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op.9-1 少年少女闘技大会:決勝戦①

【前話までの登場人物】

ハル:金髪碧眼の少年。メトリアは『星』。『闘技大会』は初戦敗退。

ウィル:くすんだ藍色(縹色)の中年の男。自称『指導者』。メトリアは『水』。

皐月:亜麻色の髪と桜色の瞳の少女。ハルと同じ家で暮らす。メトリアは『花』。


ダイヤ:サントラで暮らすハルの友人。『闘技大会』にて準決勝に進出中。

言葉まどか:モデラ自衛団長にして『言ノ葉拾弐花月流』二代目当主の女性。

言葉いくみ:まどかの親族で剣士の少女。『闘技大会』の優勝候補。

 午後四時──『少年少女闘技大会』決勝戦。

 モデラの大広場、その中心。

 最後の闘技に挑むべく、対峙するは少年と少女。


 最後の試合ということもあり、他に試合もなく、フィールドの周囲にはかなりの観客が集まっている。

 そんな決勝戦間際の喧騒に、ハルと皐月、そしてウィルもまた、喧騒の一人として紛れていた。


「ま、さか……本当にダイヤが決勝まで残るとは……」


 黒髪逆立ったタンクトップ少年の背中を見据え、ハルが戸惑い混じりの感嘆を上げる。

 初めて『星撃』を見せた時の、ダイヤの「主人公かよお前!」とかいう台詞の数々を思い出しては、ハルは呟かざるを得ないのだ。


「ダイヤ…………お前、今『主人公』だよ…………」


 間違いないな、なんてウィルの返しが喧騒に紛れて耳元で鳴り響く。


「ただ、準決勝(ジュンケツ)ではまだ、彼の『必殺技』を完成させてあげられなかったからな。この試合の内に間に合うと良いんだが」

「本当に間に合うの……? 『ダイヤモンド・スピア』」


 怪訝そうにウィルを見上げれば、冬風に縹色の髪をたなびかせて、


「さてね。あとは(ダイヤ)次第だよ。指導者たる私にできるのはここまでさ」


 ──ああ、そうですか……。

 自ら「ダイヤが優勝する」宣言をしておいて、そして自ら「必殺技を完成させる」などと豪語しておきながら、最後の最後でダイヤの勝敗に関する責任の所在をはぐらかすあたりが、やはり大人というか、ずるいというか。


 ただ、ウィルが言う通り、容易に勝てる試合ではないことくらいはハルにもわかっていた。

 何たって、ダイヤの決勝戦の相手はさも当然のように。

 ハルが初戦であえなく惨敗した──言葉いくみ、だったのだから。





「『言霊(ことだま)のメトリア』……?」


 ウィルにたずねられ、ハルはこてんと首を傾げる。

 まあた、全然知らないメトリアが出てきた。星とか花とか、あるいは『魔法都市』で散々教わったエレメント・メトリアとも違うらしい。

 そしてどうやら、メトリアに心当たりがないのは、皐月も同様だったらしく。


「言……霊……?」

「なんだ、皐月も知らないのか? もしかしたら、極東(あちら)では割かし有名なメトリアではないかと読んでいたのだがね」

 読みが外れてしまったなあ、などとウィルが頭を掻きながら。

「『言葉一族』は極東の血筋だからな。大陸(こちら)ではもとより、極東の人間でも知らないとなれば……なるほど、よほど『言霊』というやつは希少なメトリアであったらしい」

「そ、それで……何なの? 『言霊』って……」


 ハルがたずねれば、ウィルは一呼吸置いてから答えた。


「この大陸世界では、メトリアというものは基本的に、『ひとつ』の神秘との繋がりによって宿るものだと考えられている」


 繋がり──言い換えれば『信仰』だ。


「だが、どうやら極東の連中は違うらしい」

「どういうこと?」

「『信仰』が一人ひとつじゃ無いんだよ。彼らはどうやら、いくつもの神秘を信仰することで、新たなメトリアを宿す連中らしい」


 皐月も同じだな、と言って桜色の瞳を見据えるウィル。


「皐月の持つ『花』も、そして彼ら言葉一族が持つ『言霊』もだ。君たち極東の人間は、特定の神秘ではなく、いくつもの神秘を抱えた『島』という、大地そのものとの繋がりを重んじている」


