表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
vol.3「少年隊結成」編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/113

interlude 紅の旋律

 シャラン王国ドーラ王朝──『(あお)』を司る国。


 創立より千年の時が流れてもなお、天空の竜と契約するドーラの威厳は衰える気配を見せない。

 そんな王国で暮らす人々が、古くから子孫へ言い伝えてきた習わしがある。

 習わし、教訓──警告とも呼ぶべきか。


〝『(あか)』き瞳に触れることなかれ。さもなくば君に崩落が訪れよう〟


 ──もっとも。

 その崩落も邂逅も、なにひとつ予兆がないままに訪れる災いだけれど。



 ここは『王都』ドラグニア。

 春の息吹が訪れようと、夜の町並みはやはり静寂の波に身を預けている。

 その波を大きく揺るがせたのは、街灯の下を駆ける一人の男だった。


「はあっ、はあ、はあ……っ」


 誰もいない街路を駆け、切れかかった息を懸命に継ぐ。

 男は辺りを見渡しぐぐんと狭い裏道へ曲がったかと思えば、再び必死の形相で革靴を鳴らした。

 ──遥か後方から鳴り響く、もうひとつの足音に震えながら。


 とん、とん。


 その足音はいたって静かだった。

 空気を一切揺らすことなく、慌てる素振りも見せずに淡々と男を追いかける。

 本当に走っているのかさえ怪しかった。いつまで経っても男との距離が縮まる様子はない。

 裏を返せば──離れる様子もなく。


 とん、とん。とん……。


 裏道に入った足音が、ふいに止む。

 いっさい振り返ることなく走り続けていた男が、何度も道を曲がった末に行き着いたのは高い高い壁だった。


「く、っそ……! なぜだ!」

 喧騒を自ら生み出す男が、

「なぜ今日なんだ、なぜ俺なんだ! お前は別に、誰が相手でも良いんだろうが!」

 そう叫べば、律儀にも男の後を追っていた()は答えた。


〝私は誰でも構わない。貴様も同じだろう? 『罪人(Sünder)』〟


 とん。


 男の背後で鳴り止む、崩落の足音。

 そこに立っていたのは果たして人間なんだろうか。それとも、人間の形をした別の何かなんだろうか。

 いずれにせよ、男が知っていたのはただひとつ。


 ──それは、『(あか)色』の瞳を有していた。



〝血の香りがする〟


 街灯の影に身を隠して。


〝これまでに何人殺した? 罪人(Sünder)。目的は金か、情欲か、殺戮の快楽か〟


「お前に答える義理はない!」


 凶暴な本性を包み隠さない男が叫んだ。

 奇妙なものである。男がこれだけ大きな声を上げていながら、彼らの周りに人間が駆けつけるどころか、鳥や野良猫の一匹も寄り付いてこない。


「人を人とも思わぬ『トロイメライ』が! お前こそ、夜な夜な俺たちを狩って周るのがそれほどまでに楽しいか? それともまさか、正義の執行者とでも名乗るつもりか?」


快楽や正義(そんなもの)には興味がない〟


 影は答えた。


〝私は()()()()()()壊すんだ──この衝動を満たさずして、私に明日は訪れない〟


 影は腕を振り上げる。

 ひぃ、と情けない声を漏らす男に(はなむけ)の言葉を紡ぐ。

 それはおそらく、災厄なる存在が罪人に与えし慈悲の言葉でもあった。


〝混沌なる罪人(Sünder)に、せめて良き『夢想(Träumerei)』が在らんことを〟





 腕が振り下ろされると同時に、街路で奏でられる血塗られた旋律。

 その場で音もなく崩れ去る男の身体を、(くれない)の奏者は静かに見下ろした。やがて肉片のひとつも残さずに、赤く染まった地面だけが瞳に映る。


〝……悪いな『人間』〟


 ひとりとなった影が呟いて。


〝私は本当に誰でも良いんだけどな〟


 自ら壊した男に、言い残していた葉っぱを律儀にも残した。


〝わざわざ『社長』から名簿(リスト)を出してもらっている手前、お前以外の人間を選ぶ理由も私にはないからさ。せいぜい生まれ変わったら、次は悪いことをしない人間にでもなっておけよ──ああ〟


 ひと呼吸置いて。


〝間違っても、私みたいな存在(やつ)には成り果てるなよ〟


 とん、とん。

 踵を返し、ゆったりと裏道を抜けては静寂の波に溶けていく。



 前触れなく夢想を奏でてはどこかへ消えていく(あか)色の影。

 そして王都の夜に残ったのは、崩落を終えた人間の音のみ。


 王都、そして王国に災いをもたらす旋律が、今宵もまたどこかで鳴っている。

次話より新章「少年隊結成」編が開幕です。

これからもハルと愉快な仲間たちの活躍を、どうぞ末長く見守ってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓バナークリックお願いします!
ツギクルバナー

こちらの連載小説もよろしくお願いします!

無知全能の神様が、新しい世界を創造するべく知識を求めて召喚した人間は、なんと四六時中「都市開発ゲーム」をしている引きこもり少年だった。
果たして神様は少年とともに、自身の目指す「最高の世界」を作ることができるのか?
異世界コメディックファンタジー「都市開発を舐めるな創造神!」
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