじてその強さと頑丈さで妖精達を圧倒しているが、更に強い我々が相手となると、対応しきれないのでは?
「玲門!」
「いくよ、お姉ちゃん」
返事と共に、敵陣の中央が大地と共に吹飛ぶ!
大轟音が鳴り響き、戦いが始まる。
「アクセスッ!!」
大地に光る魔方陣が花のように咲き乱れる。
そして光る魔方陣から次々に生み出されるスケルトン、100名。
平原南部を埋め尽くすようにいた魔獣達が次々に消えていく。
その様を呆然とみている妖精の連合軍。
あ、今動き始めた。
まあ、こちらが約束を違えて、抜け駆けみたいな攻撃したしね。
ん?スケルトンさん?
「軍曹、こいつら訓練不足だ!」
次々に襲いかかる魔獣をサクサクと切り伏せるスケルトンさん達。
「なっとらん!」
「個々は強いかもしれんが、勿体ない、味方を庇うこともしなければ、援護もしない」
「だが、数が異様に多いな?メシはどうしているんだ?魔昆虫みたいな自滅兵器か?」
スケルトン軍の遙か前方で、再び轟音が鳴り響く。
あ、メイドンとお兄ちゃん。
私に知らない技、使っている?
〈ねさま、来れる?〉
ルカトナちゃん!?お誘いとは珍しい、何かあったのかしら?
魔獣は半数以上倒れている。
このまま行けば、こちらの勝利だな。
!!
これは!?
脳内アラームが点滅する。
魔族?
意思を使い、トンネルを抜けるイメージを描く。
行けるかな?
すると、亀さんの意思が私を捕まえ、引っ張る。
するり、と卵の皮がむけるように、何かが抜け出す。
気がつくと、そこは超空間、特殊な夢の世界だ。
が、今回は様子が違う。
うわ、いつも晴天なのに、曇天だ。
「ねさま」
振り向くと、黒い影がルカトナちゃんと対峙していた。
真っ黒い小さな影。ゆらゆらと揺らめいて、人の形らしいのだが、よく見えない?
不思議な影だ。
「警告に来た」
突然しゃべり出す影。お、以外と綺麗な、透き通るような声!
もっと禍々しい声かと思っていたけど。
「チクリ?」
「名などどうでもよい、平原での戦いは楽に勝つ、しかし海岸戦は危ない負けるぞ」
「危険なのは元帥さんも言っていたわ、でも負けるとは?」
「元帥?ああ、スケルトンか、島の結界がなければ研究したいのだがな」
「ねさま、危険なのはこいつだよ!」
「前魔王の子供か?まさか、こんなところにいたとは。どうやって逃げ出した、あの島から?まあいい、もうお前に興味は無い」
影はそう言って、明らかにこっちを見た、見ていると思う。
「魔木の封印は失敗する、封印は出来ない。海水に毒を混ぜ、枯らすことを薦める」
え?
「バトルシップの召喚は流石だが、死者の封印と生者の封印は異なる。特にあのドライアド・トルク種は私が改良した品種だ、封印などできん」
品種?この魔族は何を自慢しているのだ!?
「自分が何をしてきたか、分かっているの?」
「なんだ?」
「どれだけ酷いことをしてきたのか、今だって!」
「お前こそ何を言っている?未来のため、技術革新のためだろう?」
な、なんだこの魔族は?
「誰の未来だ!?何のための技術だ!」
「私のためだ」
あ、ルカトナちゃん、切れた。
マズイ、超空間が壊れる。
どうする?亀さんも、鶴さん夫婦もじっとしている。
何も言わない。ああ、判断は私がするのね。
では、仕方あるまい、付き合うか。
アトロニアにも頼まれたし、この子のこと知っているし、見捨てることは出来ない。
「ルカトナちゃん、押さえて、とか言わないよ、思いっきり暴れていいよ」
許す、こいつと、ルカトナちゃんと心中だ。
夢体の私を全解放する。
「やめろルカトナ、何を血迷っている?お前は大好きな、ねさまを殺すきか?」
「!」
あ、踏みとどまった。
「お前も止めろ、阿騎、一緒になって暴走とは、何を考えている?」
「お前こそ何を考えている、魔族チクリ。自分のことしか考えていないのか?」
「そうだが?我さえよければ全て問題なし、当然であろう?」
そんなことも分からないのか?という波動が伝わってくる。
駄目だ、こいつとは永遠に平行線だ。
次回投稿は 2022/11/13 の予定です。
サブタイトルは 平行線魔族 です。