 いくつもの神秘、あるいは()()()()()()()()()()──つまり。

 極東の島国の人々は、『八百万(やおよろず)の神』と繋がっている。


 さらに、極東特有のメトリアに対するウィルの見解はこうだ。

「『花』と『言霊』の、メトリアを宿す条件(ルーツ)としては、大きな違いがひとつある」

 ウィルによれば、それは、神秘そのものの違いではなく、神秘に対する『想い』の方向。


 八百万(すべて)に『愛される』ことで咲く『花』と。

 八百万(すべて)を『愛する』ことで宿る『言霊』。



 ハルは、よくわからないと首を捻りつつも、ウィルの説明にひとつ違和感を抱いた。


(神様に『愛される』って……あれ? 魔法都市(アレグロ)で聞いた話と逆じゃない?)


 八百万(すべて)を『愛する』、という話であればともかく。

 何せメトリアは、神様によって人間が与えられる力、という話だったはずだ。

 聖地に行ったり、直接神様と会って契約したり……むしろ、人間のほうこそ神様に、愛という名の『信仰』を与えているのではなかっただろうか。


(ああ〜……でも、そっか。僕の『星』も、一応は流星(あっち)に選ばれたから宿ったんだっけ)


 もっとも、ハルの場合は実際のところ、自身を指名してきたのは『星神(セーラ)』でも『星獣(アストロ)』でもなく『父親(クラウス)』だったわけだが。

 それもクラウスに至っては、自身が抱えていた『魔神』を倒すという使命をも、息子のハルにメトリアごと押し付けてきた始末である。

 まったくはた迷惑な父親(くそおやじ)だと、ハルがひとりでに不満を垂れる中。


「ともかく、言葉一族は皆『言霊のメトリア』を宿している。あの対戦相手の少女(いくみ)もまた、言霊によって自身の肉体を著しく強化しているのだよ」


 メトリアを駆使した肉体強化。

 どうりで速かったり重かったりしたわけだ、とウィルの解説に納得するハル。

 しかし、それが本当ならば尚更──


「ダイヤって、本当にあの子に勝てるの……!?」


 そんな肉体強化(ドーピング)少女と向かい合っているダイヤを、ハルは不安げな空色の瞳で見据える。

 皐月もまた、不安げな桜色の瞳で決勝戦の開始を見届けていた。





 そして、ついに時は訪れる。

 フィールドの中心で仁王立ちをした男が、開戦の狼煙を上げるべくその右手を振り上げて。


 ──木製の剣を携えた少年少女が。


「両者、構え!」


 その剣を強く、握りしめて。


「いざ、尋常に。──始めっ!」


 審判が上げた狼煙と同時に。


「──【言ノ葉拾弐花月流・壱ノ花】」

「必さぁつ!」


 両者の剣が。


「【水仙(すいせん)】」

「『ダイヤモンド・スピア』ぁっ!」


 衝突を起こした。





 ハルは、今度は見逃さなかった──友人(ダイヤ)の勇姿を。


 このモデラの闘技場において、ダイヤが放った『必殺技』を。

 ダイヤが振り下ろした剣、少年の胴体ほどの全身が。

 その『長さ』ごと──いくみへと伸びていった、瞬間を。


 その剣技、いや──『メトリア』は!

超個人的・那珂乃メモ:

自発的にメトリアを用いた技名・詠唱は【】で囲う。

それ以外の技名・用語系は『』で囲う。読者の皆さまもご参考までに。

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