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ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
vol.3「少年隊結成」編

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op.7 妖精のヌシ①

 大きくて。

 気色悪くて。

 変な動き方して。

 そして、ぬめっとしてる生物。


 聖地開発区域・仮称カッパの番人──『妖精』と呼ばれる神秘の存在は、湖からぬうっと姿を現したのだった。



「ようせい……? よ、よよ妖精ぃいぃっ!?」


 その全貌を視界に収めるなり、絶叫する少年隊一同。

 なんだこのよくわかんないやつぅ!? マッキーナの言う通りだ、全然知らない生き物が出てきたぁ!

 透き通った水面を自身の体液で濁した謎の生物は、水の妖精と評するにはあまりにも気味が悪い……っていうかむしろ『妖怪』と呼んだ方がしっくりくる。


 まじでなんだこれ? 魚? 半人半魚(はんにんはんぎょ)? 人の(かお)を付けた魚!?

 それともカバ? 河の馬と書いて河馬(カバ)なんでショウカ!?


「少なくとも『河童』ではないよね!?」


 ハルリーダーの怒涛のツッコミにうんうんと賛同するメンバーたちであった。

 だって頭にお皿付いてないし。むしろツルピカのハゲ頭だ。え、きもっ! しかもなぜか長老(ハモンド)みたいな()()()()()()()()()()()()()……え、おっさん妖精!?


「──……ぎゃっっっはっ、ははっははははははははははっ!!」


 ハルの隣りで急に爆笑し始めたのはダイヤだ。


「やっべえ、超やべえ! きめえ! 魔獣よりおっかねえじゃん!」

「笑い事じゃないんだよ!? え、なに!? 僕たちは今からどうすればいいの、あれ!?」

「よし決めた、決まったぜハル! 俺はあのおっさん面したバケモンのことをこう名付けることにする! 湖のヌシ……いいや、妖精のヌシだ!」

「言ってる場合かよお!?」


 妖精のヌシを指差して、ハルがおろおろと。

「む、ムンク先生!」

 指名したのは魔獣退治のプロフェッショナル。

「任せた!」

「……いや…………」


 任されてしまったムンクが、一応は弓を構えながらもあからさまに迷惑そうな顔をして。


「アレが妖精なら、ハンター協会でも『妖精保護条例』に基づき原則として討伐してはいけない規則(ルール)がある。現地で保留するか、捕獲するかだ」

「え、あ! ……ああ〜…………」

「アレの生態調査が先だ。メトリアの有無、生物としてのルーツ」


 遠目では魔獣と妖精の判別がつけられない、と普段は頼もしいムンクから残念な回答が返ってきてしまう。

 すると、おそらくメンバー内で最も妖精に詳しいであろうマッキーナが声を上げた。


「ねえムンク。あんたのメトリアであいつを湖から引きずり出せない?」

「……俺が?」


 提案の真意を図りかねたムンクが怪訝そうにマッキーナを見返す。ちなみにマッキーナが宿している『炎』も、魔獣ならいざ知らず、妖精を相手取るにはやや物騒なメトリアだ。


「あんた『風』なんでしょう? 『結界(エリア)』と同じ要領で、あいつの動きを風で誘導することができないかしら」

「…………」

「魔獣にも似たような戦術使うわよね? 集団での囲い込み戦法。ハンター協会(あっち)ではずっと、そういう仕事(ハンティング)してたんじゃないの?」


 ──沈黙。

 そのときムンクが浮かべた、なんとも形容し難い表情がハルの頭からしばらく離れなかった。

 冷静に状況を整理し淡々と言葉を並べてくれるはずのムンクが、マッキーナの提案にはことごとく押し黙ってしまったのである。できることはできる、できないことはできないと、ただ明言するだけで良かったはずなのに。





 不穏な風が吹き抜ける中。


「んじゃ俺のメトリアでやってみっか?」


 パキパキ、と(もり)から『大地』を形成しながらダイヤが名乗りを上げる。

 笑い転げた涙をまだその黒目に残しているあたり、あんな気色悪い怪物にも平気な顔で立ち向かえるダイヤの鋼メンタル、もとい鉱石(ダイヤモンド)メンタルが伺える。……単に馬鹿なだけかもしれないが。


