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ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
幕間

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84/113

番外 僕らはなんのために剣を振る? 前編

番外編のため、本編を読んでいない方でもお楽しみいただけます。

時系列は「op.30 春がきた」の前となっております。

『工業都市』モデラ──

 ハルが暮らす辺境サントラから、最も近くにある『七都市』でその少女と出会う。


 ベージュの髪をたなびかせ、小柄で可憐な剣士の少女。

 白のブラウスに大きな赤いリボンを付け、チェック柄のミニスカートを履いた極東の少女。

 ブラウスの上から金色の刺繍が入った黒ブルゾンを羽織り、スカートの中にジャージを重ねて履いたヤンキーファッションを愛する少女。


 そんな少女──言葉(ことば)いくみと、ハルは『工業都市』にて出会ったのである。

「今度はサントラへ遊びに行くね」という再会の契りを、言霊(ことだま)に乗せて紡いだ少女と。





「今度行くね、行けたら行く、いつか行く──とかの台詞ってさ」


 竜暦(りゅうれき)一〇四五年、三月七日。


「だいたい伏線(フラグ)だよな。いつまで経っても来ないし、もう二度と会えないフラグっつうか?」


 真昼間、サントラで唯一の酒場。

 だん! だだん! と店長が台所で包丁を豪快に振るう音を聞きながら、ハルの友人・ダイヤは笑っていた。

 丸テーブルにどかんと置かれた大皿の、その上に盛られたリゾットを黙々と頬張っている客人──いくみを、扉の近くから眺めて。


「いやあ驚いたぜ。いくみお前、本気(マジ)で遊びに来るタイプだったのか!」


 フラグを良い意味で裏切ってきたいくみに、ダイヤが賞賛の声を上げる。


 ハルは今日も、酒場と駅をスクーターで行き来しながら町中に荷物を届ける仕事に励んでいた。

 その最中に駅で見つけたのが、停車した『電車』からひょこりと町へ降り立ったいくみだったのである。


「サントラって、思ってたよりもずっと近いね!」

 いくみは山盛りのリゾットをスプーンで掬いながら、

「電車で数駅って聞いてたけど、二時間もかかってないんじゃないかな」

 大きな口を開けて放る。


 そのリゾットは、大盛りどころの騒ぎではなかった。大人が何人か集まっても食べ切れるかどうか怪しく、ましてや小柄ないくみの腹にはとても収まらなさそうな量だった。

 それを見る見るうちに平らげていく異様な光景を、ハルもダイヤもただ呆然と眺めるしかない。


「朝から道場の稽古してて、ここに来るまで何も食べてないんだよ〜。超美味しいね、ここのご飯!」

「そ、そっか……」


 ハルはおそるおそる問いかけた。


「いくみちゃんって……普段からそのくらいご飯食べてるの?」

「僕んちはこれが普通だよ。まど姉もパパも、お椀で()()は絶対食べるから」


 ──いや、リゾット(それ)は間違いなく()()は入ってるから!


 ハルが内心でツッコんでいるうちに、いつのまにかリゾットは残り一口と言うところまで減量している。……ていうか、一食三杯のご飯が当たり前の家庭ってどんだけ!? 知り合いには一日一食すらきちんと食べているか怪しい先生(ウィル)だっているのに!?

