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ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
vol.2「サントラの春」編

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op.20-1 茜の再会、蒼の邂逅①

今回から、物語の舞台は久しぶりの『魔法都市』アレグロへと移ります。

都市のことや、都市で出会った少女・マッキーナについて詳しく知りたい方は、目次より「ep.6〜14」をぜひお読みください。

 竜暦(りゅうれき)一〇四五年、二月二八日。


 ハルたちが魔獣討伐任務から帰ってきて三日経った。

 今日は任務の成果によって、新たに必要となった魔境の『封印(シール)』をするため、封印術式(コード)の作成をマッキーナへ依頼しに『魔法都市』アレグロへと向かう日であった。


 サントラでは今朝も、遠方から鶏の鳴き声がこだまする。

 皐月がいつものようにハルの寝室の扉をノックして、開くなり手に持っていたフライパンで──ガウンガウンと。


「え、起きてる……?」


 ──轟音を鳴らすまでもなく、ハルの起床は完了していた。

 机に荷物を広げては、アレグロへ向かう支度をいそいそと整えている。


「あ、皐月! ちょうどよかった」


 フライパンをぶら下げてはきょとんとしている皐月に、ハルは笑顔で話しかけた。まだパジャマ姿ではあったものの、空色の瞳の開きようからして、すでに目覚めはちゃんとしているらしい。


「アレグロに着ていく服を決めかねてるんだけど……どれが良いと思う?」


 ハルの両手には、いつものRe:birth(リバース)パーカー。ただし、右手にも左手にも、同じブランドの服とはいえど、普段ほど派手な色合いをしたデザインのものは持っていなかった。


「ソルフェはどうせ同じ田舎だから良いやって思って、いつものお気に入りを着てっちゃったけどさ。今日はあの、真っ黒くろすけアレグロだからね。ちょっとは服を選ばないと」


 そうぼやくハルに、皐月は内心でのみ答えた。

 ──それなら、初めから「真っ黒くろすけ」を着ていけば良いんじゃない?


「黒だけはいやだ。絶対に色付きが良い」


 ──皐月の心の声を、読んだかのような台詞。

 とうとうウィルによく似た芸当を見せてきたハルに、再度目を丸くした皐月が、小さくため息を吐く。

 ぷくう、むくう、むぐむむぅむぅ。


 頬で謎の擬音を発しながら、最近は頻繁にサントラを出ていってはなかなか帰ってくることがないハルを、皐月が忌々しげに桜色の瞳で見つめていれば。

「皐月」

 声を掛けられ、上目がちにうるうると。


「アレグロに喫茶店があるんだ。サンドイッチ買って帰ってくるからね」

「……ふぇ?」

「他になんか買ってきてほしいものある? あるかどうかは分かんないけど」


 皐月はふるふると首を振っては、桜色の瞳をきらきらと。

 お土産などよりも、無事に早く帰ってくることを、皐月はハルに注文したのだった。





 そして、朝九時を回る頃。

 ハルが待ち合わせ場所だった酒場に着けば、だん! だん! とニールセンの包丁音。紙コップでコーヒーを嗜むウィルの姿。いつも通り酔い潰れては椅子で寝こけているハモンド。


 そして、丸テーブルを挟んで座っている──『二人』の少年。


「つ……(つん)えぇ!?」


 ダイヤが目をひん剥いて叫ぶ。ハルの視線の先に散らばっているのはカードだった。トランプくらいの大きさだが、全体的に黒いカードばかり。

 そのカードは、ハルには見覚えがあるものだった。前にダイヤに誘われて遊んだ気がする。

 これ、なんていうんだっけ? TCG(ティーシージー)っていうんだっけ?


「じゃ、なくて! ムンクさんがいるう!?」

「よおハル! ムンクがさ、ゲームすげえ(つえ)えんだよ!」


 そこでダイヤとカードゲームに興じていたのは、サントラの隣町・ソルフェの住人──ムンク。

 相変わらず無表情のムンクが、ダイヤの陣地を荒らしに荒らしている。


「カード強えわトランプ強えわで、もう最強! 無双!」


 大負けをくらった直後にも関わらず興奮するダイヤに、ハルは内心でのみツッコむ。……それ、ムンクさんが強いのかダイヤが弱いのかどっち?

 しかし、ゲームの強い弱い以前に、ムンクが遊んでくれること自体がハルには意外だった。あんなにクールな人なのに。漫画とか絶対読まなさそうな雰囲気漂ってるのに。


「ムンク、めっちゃ漫画読むってよ!」

 ──よ、読むのかよ!?