「銛なんかで突いたら駄目よ! 傷がついちゃうでしょ」

「捕獲に使うかもっつって、持ってきた縄とか網とかあったろ? あれ銛にくくって、そんで『大地』でどーにかこーにか囲うんだよ」

「はあ……でもあんた、あんな巨体囲えるほど貯蔵限界(ストレージ)高くない……」


 はっとマッキーナが思い出したように、ダイヤから視線をハルへと移動させた。

 ダイヤの貯蔵限界(ストレージ)はメトリア使いとしてはほぼ最低値の『四〇』だが、メトリア使いにとって貯蔵限界(ストレージ)よりも重要なのは、その性質。

 そして最近新たに注目が集まった、ハルが持つ『星のメトリア』の性質は──



「『性質強化(エンハンス)』ねっ!」


 メトリアとメトリアを繋ぐことによって、互いのメトリアの性質をより強固なものとする。

 最近編み出したハルの新しい技──その名も『星繋ぎ(アステリズム)』!



 ……ただし。

 ハルが『星繋ぎ(アステリズム)』を発動させたのも、性質強化(エンハンス)という響きだけではイマイチぱっとしない性質に気が付いたのも単なる偶然、物の弾みというやつである。

 王国の王子・カイーザとの決闘でたまたま発動させて以来、まだ一度も自分の意志でこれらの性質を用いたことがない。


「ちゃ、ちゃんと使えるかなあ……?」


 弱気なハルの背中を、楽観的なダイヤ選手がばしばしと力強く叩いた。


「だあいじょうぶだって、何とかなるぜ! やればできる!」

「ダイヤってなんかもうニールセン店長(やればできるおじさん)の弟子っぽくなっちゃったね……」

「『僕の一番星(アステリスク)』で注意を引きつけることもできるわよ」


 やればできるなどというアバウトな鼓舞じゃない、具体的な戦略をマッキーナが並べていく。


「『僕の一番星(アステリスク)』で引きつけている間に、全身の一部だけでもダイヤがあれを捕まえられれば良いわ。あとは『星繋ぎ(アステリズム)』も込みで全身を『大地』で囲って、そのまま水の外へ引きずり出せば、あたしとムンクで生態調査できるから」

「ええと……それってつまり、僕は囮デスカ……?」


 囮して陽動して性質強化(エンハンス)して捕獲。

 ──ぼ、僕の仕事だけやたらと多くないデスカ!? メトリアの消費量的なコスパも最悪だっ!





 かくして、サントラ少年隊は作戦行動を開始した。

星剣(せいけん)』アストロを鞘から引き抜いたハルは、銀色の剣身をきらめかせ、放射線上に拡散される六本の光線を妖精のヌシへと一閃する。


「【僕の一番星(アステリスク)】っ!」


 決してヌシの身体には当てないように、眩い光で動きを鈍らせるために。

 なんてこった……まさか『僕の一番星(アステリスク)』がヌシを捕まえるための囮だとは。これ一応、『星撃(アスタ)』に並ぶ僕の必殺技なんだけどなあ?

 キイィン、と鋭い閃光音を効いたダイヤが、舌なめずりをしながら湖のほとりまで駆けていく。万が一の反撃に備えたムンクが、弓を引き『標識(マーカー)』をつるぴか頭へと向けていた。


 ずず……。

 ずずっ、ずずずずずず…………。

 ずずずずずずずぅずずずっずずずずずずずずず……………………────!



「な、何……何の音っ!?」


 唯一、現状では手持ち無沙汰だったマッキーナが、湖から放たれる謎の音に目を凝らす。

 身体が蠢いているんだろうか、それとも喉を震わせ鳴いているのか。

 光に目を眩ませた正体不明の怪物が、全体の半分ほどは水に浸かっていたところを、さらに身体を揚げていこうとしているのがマッキーナの位置からは視認できた。


「うわおぉっ!?」


 ずぷずぷと。

 自ら湖を出て行こうとする勢いで、ダイヤの足元を溢れかえった湖の中身が濡らす。

 水浸しになったほとり、木々のざわめき。

 剣から光を収めたハルは初めて、妖精のヌシの全貌を水の中ではなく『地上』から拝むことに成功した。


 地上──いや。

 その『妖精』はすでに、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

次エピソードの更新予定は【4月24日】です。

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