op.26-1 星繋ぎ(アステリズム)①
ダイヤとムンク、そしてウィル。
広場の中で繰り広げられている惨状、そのすべてを外野の三人では把握することができない。
「な、なんだあ!? どうなってんだこれ!」
目前に広がる魚なき海を、ダイヤが指差しては不安げに。
「こんなもん必殺技っつうか、災害じゃねえか! ハルは大丈夫かよ!」
問題ない、とはさすがのウィルでも言い返せなかった。
カイーザによる一方的な蹂躙を険しい表情で眺めながら、
(……潮時か)
ウィルはコートから、自身の武器──『竜剣』インディゴを取り出して。
──キィィン。
そのとき、流星の音が、波々の水の内側から聞こえてくる。
ウィルが耳をすまし目を凝らせば、蒼一色だった景色から次第に光が──
(いや……『星』ではない)
その光の色に、ウィルは自身の目をも疑った。
先ほどまでは読めなかった水の流れも、次第に読めるようになっていく。
その流れは確かに、ハルをめぐる水だった。しかし、おびただしい光を纏ったハルの、その色は『茜色』。
「【四番星】!」
放たれたのは、長い線と短い線。
自ら水の檻を脱したハルが、その剣に纏っていたのは──『炎のメトリア』だった。
⁂
──エレメント協会によれば。
『星のメトリア』の主だった性質は、すでに『集約』であると結論づけられている。
かつてメトリアを宿した青年・クラウスもまた、空から『星剣』アストロを介することで、星の光を集めては自身の剣撃として放っていた。
(なん……という、ことだ)
ウィルは細めがちな瞳を見開く。
マイスターというただ一人の『前例』で、メトリアの性質を結論付けたのは性急だったのかもしれない。……今まさに広がっている光景を目の当たりにすれば、きっと誰もがそう思うことだろう。
ハルが纏っているのは自身の『星』ではなく──マッキーナから託された『炎』だったのだから!
「……なん、じゃあそりゃ!?」
カイーザもまた、想定しようもないハルの姿に仰天する。
もっとも、まるで訳が分かっていないのはハル本人も同じだった。戸惑いを空色の瞳に滲ませながらも、それでも、
「か……【五番星】あっ!」
再び折れ曲がる光線を放つ。
キイン! と金属を鳴らしたような轟きと共に、カイーザに襲いくるは『炎』を纏った光。
地面にへたり込み、息を切らしながらその光を見据えたマッキーナが、
「何……これ……」
呆然として、両手から『術書』サラバンドをこぼす。
ぱさりと湿った紙の音。砂で汚れてしまったそれは、複製品といえどもおそらく使い物にならないだろう。そしてハルが今、ああなった現状を作ったのもマッキーナではなかった。
それは紛れもない、『星のメトリア』によってもたらされた現象。
マッキーナの持つ『炎のメトリア』を、その性質によって自身へと集めた結果。
「集約って……まさか、他人のメトリアも集めることができるの……っ!?」
誰もが知り得なかった、『星』に秘められた真髄を目の当たりにする。
そしてハルの放った【五番星】は、先ほど放ったものと同じ技とは思えないほど──
⁂
あつい、あつい、あつい。
全身が託された『炎』で熱く燃えている。
明らかに威力が増した【五番星】は、カイーザの【死海の上空】をも飲み込んでいく。
とうとう炎で掻き消えた波が、広場でさあと潮を引いた。
「…………は、は」
未だ勢いが衰えることのないハルの熱を見据えたカイーザが、
「はは……ははははははははっ!」
狂喜した。
カイーザが見せた感情は、未知への恐れでも強大な力への嫉妬でもない。蒼色の瞳に燃やしているのは、自身がずっと追い求めていた──
「それだ! それだよマイスターの息子ぃ!」
煮えたぎったまま冷めることなき闘争心を剥き出しにして。
「まじでノってきたじゃねえかよ、おい! 今日はなんて最高の日だ!」
対して、ハルの顔は険しかった。
怒っているというよりも、不満が未だ残ったままな、ぶっきらぼうな面持ちで。
「なんだよこれ……なんかすごいらしい『星』って、こういう意味?」
ぶつくさと、
「これじゃあ僕の技じゃなくて、マッキーナの技じゃんか……星っていうか炎じゃん……」
ダイヤが言う『光折剣』ですらなくなったと、自分の個性を他人によって上書きされた感覚に一人で不平を垂れている。どうやらスタイリッシュでオリジナリティに富んだ趣味を持っているハルにとっては、この結果はいささか腑に落ちなかったらしい。
とはいえ、誰の目から見ても、明らかに広場でのハルとカイーザの形勢は塗り変わっていた。
決して『水』には立ち向かえないと言われていた『炎』が。
ハルの『星』と繋がったことで──メトリアが持つ運命そのものをひっくり返してしまったのだから。
本作の場面区切りで使っている「⁂」が、まさにアステリズムです。
誰も気が付かない伏線回収やったね! ちなみに「*」はアステリスクです。




