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ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
vol.2「サントラの春」編

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op.15-1 並行する魔境①

 十歳にも満たない男の子だった。

 なんのメトリアも持たない──力を持たない男の子だった。

 戦えるはずもなかった。

 守れるはずもなかった。

 そして──守ってくれる『人』すらも。


 あの日のことは、何歳になっても思い出す。

 メトリアも『星剣』もなかった頃を、何の力も持たなかった、かつての自分を。


 ――思い出されるは、『僕』が初めて出会った『魔獣』の影。

 あの日、あの時、あの瞬間。

 僕の目の前で、あの影に呑まれていったのは――





『魔境』という名の世界については、いまだに不明なことが多い。


 どんな段取りで、何をきっかけに『(センター)』が出現するのかがまったく判明していない。

 王宮は魔獣の出現が確認されたならば、その出現地を中心とした辺り一帯を『魔境』として指定する。

 アルファ、ベータ、シータ……と番号付け(ナンバリング)された領域を、ハンターや術士(ライター)たちが探索していく。

 そうして遭遇した魔境の番人──『魔獣』を倒しつつ、魔境の『(センター)』を見つけ出す。


 目が潰えない限り、その異世界が蓋を閉じることはない。

 いつまでも魔獣は大陸世界に現れる。奴らを放っておけば、いずれは人間の集落にも迷い込んでくるだろう。





 ウィルが走らせた車が、刻一刻と、そんな危険地帯の入り口へと近づいていく。

 協会本部を出発してから大して代わり映えのしない森林を、車窓越しに眺めながらウィルが告げる。


「車で移動するのは入り口までだ。そこから先は『羅針盤(コンパス)』と『探知器(チューナー)』、そして『標識(マーカー)』が目的地までの頼みとなる」


 もっとも、今回のウィルたちは目的地──魔境の『(センター)』まで到達することを最終目標としていない。

 今回はあくまでも、ムンクが日常的にこなしている『魔獣狩り(ハンティング)』への同行が、ハルとダイヤの任務だった。


「『(センター)』は狙って探すよりも、魔獣を探していたら偶然発見するような、感覚(ノリ)幸運(ツキ)で見付かるような代物だと考えておいた方が良い」

感覚(ノリ)はともかく、幸運(ツキ)ならハルは結構持ってる方だぜ。なあ、ハル?」


 ──そそそ、そんな感覚(ノリ)で付属してくるような幸運(ツキ)なんて持ち合わせてないけど!?

 ダイヤの楽観的な発言をハルはたしなめる。

 サントラの少年二人がそんな明るいやり取りを続けている間も、ムンクは『羅針盤(コンパス)』片手に車窓の景色を眺めていた。


 ──いや、ただ眺めているのではない。

 空気の緊張感、景色の些細な変化、大陸世界と魔境との見えざる『境界線』を。


 《《協会本部で申告していた通り》》──『風のメトリア』で、辺りの空気を読んでいるかのような面持ちだった。



 やがて、ウィルがゆったりと車を停める。

 エンジン音が完全に消えた頃、入り口だ、とムンクが小さく呟いた。


「魔獣って、ひとつの魔境に一体しかいないのか?」


 木々のさざめきしか聞こえない世界で、ダイヤが声を潜めて問いかける。返事をしたのはムンクだった。


「魔境による。大物一体が(ばん)を務めていることもある。群れで『(センター)』を守っていることもある」

「……それって、入る前にある程度調べられねえのか?」


 ムンクが小さく首を横に振れば、うへえ、と間の抜けた声が返ってくる。


「だが、この辺りで出没した魔獣の目撃証言はすでに上がっているだろう?」


 ウィルがコートの内ポケットから紙切れを取り出して、


「全長三メートル強、二足歩行をする『牛』のような姿をした魔獣だったと、本部の報告書には書かれている。これまでの前例データから推測すれば、ここ魔境『シグマ』ではおそらく、魔獣が『群れ』を為して襲ってくることはないだろうな」

「へ〜、何でそういうの分かるわけ?」

「普通の動物の習性から考えてみれば良い。野生に生きる動物で群れを成すのは、大概、身体が小さき者たちだよ」


 一体しかいないとまでは言わずとも、三メートル強が十体や二十体で暮らしていることはない、とウィルが言い加えた。

 しきりに頷いているダイヤが、その腰に提げているのは闘技大会で使った木製剣──ではなかった。


 新たに『大地のメトリア』を宿した上に、自ら『ダイヤモンド・スピア』という必殺技を編み出したダイヤ。

 そんな彼に対して、酒場の店長・ニールセンが新しい武器をこしらえてくれた。

 それは槍というよりも、まさしく狩りで使えそうな『(もり)』によく似た形をしていた。

 片手剣とあまり変わらない長さで、しかし、その柄は金属ベルトを外せば、さらに長さを伸ばすことができる。王国軍の警備兵がよく使っている、『警棒』の構造を参考に開発されたニールセンお手製の新武器(ニューウェポン)だ。


「まさに『ダイヤモンド・スピア』そのものって感じだろ? あの店長(おっちゃん)、意外とセンス良いよな!」

「ああ。『大地』でより硬度を上げることができる『槍』に、『風』で軌道を変えられる『弓』。そして、高い威力と長い飛距離を両立した剣撃が持ち味の『星剣』アストロ。魔獣討伐にはこれ以上なくバランスの整った編成(パーティ)じゃないか」


 そう呑気に笑っているウィルは、見るからに武器の類を持たない丸腰だったけれど。

 怪訝そうに頭暴君(あたおか)おじさんを見上げているハルの、視線に気がついたウィルが肩をすくめては。


「いや、今日はさすがに私も武器は持っているよ?」

 ──ざく、ざく。

「そうなの……? メトリア以外に?」

 ──ざく、ざっざっ。

「メトリア以外にだ。余計な荷物だとは思ったんだがね、念を押して王宮(あっち)からわざわざ持ってきたのだよ?」

 ──ざく、ざくざく。

「武器はある意味一番大事な荷物だと思いマスケド……? ていうか、その武器、どこにあるの?」

 ──ま、またそのコートの四次元(ポケット)にか!?





 ざくん。

 ハルとウィルがそんなくだらない会話をしている間に、ムンクは地面へと『標識(マーカー)』を挿していく。

 木々に囲まれた中で、その地面は水気を多く含んだまま、ムンクの黒い靴に軽く泥を付けてくる。

 ムンクはその泥にも構うことなく、車を置いたこの入り口を決して見失ってしまわないよう、帰ってくるべき道を忘れてしまわないように、ざく、ざくりと棒切れを突き刺して。


「……じゃ、行くっスよ」


 ──顔を上げる。

 ムンクが顔を上げた先で、


「よ、よろしくお願いシマス……って…………あ、れ……?」


 ハル──()()()返事をした。


 ムンクの声に応えることができたのは、ハルただ一人だった。

 ウィルとダイヤの姿は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

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