「俺、とにかくがんがんバトルしまくるヒーロー系が好き。お前(ムンク)が読むのはどういう系?」

 ──じゃじゃ、ジャンルまで深掘りして聞いちゃうのかよ、ダイヤ!?

「日常系。女の子がたくさんでてくるやつ」

 ──そそそ、そんなにあっさり答えちゃうのかよ、ムンクさん!?


 あんぐりと口を開けているハルに構わず、ダイヤがしきりに仏頂面のムンクへ話しかけている。

 もう一度言うが、今は朝九時だ。二人ともいつから酒場にいたのかは知らないが、ダイヤはなぜそんなにもたくさんムンクと遊べていて、おまけにそんなにも打ち解けているんだ。


(あんまり人付き合い良くないって話だったのでは……!?)


 ハンター協会の会長の話がデマだったのか、あるいは単にダイヤが『コミュ強』なだけなのか。





 三人の少年が集まってきたところで、


「全員揃ったな。ではそろそろ行こうか」


 紙コップの中身を空にしては、カウンター席を立つウィル。

 今日のウィルが羽織っているコートは黒でも黄土色でも浅葱色でもなく──『茜色』だった。


 そんな茜色を視界に収めたハルが指摘してみる。


「コートだけはこだわるんだね……インナーは借り物だったりするのに」

「これは趣味ではなく私の正装みたいなものでね。これでも、町の景観は重んじる主義なんだ」


 ──都市の規則(ルール)は守らないのに、景観(シーン)を重んじるとはこれいかに。

 ウィルはカウンター席を立ち上がるなり、かつ、かつと歩みを進めて、


術士(ライター)の斡旋はあくまでもハンター協会の仕事だからな。ムンクにも同行してもらうことになったのだよ」


 振り向くことなく酒場の扉を開いた。

 ウィルが出ていこうとする姿を見るなり慌ててカードを片付けるダイヤと、腕を組んでは目を閉じて黙っているムンクを、ハルは交互に見やっては。


(なんか……ちょっとだけ賑やかになったな……)


 人口二千人余りとは思えない、朝の光景とは思えない酒場。

 サントラの退屈な日常を嫌っていたハルが、自分と同年代の少年たちを眺めては笑みを浮かべる。


 そして、自らムンクに声を掛けて、


「む、ムンクさん──」

「ムンクで良い」

「ええと……ムンクは、その、僕たちの部隊(チーム)に入るつもりはない、のかな……?」


 一応年上だと聞き及んでいたハルが、遠慮がちにムンクを誘う。

 期待を滲ませる眼差しを、ムンクが片目を開けただけで視認しては、一言。


「……無い」

「で、ですヨネ……僕なんかの部隊(チーム)には入りたくないよね……うん……」

「どういう意味だ」


 俯き加減で漏らした言葉に、なぜかムンクは反応した。


「へっ?」

「君の部隊(チーム)に入らないのは、()()君と仕事する相手として相応しく無いからだ」


 ムンクの言葉の真意を、ハルにはまるで理解できなかった。

 自分のメトリアをまだちっとも使いこなせておらず、剣術もだめだめ、実戦経験もまったく積んでいないような未熟なハルが、ムンクの足を引っ張るから迷惑……という話であったなら、非常に残念だが納得せざるを得ない理由だった。

 しかし、今の口ぶりでは、ハルではなくむしろ、ムンクの方こそハルにとって迷惑な存在だと言わんばかりの──


「──そんなことないよ!」


 思わず張り上げてた声が、やや大きすぎてムンクも周囲にいた全員が驚いてハルへと視線を移す。

 力強く拳を握りしめたハルは、ムンクの丸くした瞳をじいと見つめては、


「ぼ、僕は……またムンクと一緒に仕事したい……!」


 シンプルながらも少しだけ照れ臭く感じる台詞に、ハルはただそれだけを言い切っては、いつもより若干控えめな彩度をもったパーカーのフードへそそくさと顔を隠してしまう。

 ハルから受けた突然のアプローチに、ぱちくりと、ムンクは黒い瞳を瞬かせた。

 机上がダイヤによって綺麗になった頃、ムンクは静かに椅子を立ち上がっては、呟く。


「……俺はそんなに、大した奴では無いよ」


 ハル(きみ)のような──『英雄(ヒーロー)』ではないと。



 そんな三人の少年と、指導者を名乗る中年の男が、サントラを()って向かう先。

 かつてハルが降り立った、初めての『七都市』にして術士(ライター)たちが集う町。

 二ヶ月ぶりの『魔法都市』アレグロが、四人の冒険者たちを待っている。


 ただし。

 そこで待っていたのは、ハルがかつて出会った『茜色』の少女──だけでは、なかったのだけれど。

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