op.26-2 星繋ぎ(アステリズム)②
ウィルは感嘆する。
(なんということだ……!)
まったくの想定外。こんな展開はさすがのウィルとて読めるはずもない。
星とは、ただ一つで輝くだけとは限らない。
隣り合った他の星と繋がることで、いっそう輝きが増すこともあるのだと、今、思い知らされている。
決して『水』には立ち向かえないと言われていた『炎』が、ハルの『星』と繋がったことで──メトリアが持つ運命そのものをひっくり返してしまうほどに。
それは見えない線と線が結びついて、強い絆を得る──『星座』のように。
⁂
──星暦二〇八一年。
この日、かのマイスターでは決して導き出せなかったであろう、『星のメトリア』の新たな境地を私は目撃した。
私はその光景を、ハルが新たに生み出し拓いた『星』の可能性を、内心でのみこう称することにした。
これは、人と人、メトリアとメトリアを結びつける力。
星と星が惹かれあっては繋がる──【星繋ぎ】と。
⁂
決闘はまだ終わらない。
「だらあっ!」
地面を力強く蹴り上げた二人の少年、そして『竜刃』スカイブルーと『星剣』アストロがその刃を交えた。
冬空の下で激突するは、『星』の英雄と『竜』の王子。
「ぐう……!」
ぴきぱきと全身の結晶を軋ませながらも、純粋な腕力での押しであればカイーザの方が優勢だった。
しかし、ハルは──
「ま……負けるものかあぁぁぁっ!」
託されたメトリア、そして作戦会議で交わした仲間との会話を思い出して、叫ぶ。
そうだ、今日ばっかりは負けられない。
別にマッキーナのためだけじゃない、ビブリオ家とかサラバンドとか、部隊のためだけでもない。
これは紛れもなく、ハルが自ら戦うと決めた舞台だ。
何もかもが未熟なハルの舞台──誰かを守るための、『小さな英雄』の大勝負。
その戦いに勝利をもたらすため、ミニスターを支えるがために、ウィルやダイヤ、ムンクがたくさん知恵や力を貸してくれた。
たとえ『星のメトリア』が特別な力であろうとも、ハルは決して、特別な人間ではないのだろう。
それでも、今、この瞬間はハルにとって特別な時間だった。
一人で強大な力に立ち向かうのではなく、仲間たちみんなで挑む戦い。
それは、今まで一度も経験したことがなかった、知ることがなかった瞬間だ。
王国辺境の地・サントラで暮らしているだけでは、決して知ることのなかった瞬間だ。
この『大舞台』──僕が、形にしてみせる!
⁂
「【三番星】っ!」
鍔迫り合いの隙間から、溢れ出る『炎』が光沢を帯びて。
再び分断された二人の少年。カイーザが後方へ飛び退けば、目前に広がっていたのはマッキーナの先ほどの詠唱よりも遥かに強大な『炎』の壁。
その壁を断ち切らんと、カイーザが腕を振り上げる。
ハルもまた、夜空に剣先を掲げて。
すでに深淵と化していた空が──白や茜、蒼と、色とりどりの光に照らされて。
「【僕の一番星】!」
「【青天の霹靂】!」
──互いの必殺技が、広場で轟いた。
吹き抜ける爆風。協会本部まで届きそうな轟音と、あたり一帯を飲み込む『水』と『炎』の渦。
外野にいたウィルたちでさえも、勢いに飲まれそうになり、その場で強く踏ん張らなければならないほどに。
────ッズ、ガアアァアァァァァァンッッッ!
二つの剣撃が、メトリアが宙で重なっては──爆散。
亀裂、殲滅、地響き。
夜空が光に包まれては瞬く間に晴れていく。
天変地異をも変動させかねない強大な力を得た二人の少年が、深淵の空を蒼く染め上げて。
戦いの果てに、残ったものは。
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