 あっという間に数人前のリゾットを腹に収めたいくみは、スプーンをテーブルに置き両手を合わせて、


「ごちそうさま! 店長、超美味しかったです!」


 おう、と店長のぶっきらぼうな返事が台所から帰ってくる。

 銀貨を一枚テーブルに置いたいくみが、椅子から立ち上がって満面の笑顔で。


「ハルくん、ダイヤくん、久しぶり!」


 食事をまるまる自身のエネルギーへと変換した、勢いそのままでいくみは言った。


「ねえ、手合わせしよ?」

「……へ?」

「こないだの闘技大会ではダイヤくんに負けちゃったけど、次は負けないよ? ハルくんも、まど姉に見せてためっちゃ凄そうな技、あれ、僕にも見せて!」

「…………へ、い、今?」

「うん、今!」


 満面の笑顔で、さも当たり前のように。

 求めていた栄養を満足に取り終えた剣士の少女が、次は闘争の相手を求め、その言霊を持ち前の明るい声に乗せたのだった。





 ──そして、広場。


「【言ノ葉拾弐花月流コトノハジュウニカゲツリュウ・肆ノ花】」

 いくみの振るった『剣撃』が。

「【杜若(かきつばた)】」

 やっぱりハルの『星撃(アスタ)』をも超える刹那(スピード)で。



「こ──降参降参降参っ!」


 必殺技を放つ間もなく、真っ先に音を上げたのはハルだった。

 ぶんぶんと木刀と剣技を振り回されて、とてもじゃないが目前の少女に敵いっこない。


「降参? 何言ってるんだよ、ハルくん」


 ひらりと宙を舞ういくみが、


「今は大会じゃなくてただの練習、お稽古なんだよ? この身が続く限り戦わなくっちゃ、僕たち剣士はいつまで経っても強くなれない──っと!」


 雷鳴がごとく床に打ちつける勢いで、木刀をハル目掛けて振り下ろす。

 ガギンッ! とやっぱり木刀から発されてはいけない音が広場でこだました。


「ひ、えぇえっ!?!!?」


 寸でのところで、ハルは自身の『星撃(アスタ)』によっていくみが放った剣撃(それ)を、剣の全身でいなす。

 らんらんと瞳を輝かせるいくみの、楽しそうに木刀を振るう姿はまさに──


「戦闘狂デスカ!?!!?」


 ハルの叫びを聞くなり、いくみは少し不満げに頬を膨らませる。そして、すとんと着地するなり、

「剣士なんだから、戦うのが好きなのは当たり前じゃん?」

 言い返してきた。

「モデラ自衛団はもちろん、特に僕んちは全員『剣士』だもん。『剣』を持ち『義』を為し、ここに『全霊』を示すのが僕たち言葉一族の理念(スローガン)なんだ」


 ──言葉一族、恐るべし!

 闘争を魂に刻んでこそ彼らの生き様!


「三つ子のお姉さんお兄さんもそんな感じなんだ……?」


 まど姉、イル兄、いづ姉の三つ子と合わせて四人姉弟らしい。

 ハルの問いかけにいくみが顔を綻ばせながら、


「うーんでも、まど姉は僕たちの中では一番優しいほうだけどね」

 ──ど、どの辺りがデスカ? ウィル先生におもいっきしガン飛ばしてたよね、あの美人お姉さん?

「剣が一番強いのはイル兄かな、やっぱり男の子だから。で、喧嘩が一番強くて怒ると超怖いのはいづ姉だよ」

 ──ごめん、剣の強さと喧嘩の強さってイコールじゃないんデスカ? 僕、素人だからよくわからないデス。





 すると、今度はいくみがたずねてくる。


「ハルくんって、あれなんでしょ? この国の『英雄さん』の子どもなんでしょ?」


 ──へえ、僕の父親のことを『英雄さん』って呼ぶ人は初めて見た。

 あと僕は英雄っていうか、ウィル先生が言うところの『英雄の子(ミニスター)』なんだけどね、えへへ。


「ハルくん、あんまり戦うの好きじゃないの?」


 ハルは返答に迷う。

 天文台で手に入れた英雄の証──『星剣(せいけん)』アストロを片手に、


「好きじゃないっていうか、得意じゃないっていうか……」


 金色の髪を掻きながら、ハルは苦笑いを浮かべた。


 ハルは英雄としても剣士としても未熟だ。

 宿したばかりの『星のメトリア』の使い方もまだまだ深く理解しておらず、剣に至ってはいくみどころか、幼なじみのダイヤにも遅れをとるほどに。

 もともと無いと思っていたメトリア(ちから)を宿し、無いと思っていた剣才(さいのう)を磨き始めたばかりの未熟な少年。


 それでも──


「戦う『理由』は、できちゃったからね」


 剣士としての闘争心では無い。

 誰かと争うためではなく、誰かを守るための戦いならば。



 ハルの返事を聞いたいくみは、木刀をくるくると片手で回しながら。


「だったら僕たちと同じだね」


 どの辺が同じなんだ、とハルが聞き返せば。


「僕だって、守るために戦ってるんだよ」

「いくみちゃんたち、自衛団だもんね。町の平和ってやつ?」

「それだけじゃないよ」


 いくみは答えた──揺るぎない瞳で。

 その言霊、意志(ウィル)に心のすべてを乗せて。


「僕たちは剣士だから。剣士としての誇り(プライド)を守るために戦っているんだよ」



 ハルが英雄でもあり、剣士でもあるように。

 いくみは──言葉一族は、文字通り『全霊』を以って剣を振っている。

後編も近日に公開します。

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